クエスト『7』
アンペルに担ぎ上げられる形でカラーリテラの空を飛ぶがそれを黙って見ているわけはない。
「俺を捕まえたつもりか? 残念だけど、それはあり得ない、よ!」
俺の腹に顔をうずめている状態、つまりこっちに対して背中を向けている状態だ。
肘を高々と振り上げてアンペルの背中に突き刺す。それを何回も繰り返しアンペルにダメージを与えづづける。
「エルボーの嵐だ! 痛いだろう? いい加減放したらどうだ?」
「なら放すとしよう」
は? と声を漏らすとアンペルが背中に回してロックしていた両腕を外し、急停止する。
肝心の俺は慣性に逆らわず勢いをそのままにうしろ向きに撃ちだされる。
「うおぉお!?」
パリーンと響きのいい音と同時に身体に衝撃が走る。
身体が何回も回転し、置物を巻き込む感覚が体の各所を叩いてくる。
吹っ飛んでいた勢いが止まり、見てみると机を巻き込んでの横転のようだ。何とも情けのない恰好で横たわっていた。
どうやら建物のオフィスのガラスに突っ込んだようだ。
「ノンペル初日と同じ転び方だ……って同じ部屋じゃないか。ん? あ、アンタ! 初日の俺に机を壊されて握手した人! いやぁまさかまた会えるなんて……今回の机が壊れた原因は俺じゃないぞ。原因は違う奴にあるんだ。そう、あいつにあるんだ!」
叩き割られたガラスからスライドするように建物の中に侵入するアンペル。
空中で急ブレーキをしたと思えば両の手をこちらに翳して見えない何かをぶつけてくる。
フロアの人たちが逃げ出す中俺は両腕で顔の間を覆って見えない何かから身を守る。
「前々から思ってたけどお前は傲慢だよなぁノンペル」
「何がだよ? お前俺と話をしたいのか? うぉっ」
見えない何かを撃ちだしながら話は続く。
「お前は事件の現場に行って独断でかき乱して、解決したら『俺は当たり前のことをしただけ』と言って去るのが定型。あまりにも独善で傲慢な自警団気取りだ。お前は何様なんだろうな!」
止まることなき猛撃と同じくアンペルの言葉の攻めが耳を擽る。
「なんだ。そんなことか! そりゃそうだ。あんなもん自己満の塊だ! ただし! 親交派としての宣伝にはもってこいだった! 親交の意思を持つ謎のキャラクターが自警団気取って事件を解決する! それがルビィの目論見だった! 驚くぐらい歯車がかみ合わさって動いたな!」
「ルビィは変に計算高いからな。ことが上手くいって雲の上で高笑いしてる気分だったろう」
「ルビィって呼ぶんじゃねぇ! テメーはルビィの何だってんだよ!」
顔を覆っていた腕を開放し、手のひらから纏う空間を腕に纏わせる。
硬い空間との組み合わせでまさに不沈艦のごとく堅牢さを作り出す纏いの空間。
もう一度顔の前を覆い、見えない何かの猛攻を弾きながら猛進する。
アンペルの懐まで近づき、腕を掴んでオフィスの机に放り投げ、盛大な音を上げて机ごと倒れ込む。
「お前と初めて戦ったときからその見えない何かは何だと見続けた。空中に浮く力も含めて能力か何かかとも思ったけど、ルビィの目算ではスーツに付属した機能だろ? そして結論。お前は『空気』を扱うことができる。手のひらから撃ちだす見えない弾丸も、空中に身体を浮かすのも全部空気による浮力を利用しているんだろう!」
「……お前の空間ほど凶悪じゃあない」
机の瓦礫から立ち上がりまたしても撃ちだしてくる。
空気を撃ちだしているというのは分かったが、まさか俺が空間を扱っているのを知っていたとは思わなかった。
だが今はそれよりアンペルを叩きのめすのが先決だ。
同じように纏いの空間で眼前に壁を作りアンペルに近づく。
先ほどの再現だ。懐まで近づいたら腕を振り被り殴りにかかる。
しかしアンペルも同じように振り被り殴ろうとしてくる。大丈夫だ。このタイミングならこっちの拳の方が早く届く。
「あめぇよ」
アンペルの拳が急加速する。まるで押し出された拳は俺の拳の横を通り腹に突き刺さる。
肺の空気を吐き出しながら床を転がる。
「纏いの空間は確かに強力だが、纏ってない所はそのまんまだろうが」
アンペルのやつ。弱点を口にしてくるとは何て余裕だ。
おそらく肘に付属した空気の噴射口による超加速だ。
油断した。俺の空間の射出口は両掌と足の裏と肩甲骨部分の六ヶ所だけど、アンペルがそれに準じているという思い込みをしてしまった。
だけどそれ以上に気がかりなことが体に起こっていた。
「がはっ!? いっ……てぇ! 腹がイテェ!」
腹を通過した衝撃に身体がのたうち回る。
そう、痛みを感じたのだ。
何でだ? リバースジャケットには痛み止めの効果もあるはず……そうだ。思い出した。
ルビィが言っていた。痛み止めには限度があるからきちんと補給を怠らない事って。
「前……補充したのいつだっけ?」
非常にマズい。傷は治るけど痛みはそのまま。
痛みのせいで気絶することが以前にあった。
このままアンペルの猛攻を受けていると。
なんて考えている最中、アンペルが間近に来ていてジャンプからの踏みつけを行おうとしていた。
「おわぁっ!」
俺は間髪、刹那のタイミングで体を転がして攻撃を回避する。
痛み止めが機能しなくなった以上、肉弾戦はあまり好ましくない。
転がりながら立ち上がり、ぶち破ったガラスに向かう。
「ステージ変更だ! 俺たちにもっとふさわしいステージがある! ついて来い!」
俺はガラスから外に飛び降りる。
アンペルも続くように飛び降りる。
「なーんてな!」
アンペルが飛び降りた直後、すぐ下で待機していた俺は弾む空間で体を撃ちだしさっきアンペルがしてくれたどてっぱらへ強襲を今度は俺がし、そのまま上昇する。
上昇の最高到達地点にまで到達したと同時にアンペルを地面に向けて投げつけ、間髪入れずに空間矢をアンペルに向ける。
「この高度から射られたら、ただじゃすまないだろう!」
射られた空間矢はアンペルの腹に突き刺さり勢いを増して相当な高度から地面に叩きつけられる。




