モルモット『4』
「アンタらは、どっち派なんだ?」
そう、それを明らかにする必要がある。彼らに敵意があるのかどうか。
「………我々は侵攻派だ。そして私は侵攻派の総統。当面の目標は『地球人の精神的要素の把握』と『どのような生体構造をしているか』の人体実験だ」
ゾクンと、体は電流を流された時のように硬直する。
ここが地球じゃないとか、果ては星じゃないとかじゃない。
目の前の男の目は完全に人を見る目じゃなくなった。
恐怖を煽る目や冷たい目線とは正反対。
好奇心に満ち溢れた、最良のおもちゃを与えられたかのような目。ここで二つに分かれるよと分解することに何の罪悪感も感じない目だ。
「侵攻派で、俺を連れて来たってことは………地球を侵略するってか? 言っとっけど、俺をどうしようとも何も変わらねぇぞ」
「別に君ひとりでどうこう進展するとは思っていないさ。ただ、これは『研究者』としての性だ」
静かな空間に足を賭を響かせてハートアスがこちらに歩いてくる。
「誰も触れたことのない未知のものが目の前で息を吐いて怯えている。突いてみて出てきた言葉は『艶美』か。体内を見てみればそこは『宝箱』だ。それだけで『腹は満たされる』んだよ。結局のところ研究者は『大人になりそこなったガキ』の成れの果て。だから汚い大人には見えないものが見えて、より子供だと、とてもとても大切にされる。目の前の未知に喜んで踊り狂おう。新しいものが見えたらそれだけで脳内麻薬を垂れ流して絶頂できる。君は無いかい? 幼いころに何となく虫を捕まえてさ。それを何となく二つに割ったことは?」
その問いに声を出さずとも愛で答えを示す。
何かを察したのかハートアスはまたも雄弁に語る。
「それを大人になってやっても、何とも思わないのが、研究者としての究極の姿だと私は思うのだけど。君は私がそんな人に見えるのか、答えてくれないか」
その問いは答えたくなかった。いや、答えられなかった。
ハートアスの問いは彼自身が崇める思想に繋がり、イエス、ノーのクローズドの答えはそのまま彼自身を『肯定』することと『否定』することのどちらかに繋がる。
イエスは彼の存在を認め、自分が未知の存在であるモルモットと認識されるのを自覚してしまう。
ノーは彼の崇拝する思考の否定。そこからくる結果。否定による激怒、開き直り、暴挙。上げていくとキリがない惨状。
そしてイエスノーどちらにも言えることは、どちらを選んでも彼を止めることはできない。
誰も味方はいない。完全に孤立した状況。
状況を完全に把握するなど無理だ。だけど目の前の男、ハートアスの危険性は本能が鳴き声をあげて教えている。
奥でルールビィが悪い癖だと言っているようにため息をついて首を振っている。
勘違いしていた。良識のある知的な会話のできる人でなくとも、少なくとも大人だと認識していたのが間違いだった。
逃げないと。
窓に背中を預けていたが何のためらいも、恥も外聞もなく哀れに足を引っ張るように走り出すが首輪から流れる電流で言葉を発することもできずに倒れ伏せてしまった。
「………ヒドイなルビィ。人が実験している最中に横槍を入れるなんて」
「さっきも言ったでしょ。そいつは私のモルモット。この件は先に見つけた私が全部受け持つって。いくらパパだろうと、人の物を勝手に弄んないでよ」
「いいじゃないか。少しぐらい」
彼は子供の用に無邪気に笑う。
「今の会話で相手の恐怖心煽らせて、感情豊かな種族だってのはわかったでしょ。あとのことは全部私に任せてもらうから」
そう言ってルールビィに足首を掴まれて体全体を使って重そうに引いて部屋から出てた。
「あ、りがとうって、言うべき?」
「あ、そうだ」
ルールビィは扉からひょっこり顔を出し、ハートアスに忠告する。
「今度また勝手に私の家に来たら、許さないから」
「……反抗期?」
ルビィはまた扉を閉める。
そして廊下を重たそうに引きずられながらその場を離れていった。
次回、ハートアスから逃げることに成功したゴトーはカラーリテラを歩く。