アンペル『6』
『ノンペェェエル……』
アンペルとの邂逅以来、ひたすらに投稿されているアンペルの映像を見ていた。
似た姿と似た能力。そして理由は不明だが問答無用で襲い掛かってくる。
本当に意味不明だけど、全てにおいてあいつを意識せざる得ないと言える状況だった。
アンペルとの交戦から数週間が経過している今。いつも通りノンペルとして活動している。事件や事故に駆けつけてヒーローとして手を差し伸べている。
だけどそこには常にアンペルの影が無いかと目で追ってしまっている。
恐ろしいんだ。アンペルともう一度相見えたら、この前のように交戦に発展することが。
今は、見えない影におびえる日々がひたすらに続いていた。
「ゴトー。そろそろ行くわよ。準備はできてるって、またアンペルの動画を見てるの? いい加減飽きてこない?」
「次いつ会うかわかんないし、対策になればって思ってな」
「大丈夫よ。今ノンペルのアップデートを急ピッチで進めてるの。新しい空間が出来上がりそうだからそれでぶったおせばいいわよ。それより準備はOK?」
零壱ゲートを潜って部屋に入ってきたルールビィ。
準備はできてると聞かれて、特に持っていくものもないので準備などないに等しい。
だけど最後にもう一度聞こう。
「なぁトガ子。俺が行く必要なんてないだろ? だって今日の食事会はお前とハートアスさんの家族でする食事会だろ? 部外者の俺は行かない方がいいだろ。俺の心配はしなくていいから。冷蔵庫の中のもので適当に料理作るから親子水入らずで行って来いよ」
「嫌。絶対嫌。パパと二人の食事会なんて絶対嫌。アンタが行かないなら私も行かない」
とんだ反抗期だ。ハートアスはあんなにもルールビィのことを気にかけているのに。
まあ子供とは往々にしてそんなものだ。自分自身そういう経験がある。時間とともにいつの間にか親の存在を大切にするものだ。
まあルールビィの場合幼くして別居なんてとんでもないエクストリーム反抗期なのだが。
「何でそんなに嫌なんだよ。て言うか俺を巻き込むなよ」
「うるさいわねモルモット。パパと二人なんて考えたら『絶対最近学校はどうだ?』なんてありふれた会話から始まってアンタの経過を……そう! アンタの観察経過を報告しなくちゃいけないし、本人がいた方が説明しやすいしね。うん。だから来なさい」
取り付く島を見つけたように来るよう催促してきやがった。
まあどうせ駄々をこねられて最終的に一緒に行くことになるのは分かっている。折れるのはこっちだ。
ルールビィに急かされて引っ張られて椅子から立ち上がり、零壱ゲートを潜り抜ける。
その先は建物と建物の間にある隙間。そこから光の差す、人が通るストリートに出る。
そこは来るのは初めてで見たことのない区域だ。一体ここはどこだ?
「どうしたの? 何かキョロキョロしてるけど」
「ここは地球でいるアメリカンチックなストリートだなって思ってさ。と言うより、お前のことだから零壱ゲートをハートアスさんと食事するところに直接つなげるとばかり思ってたわ。何で外に出たんだ?」
「さっきパパと二人っきりで食事は嫌だって言ったけど、アンタがいなくても一応二人じゃないのよ」
「あん? どういうことだよ?」
「もう一人今回の食事会に呼ばれてるやつがいるのよ。アンタもよく知ってるやつがね」
「俺の知ってるやつ? それってもしかして」
「そう、僕だぁ」
後ろから突然に肩を叩かれ、そのまま伝うように肩に手を回してきた。
この声、ゼレプシーか。
よく知ってる奴ってゼレプシーのことだったのか。
まあカラーリテラでよく知ってる奴って言ったらかなり限られてくるから考えるまでもなくこの人しかいないな。
「ゴトー……最近学校来なくて淋しいぞぉ。中身見せろ」
「中身って、何のことですかな? と言うか離れろぉ! もうアンタのしごきに付き合わなくていいんだ! 怖いもんなんかねぇよ!」
「そうね。でもこの前あんなこともあったし、もう一回鍛えてもらえば」
「それだけは嫌ぁ!」
あんなこととはきっとアンペルのことだろうけど、ゼレプシーのしごき地獄はもうごめんだ。
「俺は構わないぞ。殴り合いと言う実験ができるからな」
「えっと、ほら! ハートアスさん待ってるんじゃない。行こうよほら、ほら!」
その話題から逃げるように更々興味もない食事会の会場に行こうと催促する。
これだから研究者と言う人種は嫌いだ。
それからは三人で目的の場所へと向かった。
途中データ屋に寄りたいとルールビィが言ったので立ち寄り、待っている時にノンペルやアンペルのことを記したデータを立ち読みしていた。
基本カラーリテラはデータ媒体だ。
そしてまた歩き出し、結構長い時間歩いて、人通りも少なくなってきた辺りだった。
「到着よ」
そう言いルールビィが足を止める。
そこはなんとまあ、一言で大きいと口にしてしまうような豪邸。住宅と言うにはサイバーチックでそれこそ少し視線を上にして、首を左右に振らないと全容を確認できないほどの豪邸だ。
ハートアス一人で済んでるのか? デッドスペース多すぎだろ。
ルールビィとゼレプシーが先行し、中庭を我が物顔で進んでいく。
巨大な扉の前に来てノックもインターホンも鳴らさずにずかずかと入っていく。
おいおい何かいいのかそんなにざっくばらんと、と思ったけどルールビィはハートアスの娘だ。ある意味自宅だから他人行儀にする必要はないか。
中に入るとこれはまた高い天井で。無駄に高い。左右に広がる廊下もあれば巨大な階段が豪快に設置してある。
ちらほら使用人かSPか警備っぽい人たちがいる。さすがにハートアス一人で住んでるってわけではなさそうだ。
お帰りなさいませルールビィ様。ハートアス様がお待ちです。此方にどうぞルールビィ様。後二人。
使用人たちに話しかけられながら部屋へと案内され、たどり着いた扉を開け、その先には。




