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タクトさんは探偵さん(仮)  作者: 山の上の本屋さん
第1章『吉柳探偵事務所編』
6/9

File.2-2「リバイブ地下研究所」

◇◇◇


花音が目を覚ますとそこは無機質な白い壁で囲まれた部屋だった。

家具類はベッドのみ、窓もない。扉は外側から鍵をかけて内側から開けることは出来ない。

これではあからさまな牢屋だ。

どうやらあの魔法陣はここに転送するためだけのものだったようだ。


とりあえず花音は起き上がる。

銃鬼に突き飛ばされた時にぶつけた背中と、この牢屋に飛ばされた時にぶつけた肩が痛む。

ふと視線を床に移すとすぐそばで銃鬼が寝ていた。

多分、花音を抱えたまま落下したので花音の下敷きとなり、衝撃が強かったため、正確には気絶しているのだろう。

「あれ? これってチャンスなのでは……」

銃鬼は気絶、素顔を見るには絶好のチャンスだ。

銃鬼の仮面に手を伸ばす。

額から汗がとめどなく出てくる。

「……いや、何でこんな緊張してるんですか」

一旦深呼吸。冷静になって銃鬼の仮面を外す。

しかし、その下には何も無かった。

「なるほど、俺の素顔を見たいがために今回の依頼に付いてきたわけでしたか」

突如後ろから銃鬼が話しかけてきた。

どうやら銃鬼がパーカーと仮面をそのままにして花音の後ろに一瞬にして回り込んだようだ。

図星を指された花音は振り返らずに話す。

「人の背後に回るのが得意ですね銃鬼さん。

それと、やっぱりわかっちゃいましたか?」

「えぇ花音さんがさほど賢くないという事もわかりました。

わざわざ顔を見るためだけにこんな危険な真似をするだなんて」

銃鬼の口調は完全に呆れているそれだ。

「そんなに見たいなら言えば見せましたよ」

「え!? 頼んだら見せてくれたんですか?」

銃鬼の思わぬ言葉に花音は驚いて振り返る。


そこには城崎 悠(しろさき ゆう)が壁に寄りかかっていた。

肩まで伸びた長髪を後ろの方で束ねた髪型。

銀縁の眼鏡。その下には物腰やわらかそうな瞳――今は不機嫌そうだが――がある。

タクト同様整った顔立ち。


「え? 銃鬼さんって城崎君だったんですか?」

「花音さん、逆に二人転校生がいて二人とも無関係なんてことあると思いますか?」

「可能性はあります」

銃鬼は少しため息をつくと

「まぁとにかく今は状況確認しましょう。

おそらくここは例の地下研究所でしょう。となるとアイの助けに頼ることも難しいですね。

システムに接続できれば俺がハッキングして抜け出すことも出来るのですが見ての通り何も無い部屋ですからね」

「どうするんですか? このまま黙っているだけですか?」

「そうですね。方法が見つかりません」

至極あっさりと銃鬼は諦めた。

そんな銃鬼に花音も呆れる。


◇◇◇


「ところで、銃鬼さん。『闇憑き』って実際のところ何なんですか?」

白い部屋に飛ばされてから1時間。

部屋中を詮索していた花音だったが意味が無いことにようやく気づきベッドの上に寝そべっている銃鬼に聞いた。

銃鬼は起き上がって花音の方を向く。

「質問の意図がいまいち掴めないのですが」

「いや、今まで流れに任せてましたけど考えてみると闇憑きっていったい何なのだろうと」


花音の言葉に銃鬼はしばらく考えた後、

「そうですねぇ。そもそも『闇』というもの自体謎が多いですからね。

だから闇憑きが何なのか聞かれても答えにくいと言いますか、答えられないと言いますか……。

一つ言えるとしたら少なくとも闇憑きになってしまった人間は幸せにはなりません。必ず不幸が訪れます」

確信を持った言い方に花音は少し戸惑う。

とりあえず説明できると思われることを聞くことにした。

「それじゃあ、銃鬼さんがあの社長っぽい人に言ってた『特殊系』っていうのはどういう意味です?」

「それについては説明できますね。


まず『闇』の能力について簡単に二つに分けることが出来ます。

一つは『特殊系』。

これはタクト君や先日の羽鳥大丸の〈狂気の病巣インサニティ・ニーダス〉が分類されますね。

特殊系は言わば魔法のようなものです。

そしてタクト君の能力は魔法陣を使った、特殊系の中でも割と上位に位置づけられる強力な闇です。


もう一つが『武装系』。

これは俺の能力のように闇憑き本体が武装し扱う能力です。

剣や銃は勿論、身体強化も武装系に分類されます。

こちらは比較的扱いやすく、絶対的な破壊力も持ち合わせています」

「となると武装系の方が強かったりするのですか?」

「いいえ。花音さんも先日の事件でご存知の通り、『闇』にはそれぞれ力の特徴に圧倒的な違いがあり、それを操る闇憑きのポテンシャルこそ闇の能力の強さに直結しているのです。

何故かは知りませんがタクト君の能力は特殊系と武装系、どちらも兼ね備えているんですよね。

通常、特殊系の中でも魔法陣を操る系統の闇憑きは生身のはずなんですよ。

まぁタクト君の闇については後で話すことにしましょう」

だんだん授業を受けている気分になってきた花音。


銃鬼は続ける。

「ちなみに、先日の事件でタクト君が言っていた『悪魔に魂を売っただけ』という言葉は間違いではありません。

圧倒的な力というのはその分代償も大きいのです。

先程言った『不幸になる』というのも当てはまります。

一人の人間が闇憑きに覚醒する際、その人にとって身近な人が誰か少なくとも一人、死にます」

銃鬼から発せられたその言葉に花音の身体には一瞬で緊張が走る。

「人が死ぬって穏やかではないですね」

「花音さん、闇憑きなんてものは所詮人殺しの末路です。

俺は少なくとも二人殺してます。直接的にではなくとも、俺が闇憑きに覚醒したために犠牲になりました。

大切な人の犠牲の上で俺はこの力を手にしています」

銃鬼の言葉には多少の怒りがこもっている。

恐らく自分に対する怒りなのだろう。

「あ、すみません。お気を使わせる様な態度をとってしまいましたね」

「あぁいえ、気にしないでください」

重くなった空気を何とかしようと、花音は話題を変えることにする。

「えっと……それじゃあタクトさんは何で私を仲間に入れることを了承してくれたんですかね?」

「それを俺に聞くんですか」

いきなり別の話題に移ったのと予想外の質問で銃鬼は一瞬戸惑う。

「だってなんか随分とあっさりと了承してくれたので逆に私が不安になるんですよ。

それにタクトさんのあの言葉『俺が戦う理由はこの身体を殺すためー』ってどう考えても嘘臭いじゃないですか」

タクトの声真似をしているつもりなのだろうが全然似てない。

しかしそんな事は気にせず銃鬼は話す。

「そうですねぇ。まぁ確かにタクト君が戦う理由として言った言葉、あれは間違いなく嘘ですよ。

俺も本当の理由は知りませんが多分記憶を取り戻すためだと思いますよ」

銃鬼の言葉に花音は一瞬理解が追いつかない。

「え、どういう意味です?」

「そのままの意味ですよ。タクト君は闇憑きになる前の記憶がありません。 なのでタクト君自身、何故自分が闇憑きになったのか知らないんです。

ここからは俺の推測ですがタクト君は戦いのうちに自分の記憶を取り戻す手がかりを探していると思われます」

「なるほど……。それじゃあ私を仲間に入れることをあっさり了承してくれた理由も分かりませんか?」

「むしろこちらが聞きたいですね。

何故タクト君はあなたのような危険人物を仲間に引き入れたのか、ホントに謎です」

銃鬼に初めて皮肉を言われたがなかなかのえげつなさ。

ぐうの音も出ない。

「まぁ実際この状況のほとんど私によってですからね」

自分で言っといて心にグサリと刺さる。


「そう言えば花音さん。ここに飛ばされてからどれくらい時間が経ちましたか?」

突然話題の変わる質問をされたので花音は一瞬反応に遅れる。

なるほど、いきなり話題を変えられると確かにちょっと困るものだ。

しかしすぐに腕時計を確認する。

「えっと……大体一時間半ですね」

「なるほど。となるとそろそろですね」

そう言うと銃鬼は立ち上がり入口の方へと歩いていく。

そして入口の前に来て花音の方を振り向く。


「それでは花音さん。ここから脱出しましょう」


◇◇◇


銃鬼は義手である左手を入口に当てる。

「厚さはおよそ35センチ、コンクリート製で補強済み。硬度は……さほど頑丈でもありませんね。

構造的に内部からの衝撃の方が有効そうです」

左手を離すと膝のホコリを払って立ち上がる。

花音は銃鬼が何をしているのかさっぱり分からずその一連の動きをただ見るだけだった。

「さて花音さん。これから脱出のためにこの壁を爆破します。

その際破片が飛び散ると危険ですのでまずは花音さんを守るための盾となるものを用意しましょう」

「しかし銃鬼さん、ここには何もありませんよ?」

今花音たちがいるのは無機質な白い壁で囲まれた部屋。家具類はベッドのみ。窓もなし。

「……ん? ベッド?」

「えぇ、このベッドがちょうどいいでしょう」

「しかしこんな大きなベッドどうやって動かすんですか? 大分重いと思いますけど」

一人用サイズだが少なくとも大人の男二人でないと持てないようなベッドである。

すると銃鬼は左手を胸に当て自信満々を表すポーズをとる。

何か……ホントに愛と似ている。

いや、愛が銃鬼を真似てるのか、この場合。

「ご心配なく。この程度なら片手で足ります」

自信満々な表情のまま銃鬼は左手でベッドを掴む。

そしてそのまま軽々と持ち上げて横広に立てて置く。

流石にこれくらいでは驚かなくなった花音。

本音を言うとただ驚くことに疲れただけだが。

「銃鬼さんのその義手凄いんですね。

軽々と持ち上げちゃうなんて」

「まぁ自動車一台位までなら持てますよ」

「自動車一台!?」

これにはかなり驚く花音。

自動車の重量は物によって異なるが少なくとも1トンはある。

「凄いですね……ホントに」

驚きを超えて最早感心の域に達する。

「それでは、花音さんはこの後ろに居てください」

「しかし銃鬼さん。一体どうやって爆破するんですか? またあの時の鉄柱でも使うんですか?」

「いえ、あの時に全部使ってしまったので別の方法です」

そう言って銃鬼は左手から小さな試験管を取り出す。

中には半透明な液体が入っていてしっかりとゴム栓で密閉されている。

「これは俺が生成したニトログリセリンに似た爆発物です。

しかしニトログリセリンのように少しの衝撃で爆発したりはしません。

そんなもの持ってたら常に爆破しますからね」

「それじゃあ、その液体はどうやったら爆発するんですか?」

「簡単です。

まずはあの壁に小さな穴を開けます。そしてそこにこの液体を流し込みます。

30秒程で流し込んだところから半径30センチの範囲に液体が染み渡ります。

あとは簡単、ほんの小さな衝撃を与えるだけで壁が爆破します」

「ほとんどニトログリセリンと変わらないじゃないですか……」

花音のツッコミを無視し、銃鬼は壁の方へと歩く。

壁の前に着くと左手の人差し指を立てる。すると指先から小さなドリルが出て、壁に長径1センチの小さな穴を開けた。

銃鬼はそのまま先程言った通りの動作を行う。

そして30秒後。

銃鬼は例の仮面をかけ直してから話す。

「さて花音さん。これからあなたにしてもらいたいことを話しておきます」

「また何かしなきゃいけないんですか?」

花音はもううんざりと言った感じに尋ねる。

「当たり前です。当初の予定では本来終わってたのに花音さんが余計な事をするからですよ」

それを言われてしまってはもはや花音に反論は許されない。

「でも何故です? あとは銃鬼さん一人でも大丈夫じゃないんですか?」

「そうはいかないんですよ。

多分ここまで深く関わってしまうと脱出の際に戦闘は避けられないでしょう。

まぁ警備員程度なら俺一人で足止めは可能です。

それで花音さんにはこれを愛の本体まで届けて貰いたいんです」

そう言うと銃鬼は左手から一台のタブレット端末とUSBコネクターを取り出した。

「愛の背中を撫でると基盤が出てきます。

あとはそこにこの端末から愛のデータをダウンロードさせれば愛は起動できます」

「あれ? でも銃鬼さん。

愛ちゃんの本体というか身体はどこにあるんですか?」

「それは花音さんが知ってるはずですよ。

だって花音さんが清掃作業員として潜入してた時に押してたあのカートの中に入ってるのですから」

「え!? あの中に愛ちゃんがいたんですか!?」

花音は急いで記憶を探る。愛の本体をどこに置いたか記憶の中で探す。

「あの、花音さん。もしかして忘れてますか? どこに置いたか」

「へ!? いやいやいやいや。そ、そそそそそんな訳なないじゃないですか」

「凄まじい勢いで泳ぎまくってる目で言われても説得力ありませんよ……」

銃鬼は呆れ果てた目で花音を見る。

ただでさえ現状を作り出したのにプラスして、ここまで役立たずになってしまうとそろそろ立場が危うくなってくるように感じる花音。

記憶の中で急いで探す。

「思い出しました! 非常階段の所に置いているのでした。

資料室から社長室に移動する際置いてきてたんでした」

「……まぁいいでしょう。

それでは花音さん、よろしく頼みますよ」

「了解です」

軽く敬礼する花音。

しかし銃鬼はそれを無視して壁を人差し指で弾く。

床を粉砕した鉄柱よりも強大な爆発音と衝撃が起きた。

「さて、それでは依頼完了といきますか」

爆破によって出来た穴から銃鬼が出てきながら言った。


◇◇◇


花音と銃鬼がいたのは銃鬼の予想通り地下の研究所だった。

銃鬼が壁を破壊した後は予定通り白い部屋へ駆けつけた警備員達を銃鬼が相手し、花音は愛の本体がある非常階段の所に向かうために地下研究所の出口を探し廊下を走っていた。

大勢の警備員に追われながら。

「早速見つかっちゃったじゃないですかーーーー!!

銃鬼さんが足止めしてるはずじゃなかったんですか?」

花音は無線で銃鬼に抗議する。

『仕方ないじゃないですか。俺が足止めできるのは部屋に集まった警備員だけ。

何もそこに全員が来る訳では無いんですから。

それでは忙しいので切りますね』

言い終わるが早いか通信が切られた。


花音は白で統一された廊下をただ真っ直ぐに一台のタブレット端末を抱えて走る。

今まさに花音は後悔の真っ只中にいる。

今回の依頼に付いてきてしまったことに、これ以上ないほど後悔している。

「誰か助けてくださーい!」

花音の悲痛な叫びが届いたのかいきなり後ろから足音がしなくなった。


無線に通信が入る。

花音が出ると

『大丈夫ですか、花音さん?』

「愛ちゃん!? でも何でここは地下研究所でしょ? 愛ちゃんは干渉できなかったんでしょ?」

『そうですよ。でも()()()()()()()()()()()()()()ですけど』

「へ?」

気付くとそこは白い廊下ではなく目の前には階段があった。

後ろを向くとそこには壁しかない。

「あれ? これってどういう事です?」

『仕組みとしては探偵事務所と似たようなものですね。

出入口にあの人の転送用魔法陣を置いておいて実際の空間と別の空間を繋げてるのでしょう』

「となるとあとは愛ちゃんの身体にこの端末の中に入ってる愛ちゃんのデータをダウンロードさせれば……」

そこまで言って一つ疑問が残る花音。

「あれ? そ言えばデータをダウンロードした後今私と話してる愛ちゃんはどうなるの?」

『あぁなるほど。簡単に言えば私の意思はネットワーク上で繋がってるので通信を行うことによってその端末経由でダウンロード出来るのです』

「つまり何も問題はないんですね。それなら良かった」


「いや、問題大ありだな。今回の依頼は受けるべきじゃなかった」

突如上から誰かが話してきた。

花音が驚いて階段の上の方を見るとタクトが降りてきていた。

「タクトさん。何でここにいるんですか? 潜入捜査は苦手だって」

「そう。潜入捜査は苦手だ。だけど戦闘も入るっつーなら――」

タクトはソフトハットの位置を整えて言った。

「俺の担当だ」


◇◇◇


「ハァ……。疲れた」

伸ばした警備員達の山の上で銃鬼はため息をつく。

「全員同じレベルの力とはいえ如何せん数が多すぎましたね。

しかし、愛を危険な目に合わせる訳にはいかないし、さっさと行かないと。

それにしても……」

警備員達を見て銃鬼は呟く。

「今回はタクト君を呼ばない方が良かったかもな……」


◇◇◇


「さて鈴音(すずのね)さん。俺はこれから社長室に行く。

鈴音さんは銃鬼のところに行ってくれ」

「分かりましたけど……。えっとその……警備員さんたちはどうすれば? 私一人じゃ切り抜けられませんよ?」

愛の身体を見つけ、データを移す間にタクトから次の指示を受ける花音。

「大丈夫だ。愛にも戦闘能力はある訳だからな。

それに銃鬼のサポートとして愛は必要になるからな」

「なるほど。分かりました」

しかし自分よりも幼い愛にさえ戦闘能力があっては自分が惨めになってくる花音。

なるべく警備員達には遭遇したくないと心の中で呟く。

「あれ?でもタクトさん、どうやって地下研究所に行けばいいんですか?

私行く手段がないのですが」

「それなら大丈夫。さっき転送用の魔法陣を出したままにしてきたから。

それと、俺の空間製作でこのビル全体――地下研究所も含めて――別空間にしてるからどんなに暴れても心配無いし闇憑き以外の人間は入れないようになってるから警備員とも遭遇しないと思うぞ」

余裕綽々と話すタクトを見て花音は安心する。

「それじゃ、頼んだ」

そう言ってタクトは階段を駆け上っていく。


◇◇◇


タクトの言っていた通り花音は誰にも会わずに地下研究所に再び潜入。そして銃鬼を探す。

後ろを見る。

愛が一笑懸命子犬のように走りながらついてくる。

(かわいい……)

自然と口角が上がってくる。

「花音さん。またヨダレ垂れてますよ」

ビックリして前を向くと銃鬼が呆れ顔をして立っていた。

「あれ? 銃鬼さん何でここに」

花音はまたもや慌てふためいてしまう。

「重要機材やら何やら、とにかく研究室と言える部屋を探しているんですよ。

しかしかなり広いですねこの施設。全く見つかりませんよ」

頭を掻きながら銃鬼は話す。

「まぁ愛が来てくれたらそれなりに見つけやすくなるで――」

銃鬼が言い終える前に床が開いた。

「へ?」素っ頓狂な声の花音。

「あれ?」不思議そうに愛。

「マズイですね」相変わらず落ち着いた感じの銃鬼。

しかし落ち着けるわけがない。

そのまま三人は穴に落ちる。

「うわあぁぁぁぁ!!」


◇◇◇


「ハァハァ……階段多すぎるだろ」

最上階までの非常階段を上るタクト。

最初は余裕な感じで軽々と上っていたが思いの外高すぎた。

そしてやっと最上階に到着。

花音に教えてもらったルートを通って社長室に向かう。

ドアを開け、中に入る。

「邪魔するぜ、薬師寺 慶介(やくしじ けいすけ)


薬師寺は椅子を回転させタクトと向き合う。

「待っていたよ。〈殺し屋探偵ホームズ〉くん。

君の仲間を助けに来たのかな?」

「いや、銃鬼も鈴音さんも無事だとわかってるから別にそっちは気にしてない。

ただ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

そこで薬師寺は「フフッ」と軽く笑う。

「やはりバレていたか。まぁ所詮東堂もその程度という事か」

「おいおい、薬師寺 慶介。それが()()()()()に対して言うことかよ」

皮肉っぽい口調でタクトは薬師寺を茶化す。

しかし突如真剣な顔つきで聞く。

「まぁそっちの問題はどうでもいいけど一つ気になるのはどうして俺を狙っている」

「簡単な話だ。()()()()()()()()()()()()()()()()だよ」

「なるほど、至極簡単な話だな」

「あぁとてもわかりやすいだろう? それでは――」


「死んでくれ、〈ホームズ〉」


発砲音。そして訪れる静寂。


◇◇◇


穴の中を滑り落ちる三人。しかし出口はすぐだった。

愛と銃鬼は華麗な着地を決めたが花音は尻餅をついてしまう。

「あ痛たた……。全く今日だけでもう三回は体の色んなところをぶつけてますよ」

腰を摩りながら花音は立ち上がる。

「花音さん、愛。どうやら目当ての場所に着いたようです」

緊張のこもった銃鬼の声を聞き、花音は顔を上げる。

するとそこはひときわ巨大な部屋。否、ラボだった。

そして花音たちの目に止まったものは壁にあった()()


カプセルのような物が所狭しと置かれ、中には東堂 純哉がいる。

「銃鬼さん。これってもしかして」

花音の聞きたいことが分かったのか銃鬼が同意とともに話す。

「えぇそうですね。東堂 純哉、あの人はクローンを生み出していたようです。

多分薬師寺 慶介も東堂のクローンでしょう」

「一体何故こんなことを……」

「多分、最初は社員達を実験体に使っていたのかと思われます。

それで社員の連続失踪や噂のせいで警察による立ち入り捜査が行われたことによって動きにくくなったあの人は、クローンを生み出すことにした、と言った感じですかね。

実際、この地下研究所の警備員は全員東堂純哉のクローンだった訳ですし」

「そんなの……身勝手すぎます」

花音が少し怒りを露わにしている。

「えぇその通りですね。だからこそ止めさせないと……」

すると愛が突然何かを見つけたのか二人に知らせる。

ご主人(マスター)、花音さん。部屋の奥にドアがあります。多分マスタールームだと思います」

銃鬼は左手を銃へと変形させドアの前に立つ。

そして銃鬼がドアを蹴破り三人が部屋の中に入ると


目の前には赤く血染められた空間が広がっていた。


◇◇◇


「残念だが拳銃ごときじゃ俺は殺せないぜ」

タクトは自身の顔の目の前で握っていた拳を開く。

すると中から一発の弾丸が重力にならって落下、そのまま床で何回か弾む。

だが薬師寺はそれを見ても何も変化はない。

分かりきっていたかのように。

「あぁ確かに。拳銃ごときでは化物は殺せない。

化物を殺せるのは化物だけだ」

すると今度は一本の注射器を取り出し自身の頚動脈に刺した。

中に入っていた薬物が薬師寺の血管を伝って全身が広がる。

身体のあちこちの筋肉は膨張し血管が浮かび上がる。


「それでは本物の殺し合いを始めよう」


◇◇◇


「…………」

「…………」

「…………」

血の酸化した匂いが部屋中を満たしている。

匂いだけではない。あちこちに東堂純哉の一部だった物が落ちている。

ここで何があったのかは一目瞭然。

しかし一体誰が何のために。

そんな疑問が三人の頭の中を巡っている時、

「よく来たな。〈殺し屋探偵ホームズ〉の仲間達よ


――なんちゃって」


その言葉と同時に椅子が独りでに回転し銃鬼達の方へと向く。


そこには中学生ぐらいの背の低い男の子が東堂純哉の首を抱き抱えるようにあぐらをかいて座っていた。

「……!?」

銃鬼が素早く反応し少年に向け発砲。しかし少年は体を捻ることでそれを簡単に躱す。

そして軽い調子で話す。

「おいおい、いきなり撃つことないじゃないかよ。

この頭が吹っ飛んじまったら俺がお話できないじゃんかよー」

少年は口を動かしていない。話しているのは東堂純哉の首だった。

見ると少年の左手の指がザックリと東堂の頭を突き刺している。

「君、一体何者なんだ」

銃鬼の問いかけに対し、少年は不気味な笑みを浮かべると

「僕に名は無い。しかし、あえて記号としての名前を言うのなら


僕の名は斬翔(キリ)。この男を殺しに来た。


そして邪魔になったからキミたちも殺す」

その言葉と同時に無数のナイフが花音たちに向け飛んできた。


◇◇◇


「フフフ……私は東堂純哉のクローンの中でも特に強い潜在能力を持っていた。その証拠がこの見た目の違いだ。

奴は黒髪、しかし私はこの美しく輝く銀色の髪」

薬師寺は素早い動きで部屋中を駆け回っている。

薬師寺の話に対しタクトは余裕そうにヤジを飛ばす。

「どっちかって言うと白じゃねぇか。それで何だったら劣化したようにしか見えねぇぞ、その髪色」

しかしそんなタクトの言葉にも薬師寺は鼻で笑うだけで続ける。

「フッ。この私の素晴らしさを知らないとはやはり所詮は若造だな。

だが、君の持っている能力(ちから)は強力なもので興味深い。

君を殺すことが出来ればその力は私に譲ると契約にはあった。

だからキミの脳と血液は貰う。そのためには脊髄を引き抜くのが一番手っとり早い」

そして薬師寺はタクトの後ろの方でタクトに向けて壁を思い切り蹴る。


「その首、()ったあぁぁぁ!」


薬師寺の左手がタクトの首を捉えた。


◇◇◇


赤く血染められた部屋の床に新しい生暖かい血が落ちる。

花音と愛を庇う形で銃鬼が全てのナイフをその身で受け止めていた。

「ここまで大量に刺さると流石に痛いですね……」

相変わらず落ち着いた雰囲気で銃鬼は話す。

しかし出血は依然として収まることはない。

斬翔は不気味な笑みを浮かべたまま話す。

「へー、かっこいいじゃんかっこいいじゃん。

女の子二人を守るために重傷を負うなんて、まるで漫画の主人公みたいじゃん。

でも、実際そんなことしたら死ぬに決まってんじゃんバーカ!

そんなに死にたいのならアンタを最初に殺してその後はそっちの眼鏡っ娘。次はそこのちっちゃい娘を思いっきり楽しみながら殺してやるよ」

ナイフの切っ先を銃鬼、花音、愛の順番で向け斬翔は今までで一番気味の悪い笑みを浮かべる。

だが銃鬼は二人を庇った状態のまま斬翔を睨みつける。

そんな銃鬼の目を見て斬翔は不愉快そうに言う。

「何その目。マジムカつくんだけど。

なになに? アンタそんなにこの二人が大切なの?

チョーウケるんですけど。だったらやっぱアンタを一番最後に殺すことにするよ。

アンタの目の前でー、その女の子二人にー、楽しませてもらいながらー、殺すことにさせてもらいまーす。

そのためにまずはアンタが無駄な抵抗できないように脚を、切り落とさせてもらうよ」

その言葉と共にまたもや無数のナイフが今度は銃鬼の脚めがけて飛ばされた。

「銃鬼さん!」

ご主人様(マスター)!」

だがそれらは全て銃鬼の脚に当たることは無かった。

すんでのところで銃鬼の右腕がナイフ全てを弾いた。

「愛、最初に言っておきます」

そして花音は初めて銃鬼の優しさのない声を聞いた。


「能力は使うな」


「コイツは俺が殺す」

斬翔は相変わらず嫌みったらしい笑みを浮かぺている。

「何々何々? 僕を殺すって?

アンタ今の自分の状態鏡で見てみろよ。

笑えるぐらいボロボロじゃねえか。

僕を殺す前にアンタが死にそうじゃねえか。

まぁそんなに死にたいってんなら殺してやるよ!」

「俺を甘く見るなよ、キリ君。戦闘担当はタクト君だけじゃないってこと今から見せてやるよ」

そう言うと銃鬼の体を黒い霧のような物が包み込む。

「何かヤベェ。だったらその前に殺しときましょうってか!」

再度銃鬼に向け無数のナイフが投げられる。

しかしナイフが霧の中に入っても何も音はしない。

すると眩い金色の光と共に霧の中から銃鬼が出てきた。

振りかぶっていた右手で斬翔を殴る。

すんでのところで斬翔は防御をとったが殴られた衝撃に耐えきれず後方へと吹っ飛ばされる。

壁に穴を開け、隣の戦闘スペースとしては最適な大きな部屋の床に着地した。

「痛ってて……。何なんだアイツ。

何でいきなりあんなに強くなった」

土煙の中から銃鬼が歩きながら話す。

「教えてやるよ。これが俺の能力――」

そして、土煙が晴れ銃鬼が姿を現す。


「『不屈の王心(ライオン・ハート)』だ」

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