アンペル『7』
「待っていたよ。三人とも」
巨大なテーブルに盛り付けられた豪華絢爛な料理の数々。
凄い。ロンダルビーフにカウマッチの卵、グレモリーエリクスのドリンクにキシガモの姿焼き。我が食卓で並ぶことのない豪華食材が目白押しだ。
「どもっすアースさん。呼んでくれたありがとうございます」
「久しぶりだなゼルゥ。ん? どうしたそこの二人。随分と神妙な顔だな」
神妙な顔と指摘される。
そりゃそうだ。聞いたことしかないカラーリテラのゴチソウたちが並んでいるんだ。引き攣った顔にもなる。
だけどルールビィは。
「別に。私は私でやることがあるからとっととご飯食べて帰るから」
ルールビィはハートアスから離れた椅子にとすんと座り、おもむろに食事に手を付け始める。
「おい。さすがにそれは意地汚いって言うか、失礼じゃないかトガ、ルビィ。もうちょっと足並みをそろえてだな」
「まあいいさ。ルビィが来てくれただけ嬉しいんだ。モルモット君もゼルゥも席について、たくさん食べていってくれ」
そう言うなら。
席について、配られたフォークを手に料理の一つに手を伸ばす。
突き刺さる感触が心地よい。まるで弾む風船のような柔らかさ。
綺麗に切り取り、口へ運ぶと同時に口の中一杯に幸福が形を成して覆いつくされた。
美味い。下手な表現はいらない。その一言で完結する美味さだ。
「どうだねモルモット君。今日のために呼んだシェフの腕前は」
「感動で、言葉もありません」
「それは良かった。ゼルゥは」
「美味いっスよこれ」
ゼレプシー。思いっきりがっついている。風情も品もない。
「どうだルビィ」
ハートアスは最後の一人に聞いた。
ルールビィは進めていたフォークを止めてチラッとハートアスの方を見た。
「……美味しいわよ」
「それは何より。ところで最近学校はどうだ」
うわ来たテンプレな親子会話。
先ほどルールビィも聞かれるだろうとタカを括っていた質問。
止まっていたフォークが重さを帯びるようだ。
「最近行ってない。行ったって意味ないもん。自立してる私には関係ない」
「俺が行きたいんだが」
「行く必要はない!」
絶対行く必要あると思うんだけどなぁ。
「そう言うなよルビィ。僕は毎日来るのを待ってるけど、全然来なくて心配しているんだ」
「そうだ。行く必要が無いなんてない。素直に学校に行きなさい」
「まあ、行った方がいいとは思うよ。俺としても社会との関わりは必要だと思うし」
「うるさいうるさい! 男三人で説教するんじゃないわよ! せっかくの美味しい料理が醒めちゃうわよ」
機嫌悪く、バツが悪そうに頬張る。
説教されている自覚はあるのか。
「それにしても最近。ノンペルとアンペルと言うのが巷で話題になってるみたいだな」
「最近? 何言ってんのよ。随分前から話に上がってるじゃない。双方で親交派と侵攻派のステルスマーケティングなことしてるらしいわよ」
「どちらにしてもカラーリテラでは面白いくらい二つの派閥の争いが起こっているな。いいことのなのか悪いことなのか」
呆れたように愚痴をこぼす。
アンペルは絶対意図的に作られた存在のはずだけど、ハートアスのこの反応。侵攻派組織には直接は関係ないのか?
それともノンペル同様秘密にしているだけか。
「親交派と侵攻派の考えを持って動いているなら、ノンペル、アンペルの両者に今度の感謝祭に出てほしいものだ」
「感謝祭?」
「カラーリテラで年に一度開かれる野外のパーティだ。その日は無礼講でみんなどんちゃん騒ぎ。アースさんとルビィは来賓席で出席するんだ」
感謝祭か。
野外のパーティ。ゼレプシーの話によるとその日は誰もかれも分け隔てなく盛大にバカ騒ぎをして楽しむ人のこと。それこそ親交派と侵攻派なんて関係なくカラーリテラに住む人たち全員が楽しむ日とのことらしい。
「知っているぞ。この前街中でノンペルとアンペルがドンパチを引き起こしたことを。上はあるいみ破壊者だと頭を悩ましていたぞ」
それは……少し尾を引いている。
アンペルから吹っかけてきたと言ってもあれだけ暴れたんだ。
ルールビィには気にするなとは言われてるけど、アンペルのことも含めて後ろめたい気持ちはある。
「その日は皆が平等に楽しむ日だ。ノンペルもアンペルも感謝祭に参加して互いのことを理解してこの前のようなことは起こしてほしくない物だ」
「まあ、正直無理だとは思いますけどね」
ハートアスの想いを横やりで引き裂くようにゼレプシーが言い放った。
「それには同意見ね」
同調するようにルールビィも言った。
この前の一件でアンペルはノンペルにとっての障害と見ているのだろう。さっきもぶっ倒せばいいと言っていたしどうにもルールビィはアンペルに対して排除的な考えを持っている。
「なんだ二人とも。何であの二人を直接見ていないのにそんなことを言いきれるんだ」
「見てなくてもこの前のヤラカシのことは耳に届いてる。アンペルがノンペルに一方的に食って掛かったんじゃない。少なくともアンペルは話の通じる奴じゃないでしょ」
「同感だけど、ノンペルも嫌にきな臭い。まるで自分がやっていることを正義で正しいことだって勘違いしてそうで、俺は鼻持ちになるな」
「ふむ……二人とも正反対の性質で活動しているから相容れぬ存在と言いたいのか……モルモット君はどう思う」
ハートアスに話を振られて、少し思い悩む。
自分自身がノンペルだ。言葉を誤りたくはない。
「僕は……争う意味が分かりません。相反すると言っても喧嘩に発展する意味はないと思います」
「アンペルから突っかかったんだろ? つまりアンペルには喧嘩を売る理由があったんじゃないかゴトー?」
理由があった。正直思い当たる節はある。
DNAを寄越せ。
アンペルは確実にノンペルの性質を理解している。おそらくその上でノンペルのDNAが欲しいと言ったんだ。
何故欲しがっているのかはわからないけど、ノンペルの性質を知っている人は多くはない。
だからこそアンペルはハートアスが管轄する侵攻派の差し金かと思ったのだけど、ハートアスにそう言った素振りは見られない。やはり隠しているのだろうか。
「あまり街中を破壊してほしくないものだ。所でモルモット君。君も今度の感謝祭に参加するんだろう?」
「いや、するんだろうって今知ったばかりですし。それに僕はカラーリテラの住人じゃないですし」
「参加しなさい。私も面倒だけど参加するんだからアンタも来て適当に楽しんだらいいわ」
「え、えぇ」
「ウォーキーショップを始めいろんな出店もあれば出し物もある。俺は参加しないけどな忙しいから。ガハハハー」
ゼレプシー……アンタそんな性格だったっけ?
とりあえず、今度の感謝祭に強制的に参加するようになった。
まあ、ルールビィも参加するならそれもいいか。と料理を口へ運んだ。




