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インサイド  作者: 成神全吾
ノンペル/クエスト
9/57

シュトゾン『0』

瞼がゆっくりと距離を空ける。

感覚で分かる。多分本日三度目の目覚めだ。


そう言えばさっき電気ショックを喰らってまた意識が遠のいて……今回は違って体の節々が固定されたような感覚。硬い地面に何時間も放置されたような、そんな感覚だ。


身を起こしてみると、やっぱりその比喩表現は合っていた。


赤基調のまるで西洋貴族が好みそうなゴシックロリータファッションな部屋。

でかい本棚、変なものが入っているカプセル、山積みファイルが無造作に置いてある机。

そして隣にヨーロピアンスタイルの天蓋付きのベッド。


書斎と寝室とが一体となって………有香二本とかファイルとかカプセルが散乱して、本当に散らかっているとても汚らしい部屋だ。

その部屋の床に布団どころかタオルケットもかけられず人形のように放置されてたという状況だ。



「ベッドがあんのに何でその真横で寝てんだよ。俺は買って数回触れて放置のギターかっつーの」



天蓋のベッドに近づく。何か変なふくらみがあるな。


本当に何となく、怒りに身を任せて少々膨らんだ布団を思いっきり捲りあげる。



「………」



流れだった。流れ作業のように無意識に体が動いた結果だった。


膨らみがあるのを承知で布団を捲った。

誰かがいることは明白だった。

それでもなお直情に身を任せて、布団を羽ばたかせるようにひん剥くと。尖った姿の彼女がいた。


体を猫のように丸め、いい旅夢気分にかわいくお腹の上下運動。

さすがにメガネと白衣、スカートは外しているがボディスーツは着ていて仕事帰りか学校帰りに速攻で就寝したかのような状態だ。


スカートが無くしただけで先ほどの何倍もの尖った姿になれるなんて、これは一種の才能としか言いようがない。



「面妖だな………決めた。こいつのあだ名はトガ子だ」



見た目だけで有害とわかる彼女に今一度布団を掛けなおして視界からシャットアウト。

今一度周りを見渡す。

ここにハートアスはいない。

と言うより寝ている彼女以外誰もいない。


逃げる絶好のチャンスだ。


しかしだ。見渡して分かったのだが今現時刻は知らないがこの部屋には人工的な光しかない。

つまり扉どころか窓すらない。

出入りできる『穴』が無いのだ。


足元の本や資料を押しのけ前に進む。

あからさまに怪しい壁。他は全て本棚や資料棚などで壁の隙間も見えないのにここだけが露出している。


本当に、白々しいほどあからさまに怪しい壁だ。


とりあえず叩いてみる。

ゴンゴンゴン………中身の詰まっている音だ。向こう側が空洞である音じゃない。


今一度入念に。指を走らせ柔肌を撫でるように壁を調べる。

秘密のスイッチとか回転式扉とか、そんなカラクリ要素を信じて指を這わせるも何もない。



「ハートアスもいない。トガ子も寝てる。逃げるには絶好の状況なのに………もっとベタに本棚の裏に隠し扉とかか」

「残念だけどそんなアナログな仕掛けじゃないのよね」



その声に身体が跳ねる。ルールビィが起きた。自然と体を反転させて壁に預ける。


マズイ。逃亡しようとしていたところを目撃された。

もしまたハートアスの前に連れて行かれるかもと思うと自然と冷や汗生唾武者震いと言う名のトラウマが浮かび上がる。



「結構寝たなぁ。ゲェーェ、もう三時………寝過ぎたわね」



相対的にだらけきってのマイペースなルールビィ。


寝坊をしたような口ぶりだがルールビィは横着にもベッドから身体を回して転げ落ちる。

その様は焦りの一文字もない。むしろ流麗に余裕のある体運びだ。



「昨日そのまま寝ちゃったしなぁ………とりあえずさっぱりしよ」



 独り言か、ルールビィは指輪を回してまたしてもホログラム状のキューブを出した。一回二回と捩じると暗い空間に一際目立つ目に優しくない混濁した色の『穴』が出現する。


その光景に言葉を失う。



「それじゃあ、アンタはここで大人しくしてなさいね」



立ち上がり、『穴』に入っていくがおめおめと見送るなんてするはずがない。



「そこが出口かぁアアアアアアア!」



ルールビィが入った直後。次第に萎む『穴』に身体ごと突っ込みラグビーのトライのように着地する。


しかしそこは出口と言えない。

むしろ今ここに存在するべき空間ではなく危険信号を孕む。

上下左右を殺しにかかってくる目が痛くなるような迷彩の光の部屋。

どこからどう見ても部屋の外ではない。


置いてあるものは………浴槽に洗面器、洗面台にその他諸々の備品。


ユニットバスだ、ここ。



「気持ちわるい空間だな……ん?」

「ん? ウゲェ。何でアンタまで来たのよ……まあ、いいわ。やっとひと段落ついたんだし、ここで色々質問とか、話してあげる」

 


ルールビィはおもむろに尖った姿の要であるボディスーツに手をかけ脱ぎ始めた。と言うより一瞬で全裸になった。



「………」

「何よ。その何か言いたげな目」

「いや、男の前で堂々と着替えられるんだって思ってさぁ」



異性に恥部を晒してもお構いなしな性格と言うより、恥や外聞? もっと見られることに抵抗を覚えた方がいいんじゃないかと思うほどの堂々ぶりだ。



「何でモルモット相手にいちいち恥辱感じなきゃいけないのよ。私はアンタの理想像に付き合ってあげるほど優しくないわ」



つまり、男どころか人として見られてるかも怪しいという事か。

ちなみに優しくないことは知ってた。



「あ、それとも。アンタが私に欲情してるってわけ? ハハーン。私はアダルトすぎるからねぃ~」

「………上半身は平均以下。でも下半身は結構いい線言ってると思うよ。とくに股ぐらのつるてんっぷりが色々をゴン!?」



顔面に石鹸が飛んできた。

痛い。鼻っ柱に当たったから思い切り体が仰け反ってしまった。



「ヒトの気にしてることを言うんじゃないわよ」

「わ、悪い………じゃない! 何俺は仲良しこよし殺伐にトガ子と会話してるんだ」



考えてみればこの異空間(?)には今二人しかいない。

ここで男の腕力と言う名の武力を行使し全裸のルールビィを拘束して恥辱の極みを施せばあの生意気な口を塞いで主導権をこちらに移せるんじゃないのだろうか。


口元が綻ぶ。

できる。

できるとジリジリとにじり寄ろうとしたが、首から流れる電流に奇声を上げながら倒れ伏せる。



「あ、ばば……!?」

「ホントに盛ってんじゃないわよ」



ルールビィはゆったりと浴槽に浸かる。

本当に無人の野を往くが如く彼女はこちらにお構いなしだった。


ビリビリと痙攣するからだが湿気を拒む。

お風呂特有のむあったした空気が肌にしみこんでくる。



「か、体が………何なんだよここは! お前らは! 何なんだよ! 俺は家に帰りたいんだよ! 大体、訳わかんねぇんだよ!」



エレベーターで冷静根と言われたがそんなわけが無い。


今までの理不尽をすべて吐き出す様に、鬱憤を晴らす様に吐き散らす。



「いきなり手術室で全裸! お医者さんごっこ状態で死にかけて、ここは地球じゃない。変なおっさんに口説かれて起きたらヨーロピアンな部屋に遺棄されてて最後は異次元空間みたいな場所に連れてかれる!」

「ここにはアンタが自分で入って来たんじゃない」

「うるせぇ! これが叫ばずにいられるかって話なんだよ! ん!?」

「だから、零壱(ラヴワン)ゲートに入って来たのはアンタでしょ」

「零壱ゲートって言われてもわかんねぇよ!」



息を荒らして怒髪天に言葉を吐く。目の前の人物は悪だ。どれだけ腐ったことを言っても悪にならない。背徳心も罪悪感も皆無。


我欲のみが脳内を闊歩する。



「………ねぇ一つ聞くけど。もしかしてアンタは私を『敵』だって認識してる?」



その問いに怪訝に眉をひそめた。


敵か味方の区別をするなら間違いなく前者に当たろう。

当たり前だ。地球を侵略するなんて画策を信じる信じない以前に、首に電流の流れる首輪をつけられたんだ。


怒りを回りくどく最大級の表現するなら頂の見えない山を見上げるかのごとくのメーターを突き破り、神槍のグングニルをその手に持ち、雁字搦めに縛り上げた状態で三日三晩咽先に突き付ける。その間水や食料など一切与えずに目の前で無慈悲にも肉を頬張りたまに頭の上に置いてやろうとも思えるほどの怒り具合だ。


もちろん敵だと言おうと思った。が、先に言葉を被せてきた。



「まあ敵だって認知されてもしかないのは分かってるわよ。だけど、アンタは私の話を聞く義務がある。二回生命の危機から助けてるんだから、少なくとも二回私の言うことに従ってもらうわよ」

「命の危機を、だぁ?」

「そ。一回目は解剖されそうだったアンタを私の登場で助けた。二回目はハートアスに詰められて最終的に解剖されそうだったのをここに連れてきて助けた。ほら。私は二回分命を救ってる」



少しの静寂と思考。助けられた事実は……確かにある。


しかし、



「前者は納得できるけど後者は納得できないな。じゃあ何か。俺はお前の何を従えばいいんだ」

「簡単なものよ。一つ目は『私が今からする話を信じる』こと。それが従うべき内容ね」



これはまた………ずいぶんと予想外な要求をしてきたものだ。


人体実験を施そうとした侵略者の願いが信じること。何とも道徳的だ。吐き気を催す程クソったれな詭弁だ。



「何を信じろってんだよ」

「私は……侵攻派じゃない」

「口頭じゃどっちかわかんねぇよ」

「侵略の侵攻派の最高権限者はハートアス。その双極の親交派。私は親交派最高権限者よ」

「………それが何なわけよ?」



『しんこう派』か『しんこう派』なんて、今突き付けられても不信感を拭い去る材料になんかなりはしない。



「そうね。じゃあとりあえず何か食べに行きましょ。アンタも何も食べてないでしょ。奢ってあげる」



話の腰を折るようにルールビィはホログラムの正方形立体を浮かびあげ、またしても空間に歪な穴が出現する。



「食べるって、どこに?」

「アンタが切望したお外によ」

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