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インサイド  作者: 成神全吾
ノンペル/クエスト
34/57

ノンペル『8』

「よっこいショット」



零壱ゲートを潜り抜け、とある建物の屋上、デカい宣伝看板のような意味合いの板っぽい何かの前、屋上の縁に腰掛ける。


先ほどまでいた身体を覆いつくすような大気を要した高度ではなく、ちょっと視線を上にしたらすぐ視界に入るような高さの建物。

ここからだと人混みの雑多雑音がよく聞こえる。


まあよく聞こえるのは当然だ。人がいつもよりいっぱいるんだからな。


なら何故いつもより多いのか。


俺はマスクのリモートハッキングカメラモードとか言うド直球なネーミングのハックシステム、要するに街中に設置してある監視カメラ映像をマスクに映し出すことができる機能を起動する。


マスクに映し出されるのはとある建物の内部。


多くの人が一か所に集まり腰を下ろしている。

立っているやつらは全員男。

その手には重火器を装備している。


マスクを外しリアルの視界を確認する。


見える建物の機能はバンク、つまり銀行。

建物の前には多くのパトカーと装備した兵士たち。

それらを取り囲む野次馬共。


つまり、銀行強盗の現場というわけだ。



「内部の状況を見るに相当切羽詰ってんぜ。奴さんら、追い詰められていつ銃をぶっぱなすかわかんない状況だぞトガ子」

『どうやらそうみたいね。後、トガ子って言うのやめて』

「オイオイ今更だな。もう五万文字以上やってんのに今更だな。今も更々今更過ぎるな。どうなんだいトガ公」

『五万文字が何のことかは知らないけど、アンタは今ゴトーじゃなくてノンペルなのよ。私もサイドキックとしてコードネームを付けた方がいいと思ってね」



こりゃまたこの緊急事態にとんだわがままだことだ。

確かに名前を付けるのは大事だ。名前は個人としての証なのだからな。



「じゃあ何だ? 指示するだけの『お小言マン』辺りがコードネームか? てかサイドキック?」

『そうよ。アンタは表舞台で大暴れ。私はそんなアンタを裏で操るマリオネッター。フフン。そうね。参謀の意味も込めて活動する際は『ブレインストロング』と名乗りましょうか』

「わかったトガ子!」

『わかってないでしょアンタ!』

「わかってるってトガ子。ん? マスクになんか映ったぞ」

『私が銀行内の映像をいくつかデータ化してプランを立てた。どうやって突入するかも練ったから、画面に従って行動して』



突入。そう突入だ。

シュトゾンの端っこまで跳び回るお仕事を中断してまでこっちに急行した理由。

売名行為だ。


親交の使者を名乗ってノンペルとして活動しても最初は地道な活動だ。名前が売れるまで相当時間がかかる。

だけどルールビィとしてはすぐにでも有名になりたいなんて売名欲に駆り立てられ、今まさに。目の前で起きている強盗事件を解決して一気に有名になってやろうと腹に一物を抱えていると言うことだ。


もう一度リモートハッキングカメラを起動。

中は変わらず緊迫した雰囲気が漂っていた。

床に腰を下ろしておびえている人質たちはもちろんのこと。銃を持った強盗達にも余裕がない。


やりすぎたとでも思っているのだろうか。その表情にはもはや後に引けないと見るからに書いてある。



「なあトガ子ォ」

『ブレインストロング』

「……BRAINSTRONGゥ。一つ聞こう。俺は今からあの中に行ってみんなを助けろって計画なんだよな?」

『そうよ。アンタがあの騒動を収め、皆の前で『僕はノンペルです』って高らかに宣言したら良くも悪くもアンタは一躍有名人。明日の朝刊の一面を飾るわ。あ、そのためには写真が必要ね。撮らせるか、それとも私が撮ったのを匿名でリークするか……』

「いやそう言う問題じゃねーよ。あのな。言っていいか?」

『どうぞ』



それでは遠慮なく言わせてもらおう。



「あそこに行きたくない」

『わがまま言うんじゃないわよ』

「おもしれー冗談だ! これをわがままと言ったらどんな反対意見もわがままになるな!」



ワハハーと大口を開けて笑う。


言ってしまおう。相手は重火器を武装しているんだ。

超健康体質と言っても頭を拳銃でぶち抜かれたら死ぬんだ。多分。



「というわけで無理。死にたくないからな」

『当たらなきゃいいだけよ。大丈夫よ。その服はピタースーツと同じで空間技術の一部が流用してあるからどんなに乱暴に扱っても破けることはないわ。安心して突っ込みなさい』



服が無事だからどうしたと言うんだ? 着ている本人が死なないようにしろよ。


にしても簡単に言ってくれる。

当たらなきゃいい? そりゃそうだ。だけど当たりゃ終わりだ。



「言っとくけどな。超健康体質と言っても怪我や病気に対して絶大な耐性を持ち得るようになったってだけで眉間に弾丸撃ち込まれたら死ぬんだぞ。ビルの高さから落ちて生きてたのも芝生なのと打ち所が良くて即死じゃなかったってだけでほんとは死んでたんだ。俺、死にたくない」

『強盗犯は全部で五人。二人はバレットレーザー、一人はキャノン、二人はガトリングレーザー。機動性の高いバレットから潰した方がいいかな』

「こいつ聞いてねぇ。もういいよ! モノローグで馬鹿にし続けてやる」



バーカバーカ! トンチンカンの中二病野郎!



『配置関係や建物の内装も解析完了。ノンペル。マスクに送る座標に移動して自分の身体を撃ち出しなさい』

「ちょっと俺の話聞いてる? こんな自分勝手なヒロイン今どき流行んないよ。なぁ皆」

『誰に聞いてるかは知らないけど、バイタルからして強盗犯共はすでに極限状態よ。いつ犠牲者が出るかわかんないわよ』

「そんなの俺たちの手の出せる領域じゃないって。公僕に任せた方が」



マスクに映し出された内部映像に動きが見られた。

強盗犯の一人がガトリングレーザーを天井に向かってぶっ放して人質たちに何かを言っている。


随分とお怒りの様子だ。



『事態は、刻一刻と迫ってるのよ。私たちが動かないと』

「……外で取り囲んでる公僕共はほんとに木偶の坊だな!」



俺はマスクに映し出された座標点に移動する。

今の場所よりそんなに遠い場所ではない。今いる場所からちょっと空中に移動しただけだ。


空間の効力は最大三十秒。その間にやるべきことをしないと。


俺はマスクに表示された指示の通り両手をそれぞれ明後日の方向に突き出して空中に空間を伸ばす。

ついさっきビルに突っ込んだ時と同じだ。俺の身体自体をパチンコの玉にして超速で撃ちだし今度は意図的に建物の内部に突っ込もうと言う腹だ。



『角度良し弾力良し。強盗に動きあり。到達点まであと五秒。四…三』

「あぁ……まさか正義の味方の真似事をする羽目になるなんて」



お子様の人形になるつもりはないけど、腹をくくるしかない。



「二…一! 発射!」



つっかえとしていた足元の硬い空間を解き、身体は勢いよく撃ちだされる。

今度は先ほどのように体をブラさず、腕をまっすぐ体につけ、魚雷のように進んでいく。



『いい? 勝負は一瞬よ。窓を突き破った瞬間。三秒以内に二人、七秒以内に全員を倒しなさい』

「無茶な注文をするガキだ」



視界は高速で展開され、マスクに映し出された軌道を跳び、着弾点、銀行の窓ガラスをぶち破り建物内に侵入する。


パリーンと叩き割る音と共に人々の注目がこちらに集まるがその瞬間に強盗犯の一人を始末。

魚雷アタックと同時に体当たりをかました。


飛び交う瓦礫と混乱を縫い目に手のひらから球体状の空間を生み出し、端を抓んで輪ゴムでっぽうの要領で空間の矢を打ち出す。


強盗犯の一人の顔面に強襲。スリリングショットの弾と同じだ。狩猟道具を人間が受けたらひとたまりもない。

強盗犯はその場に倒れ伏せる。


間髪入れずにもう一人。空間を伸ばし強盗の一人を倒す。


三秒以内に三人倒した。後二人。


身体を残った強盗に向ける。

しかし伸ばした空間を放つことができなかった。


強盗の一人が人質の一人を抱えてバレットレーザーを突き付けてやがる。



「どうするトガ公」

『ブレインストロング』

「……BRAINSTRONGゥ。どうする? 両手両膝を地面につけろって言ってるけど」

『今は言う通りにしなさい。何より民衆の命を最優先よ。今はね』

「……なるほどな」



分かった、分かったと俺は両手を上げて降参の意を示した。

ゆっくりと土下座をする様に両膝を地面につけて、流れるように手も地面につける。


下を向いて、強盗犯の一人にキャノンを頭に突き付けられる。


そう、キャノンを突き付けられているんだ。

下を向いてもマスクに映し出されるリモートハッキングカメラにより銀行内を見渡せる。



『タイミングOK。。人質を持つ強盗の気が緩みだしてる。今よ!』



合点。俺は足の裏に弾む空間を生み出す。

空間はよほど目を凝らさない限り見えやしない。

足の裏にひそかに弾む空間を作り出すことでその弾力により、指の一本を動かすことなく身体を撃ち出すことができる!



「まさに土下座ロケット! GO!」



土下座の体勢のまま体は射出される。キャノンを押しのけ、男のみぞおちへとぶち当たる。


まだだ! 既にプランは送られている。

俺は身体をぶち当てた瞬間に身体を翻し、残り一人の強盗に向けて球体の空間を作り出す。

もう片方の手で空間を引っ張って、コンマ一秒を争うような狭間の時間。空間矢を撃ち出し残り一人の強盗をブチ倒す。


同時に空中に飛び出していた身体が強盗をクッションにして床に倒れる。


静寂。俺自身死ぬかと思った。本当に一分も満たない一瞬の出来事。


だけどその一瞬で多くの人たちは救われた。



「ク、ククク! やったぞルビィ! よっこいしょ、」

『今すぐそこから離れて!』



え? と言葉を漏らすと同時に正面扉が叩き殴られて機動隊が突入してきて、瞬く間に取り囲まれる。


武装した公僕たちは動くな! とこれまたバレットレーザーにも似た拳銃を向けてくる。

あれ? もしかして悪者扱い?



「ど、どうするトガ子?」

『どうするも何も逃げるしかないわよ。上は空いてるんだからさっきみたいに跳びあがればいいじゃない』



それもそうだ。とりあえず足の裏に弾む空間を作って今一度真上に跳びあがる。

そして一度だけ硬い空間で足場を作りその場に踏みとどまる。


このまま逃げていいんだろうかと思ったけど、機動隊の一人が叫んだ。


お前は誰だ! と。


ルールビィは答えた。言ってやりなと。



「俺は……仮面無き者、ノンペルソナ……『ノンペル』だ!」



今度は堅い空間を足場に空中を走り抜ける。

窓ガラスをぶち破り、シュトゾンの空を駆け巡る。


これから始まる俺の物語。

ここまで長かったけど、ヒーロー戦記の始まりである!

ノンペルとして活動を開始したゴトー。ただしヒーローは伝染する。

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