デアイ『1』
「ちょ、待ってください! ここはどこなんですか!? 何で俺は全裸で縛られてこんな手術室まがいなところにいるんでしょうか!? これってあれですよね? アポなしのドッキリ企画。でもカメラが回ってるとしたらさすがに全裸姿ってのはモッ!?」
身の危険を感じてか咄嗟に言葉が出たがすぐに口に何か丸いものを詰められる。
ここでさらに恐怖が体を蝕む。
ゆっくりと近づいてくるメス。抗えない体。
無理矢理体を揺さぶってまな板の鯛が暴れまわる。
「ンー! ンー!」
ゆっくりとメスが腹筋に触れられる。
それと同時に叩き殴られた。
別にその身を殴られたわけじゃない。叩き殴られたのは扉だった。
ここからじゃ見えないが耳長と三つ目は音のする方に向かっていった。
放置され、響き渡るのは怒りに満ちた張り上げ声と倫理を説いて感情論に流されない利己的な話し方をするような女性の声。
そして最後に聞こえたのは柔らかい布を床に叩き捨てる軽い音と扉が叩き殴られる音で出ていく二つの足音だった。
ほんのちょっとの間を開けて部屋に乱入してきたであろう女性が眼前に現れる、改めよう。眼前にいるのは女の子だ。
今回は先ほどの二人と比べ見た目に変なところは特になかった。
素っ裸の体に布をかぶせてくれて口に詰め込まれてた物、拘束していた物を解いてくれてやっと自由が手に入った。
「ポホッ、ゴホッ! ありがとう。だけど、君誰?」
自由がきくことで初めて少女の全容が見れたがその容姿は可愛らしい顔と比べて随分と尖ったものだった。
色付いた美しさ、紅葉を思わせる赤だが無駄に手入れの行き届いてた直刃を思わせる長い髪。
反抗期のような刺々しさを見せるツリ目。青と黄のオッドアイ。
メガネを額にかけているが典型的なメガネでなくむしろバイザーゴーグルの形状に近い。
それ以上に目が行くのが彼女の衣服。パッと見は大きめの白衣を着ているだけだが白衣の内側。
上半身はボディスーツのようなぴちっとした着物。
下半身はミニスカートにレギンス。
あまりにも刺々しい文系理系どころか文化系体育会系かも見分けのつかない、変な着こなしと言うより前衛的過ぎる奇抜なファッションだ。
「――――――――――――――――――――――」
しかも言葉が通じない。聞こえるのは全て一直線に伸びた糸のみ。やっぱりここは今まで住んでいた場所どころか国ですらないのだろうか。
「………――――!」
尖った少女はとりあえずと言ったところか。つけている指輪を叩きそこからホログラムのように立体化したキューブの映像が出る。少女はそれを回す、押すなどして変形を繰り返した。
「lguev?? 47407470327087! ●%Ω? ガネイオベラ………それともこれかしら?」
多くの聞きなれない言語の中で聞こえた一筋の光。
「俺の国の言葉? 君、その言葉が話せるの?」
「この言語で反応、どうやらコードがあったみたいね。けど何言ってるかわかんないわ。まあそれは後でどうとでもなるか」
話を聞き流された。聞こえているはずだろう?
「なあ! ここはどこなんだよ! いろいろ聞きたいことが………あり過ぎてヤバい! とりあえずここはガッ!? イタタタタタ!?」
迫るように質問攻めしようとしたが顔面に走る痛みは肌の毛根とも言えると肌身の芯からむしり取られる刈り取り作業。少女に頬を思いっきり引っ張られている。
「何言ってるかわかんない。どうやらアンタは私の言葉を理解できてるみたいね。だけど私はアンタの言葉を一切理解できてない。分かんないものね。確かあの星、地球とか言ったわね。何で地球の知的生物は言語の統一化に務めなかったのかしら。ごく限られたコミュニティでのみ活用できる言語が山ほどあるなんて、ナンセンスにも甚だしいわ」
「イタタタタタ!? ち、地球の知的!?」
どうも話がついていけない。正直な感想。この子の言い分だとまるで自分は宇宙人とでも言っているようだ。
「だーかーらー。何言ってるかわからないの。会話の疎通はすぐできるようにしてあげるから少し黙ってなさい。私の言葉が理解できてるようだし用件だけ言ってあげる。感謝することね」
掴まれていた髪の毛が離される。
「な、何なんだよいったい」
「アンタはモノすごーく混乱してると思うわ。目が覚めたらいきなり見知らぬところにいるんだから」
それはそうだ。いちいち言われなくてもその通りだ。
目が覚めたらいきなりまた板の上に置かれた鯛の気持ちがわかった。知りたくもないそんなこと。
頬もつねられた。怒りに身を任せるのも悪くないかもしれない。
だけどまだ穏便にだ。
「じゃあなんでいるかを教えてください」
「アンタは不運であるとしか言いようがない。だから私が救いの手を差し伸べたの。感謝しなさい」
話が通じていない。
怒りの沸点に一気に最高潮に到達した。喉の奥に詰め込まれた言葉の塊が吐き出される気分だ。
「だから! 俺の質問に答えろよ!」
「何言ってるかわからないけど、文句たらたらってのは分かる。けどこれは決定事項。アンタは私のモルモットってことでよろしく」
そう言い残し少女は背を向けて出口の方に向かっていった。それをただ見送るだけしかできない。
今何て言った? 正直理解はしてる。理解しているからこそ。全力で肩に掴みにかかった。
「ちょっと待てよ! 俺の話を聞けよ! 所有物ってなんだよ! よくある漫画の冒頭か? もうちっと話膨らませて互いのこと知り合って仲良くなってからからそういう冗談を言あばばばばばばばば!」
脇腹に撃ちつけられるショックウェーブ。
神経から登っていき脳幹ごと揺らす電気ショックによってその場に倒れ伏せる。
「何言ってるかまるで分らないけど反対してるのはよくわかったわ。ごめんなさい。これはアンタを助けるためでもあるの。アンタがどれだけあがこうと、アンタはこのルールビィ・ジャウアヴォグ・ブレインストロングの『モルモット』ってのは覆らないのよ」
その言葉は舌を痺れさせて寝ている奴には聞こえていなかった。
次回、ルールビィと名乗る少女にある場所へと連れていかれる。