ノンペル『6』
「必要なことって、ルールビィの両親が死んだんですよ? あなたにとっても親しい人だったはず。また狙われる事件が起きるかもしれないのに」
「必要なんだ。人々にとっての希望でもある」
希望? なぜ希望なんだ。
侵攻って言葉に闇に指す一筋の光明のような希望があり得るのか?
「モルモット君。君は地球人だからこそ何故と思うのだろうが、カラーリテラ発足時から侵攻派と言う言葉はなくとも考え自体があったと言ってもいい」
「どういうことですか?」
「最初に君に会った時に言ったはずだ。侵攻派は本当の星に移住したいと考えるもだと」
確かに聞いた。
地球を攻撃しようとする過激派の考えだとその時は思った。
けど、何か違うのか?
「元来カラーリテラは住めなくなった祖星の代わりに住める星を探すために打ち上げられた船。つまり侵攻派の考えこそが普通であり、親交派の考えが異端なのだ」
「親交派が異端? 手を取り合うことがいたんだって言うんですか?」
「親交派は地球が見つかってから作られた割と新しい考え方なんだ。それだけ地球って星が見つかったことで本当の星に住め期待感が侵攻派に生まれたってことだ。いいか勘違いしちゃいけない。侵攻派は『戦争を起こしたい』んじゃなくて『星に足を付けたい』って考えが本流だ。もちろん星に住むために戦うことを辞さないって考えがあるのも確かだがな」
でも、結局のところ星間戦争を起こそうと考えていることじゃないか。
そりゃカラーリテラは星ではない。
千年飛んでるらしいけどふとした不具合で機能が停止して宇宙の藻屑なんてなりかねない。
そう言った境遇を考えると攻撃してでも文字通り地に足を突く生活が恋しいと思っても無理はないのかもしれない。
「聞くがモルモット君。侵攻派と聞いてどんな人種が侵攻派だと思う?」
「それは……攻撃ガンガンしようぜーって結構危険な考えの方なんじゃないですか?」
「ちがーう。そりゃ『俺は地球を乗っ取るために兵士になる事も厭わないぜ!』ってやつもいるが、大抵は本当の星にあこがれを持つ弱い人たちが大半なんだ。侵攻派ってのは広義に言えば住める星が欲しいって考え方を指すんだ」
それは……広義過ぎるのではないだろうか。
「じゃあ住みたいけど極力危険なことは避けたいとか、戦争は嫌だって思っている人は?」
「それも基本侵攻派だ。親交派は他の星に侵略する考えを持つ者たちに反対している者のことを言うんだ。侵攻派って言葉から攻撃的かもしれないがその反抗勢力の親交派の方が過激な考え方なんだ。ルビィの両親のことを知っているならわかるだろう」
待てよ。ちょっと待てよ。
こんがらがってきた。何かがおかしい。
「じゃあ何か? 侵攻派って字面だけで危険って判断してた俺が間違っていたのか? いや、戦争を起こしたいって考える奴もいるんだ。間違ってない。それに親交派は住める星の生命体と仲良くしたいって集団なんだろう? 過激派って……」
「侵攻の反対の考え方をスローガンにしているだけだ。その実親交派は平和主義を盾に横暴をするってやつも多い。実際私も殺されかけた。これは事実だ。惑星に住んでいた君からしたら船団で暮らしているからこそ本当の空に憧れると言う考えは生まれないだろう」
それはそうだ。そんな考えなんて生まれるはずがない。
でも今は違うことが頭をめぐり回っている。
親交派は異端である。
確かにルールビィの言っていたようにハートアスを殺害しようとした結果彼女の両親が命を落とした。
その時点でとんでもない組織だとはわかっていた。
その異端組織の大ボスはルールビィだ。
彼女はその異端に加担しているのか?
ルールビィは正しいことをしていると信じていたけど、間違ったことをしているのか?
「……」
「随分と考えているようだが、君が考えているような星間戦争はまず起きないと思ってもらってもいい」
「……どういうことですか?」
「君も知っているだろう。この船団は多くの異星人がその身を我らと同じものとして様々な血が混じり合った文明だと。なら何故我々は異星人の母星を攻撃しなかったのか。もちろん地球程我らに適した環境じゃないと言うのもある。だけどもっと別に理由がある」
「何ですか?」
「無いんだよ。外に出るための扉と言うものが」
……………………………………………は? つまりどういうこと?
「外から中に入るための扉はある。開閉もこちらで管理できる。しかし一度カラーリテラに入ってしまうと外に出る手立てはない。穴を開けて扉を作ろうにもどうにもすぐ塞がってしまう。外に出る手段が無いんだ」
「だって、え? だってカラーリテラって住める星を探すための船なんでしょう? 外に出る方法が無いって、え?」
「もしかしたら扉があることを我々が知らないだけで出る方法はあるのかもしれない。祖先はいくつかの技術を星に残してきたほかに、後世には語らなかったオーバーテクノロジーと言うものがある。むしろカラーリテラそのものが大がかりなオーバーテクノロジーなんだ」
星に置いてきた技術がロストオーバーツで、船団にある道の技術がオーバーテクノロジーというところか。
「出れないことを船団の人たちは知ってるんですか?」
「だからこそ出れる手段を早く作ってほしいと言われてもいる。地球は今まで見つけた生命体の住む惑星とはまさに天と地の差と言ってもいい程我々に適応した星だ。だからこの十年で侵攻派の考えは過熱し、親交派と言う考えが生まれた。いいかいモルモット君。侵攻派に『戦争を起こしたい』と言う考えはない。ただひたすらに『星に住みたい』を元に活動している。そのために争うことも辞さないと言う考えはもちろんある。人は希望があるからこそ生きていける。だから私は侵攻派のトップであるんだ。人々に希望を持って生きてもらうために」
自分から彼らはエイリアンだ。生命としての種類が違う。
地球人だって自分たちのよりよい生活を求めて他の生き物がいる地域にその領域を広げることだってある。
カラーリテラの住人にとって地球人の事を考えることなどないのは当たり前かもしれない。
だけどこうして地球人である自分と対面して言葉を交わしていることに思うことがあれば戦争なんて選択肢は取らない。
そう信じたかった。
「ちなみに地球に我々と同じような知的生命体がいるとは知らされていないからこそ侵攻の考えが広がっているってのもある。そのことを公表したら考え方も変わるかもな」
「俺たちのことを知らないんですか? それならまあ、戦争を起こすなんて考えなんて普通は生まれないか……」
「そう、地球にそう言う生命がいないと思っているからこそ地球に住みたいと言う考えが広がっているんだ。まあそのことをしばらく公表するつもりはない。余計な情報を与えて変な騒動が起きても困る。どうせまだ地球に戦争を仕掛けることはできないのだからな」
考えを、改めた方がいいのだろうか。
ハートアスの言う通り、侵攻派と言う言葉に騙されてその本質は希望に向かって邁進する弱き人々の集まり。
戦争を起こしたいのではなく星に住みたい人たちのことを指す。
地球人として、星間戦争なんて起こされてほしくはない。
けどカラーリテラの人々にとって地球とは不安を取り除くための希望であることを知った。
なんて考えても……たった一人の地球人だとしても、何も変わることはないか。
「ただし、地球人の存在を知ってもなお私は地球を狙い、そのために戦争すら辞さないと考える人種だ。そこは肝に銘じてもらいたい」
「だけどどうせ地球に攻め込む手段が無いんでしょう? それともカラーリテラごと地球に突っ込ませる気ですか? 滅んじゃいますよ地球」
「何。外に出る扉はないが、外に出る手段が無いわけではない。ここ最近可能になった。まだまだ不安定で多大な被害も出て、何より本人がへそを曲げて技術提供を断ってしまったんだ」
「外に出る手段があるんですか? だって扉が無いんでしょう?」
「君はどうやってこの船団に来たかを知っているはずだ」
どうやってきたか。
その質問にハッと答えが浮かんだ。
確かにある。それは不安定で遠距離移動の実用化には程遠く、何十人もの死者を出し、かつ。勝手に使われたことによりその技術を門外不出とし己の監視下にのに置いた技術。
「ルールビィの零壱ゲートですか」
「そうだ。あいつは独学でロストオーバーツを蘇らせた。我らの祖先が捨てた技術をここ数年で形にしたカラーリテラ始まって以来の天才だ。あの空間技術が完成すれば我々はありとあらゆる場所に一瞬で移動できかつ、好きなタイミングで奇襲をかけることができる。戦争なんて起こらず簡単に片が付く」
「自分の娘を……戦いのために利用すると言うことですか?」
「そうだ」
迷いもなく。此方を見定めて肯定の意を示した。
人々の希望である必要がある。彼はそう言ったがそこにルールビィの気持ちは存在しない。
ルールビィは誰もが手を取り合う世界を望んでいる。
その考えには決して多々かいなんて言葉は存在しない。
こんなルールビィ頼りの計画が上手くいくはずがない。ルールビィが許すはずがない。
「だが勝手に使われたことに腹を立てて拗ねるし、あいつはあいつで勝手に親交派のトップになって。とんだ親不孝者だ」
「……え? ハートアスさんは知ってるんですか? ルールビィが親交派だって」
「知っている。ゼルゥを通じて聞かされているからな」
ルールビィ……どうやらゼルゥをスパイにするどころか二重スパイされているぞ。
「まあ仕方ない。あの子のことを考えるとそれも致し方ないことだ。いつか侵攻派の考えをわかってくれたらいい」
「あの子は争うことを心から嫌っています。それでも戦争をしようって言うんですか?」
「するさ。ルビィが何と言おうと私はあの子の親との約束を守る。ルビィに本当の空を見せると言う約束をな」




