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インサイド  作者: 成神全吾
ノンペル/クエスト
5/57

モルモット『1』

「親子連れか………それと俺の名前は」

「急患でーす!」



人を乗せたストレッチャーが突き進む。見間違いだろうが、お医者さんの頭部が鉄人シェフの帽子並みに長かった。



「いやぁ、危なかったなぁ………それと俺の名前は」

「とっとと乗りなさい」



そう催促するルールビィは隣に居らずエレベーターに乗っていた。



「………なあ。君は俺の名前聞く気ある? さっきから拒まれてるけど、今のは違う。君、今わざと話を途切らせた?」

「アンタの名前に興味はない。所詮アンタはモルモットだからね」



つまり、実験ネズミか。面白くないジョークだ。



「わかりました。君の考えは、よくわかった。じゃあ勝手に名乗るわ。俺はジェ……ゴトーだ。俺のことが知りたいとか言っておいて俺自身のことはどうでもいいんだ? それっておかしくないかな?」

「私が興味あるのはアンタの名前じゃない。アンタを含む習慣や文化よ」



森を見て木を見ずと言ったところか。今の会話だけで彼女の傲慢さがうかがえる。



「主食は何? アカグイザクロ? それともモンテクローズ?」

「パン」



聞いたことのない物ばかり言われてもわかるはずがない。


エレベーターで密室。無言の密室。気まずい密室。


先ほどルールビィの質問に答えたあと彼女はずっとつんけんして睨みつけてきた。そっけない回答におつむがカンカンなのか『生意気!』と足先を踵で踏んできて、それでも無言を貫いた。


太もも殴られたり脇腹突かれたり二の腕引っ張られたりと散々肉体的苦痛を強いられたが、今となっては拗ねた猫のように頬を膨らませてそっぽを向いている。



「なあ、聞きたいことがあるんだけど」

「聞いてあげない。質問にも答えてあげない」



本当に拗ねてる。これはちょっと微笑ましいかもしれない。



「そこを頼むよ。正直俺もそろそろ現状を知らなきゃいけないかなーなんて思ってるから、頼む。俺のイカしたスマイルは最高級ホテルから見える夜景よりも価値があるから………これはジョークだ本気にするなよ」



小粋なジョークのつもりだけど。まあやはり拗ねたご様子だ。


だが、少しの変化が起きた。ちらりと目線がこちらに向いた。



「アンタって嫌に冷静よね。目が覚めて全裸で怪しい男どもに人体実験されそうになったってのに。私が介入したからってこんな風に並んで箱に乗れるなんて、地球人の精神的な愚鈍さってやつかしら。あまりもナンセンスね」



馬鹿にしているのだろうか。それとも褒めているのだろうか。

正直どちらにも当てはまっていそうだ。



「それは、あれだ。俺のみのことだから気にするな。冷静ってのは嘘に近い。むしろ最初はテンパりまくってただろ。俺だって今の状況、説明されたって納得するつもりはねぇよ」

「そう。じゃあ説明しなくていいわね」



やっぱりガキだ。特にすぐ拗ねるあたり。


だがこちらは大人だ。成人もしているし、譲歩と言う言葉も知っている。優しく歩み寄ろう。



「あれだ。正直俺は事なかれ主義とか場の流れとか、そんな性格の災いもあって聞き逃してたけど、単刀直入に聞こう。馬鹿なことを聞くと思う。だけど聞かずにいられない。ここは地球なのか?」

「違う」



速攻率直に言われた。何か、たびたび地球人地球人と連呼する物だから冗談で聞いてみたけど、こうも迷いなく言い放たれたら、物理的に現実から、ルールビィから目をそらしてしまったじゃないか。



「あー………君のその、地球じゃないって発言を信じるとして。じゃあここはいったいどこなんだよ」

「この階で降りよ。ついてきなさい」



開いた扉からすたすたと足早に降りていく。さっきから、避けられてる?



「待てよ。俺の扱い悪くないか? モルモット発言のことも聞いてねぇんだぞ!」

「今から大事な話がある。そこでアンタの質問に答えてあげるから」



連れてこられたのはこの病院の責任者の部屋らしい。


ここを病院だと決めたのはさっきから患者とか、急患とか、そういった人たちが通りすがりに見られたので、そう決めつけた。


尖ってるが紛いなりにも白衣を着ているルールビィも一応医者なのか? 見た目はガキだけど。



「連れて来たぞパパ」



扉を開いたその先。院長室と言うより応接室に近い家具の置き方。装飾こそはどこかしら前衛的だけどスタンダードな応接室に、年老いたとは言えず若いとも言えない、一児の父程度の少し白髪の入った白衣の男性。



ルールビィの言葉通りパパさんなのだろうが。なんて言おうか。単刀直入に似てない。驚くほど似てない。遺伝子レベルで全然似てない。


ルールビィがニンジンなら彼はブロッコリーと言ったところだ。

口元が引きつるレベルで似ていなかった。



「君が噂の地球人か。初めまして。ハートアス・ウルヴァント・タライマワシ・ブレインストロング。ルビィの父親だ」



た、たらい回し? 何とも間抜けな名前だった。



「えっと、タライマワシさんでいいですかね?」

「そんな畏まらなくてもいい。私は親しい人達から愛称としてアースと呼ばれてる。君も気兼ねなくそう呼びたまえ」



何で初対面の人物に対して親しい人からのニックネームを呼ばせようとしているんだろう。それもう親しいとか関係ない。呼んでもらいたいだけじゃないだろうか。



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