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インサイド  作者: 成神全吾
ノンペル/クエスト
25/57

シドウ『4』

「フンっ!」

「あーばばばばばばばばばばばばば!?」



その身に、今一度流れるショックウェーブ。

膝が折れ、こと切れるようにその場に倒れ伏せる。



「な、何すんのトガ子?」

「モルモットの分際で私の頭に手ぇ置くんじゃないわよタコが。行くわよ」



またしても襟首を掴まれ、重たい物を引きずるように扉を開けて部屋を後にする。


くそう。なんて無様な姿だ。学生時代の友人が見たらどう思うだろう。確実に指を指されて笑われる。

クッソー。絶対復讐してやる。



「フフフ。フフフフフフフフ!」



引きずられながらすっごい含み笑いしてる。


聞いた方がいいのか? 聞いた方がいいだろう。聞こう。聞いてやる。



「なぁトガ子ォ」

「なによモルモット。何か聞きたいわけ?」

「何でそんなに笑ってるんだ? 何でそんなに上機嫌なのか知りたいんだけど……聞いていい?」

「すでに聞いてるのに聞いていいなんておかしいわね!」



まあそりゃそうだけど、一応許可的な物を聞かなくちゃならないとどこからともなく天の声が啓示してしょうがないんだ。



「そりゃ笑いたくもなるわよ。アンタの言ったことにはね」

「俺の? そんな変なこと言ったか?」



むしろ結構いいことを言ったような気がするんだけど、彼女にはどう伝わったんだろうか?

別に永久的にあなたの玩具になるつもりはないのだけれど。



「まあこれでアンタは私のモルモットってのは完全に決まった。だけどそれ以上にアンタのその体質。これが意に反して、予想外なほどの大収穫だわ」

「超健康体ってやつか? まあそりゃ常に健康ってのは喜ばしいことだけど」

「ちがーう! 健康的って言葉はちょっと間が抜けるからそれは置いておいて。要約すれば、どんな凄い怪我を負っても一瞬で治るプラス。激烈で強烈で猛然たる凄まじい衝撃にある程度耐性ができたってことでいいのかしらねぇ」

「い、いいんじゃないかなぁ」



ククク、クククククククククククククと不敵にも響き渡る含み笑いはどうにも健全さのかけらもない。


保健室を出て少しの間全身全霊を持って引っ張られていたが、そろそろ体も動く。


膝を曲げて、身体を直立させようと立ち上がる。



「やはり、筋肉が断裂するほどの電流を流してもすぐに立ち上がるそのレジリエンス。アンタの言うヒーリングファクターの体質が備わってるみたいね」

「だから何でそんな物騒な電流を流すんだ。治るっつっても痛いんだぞ。後レジリエンスは精神的回復力だと思うんだけど」



引きずられていたので身体の各所に付着したほこりを払う。


何でこう彼女はテレビの電源を入れるように電流を流してくるのだろう。

もうちょっと抑えると言うことを覚えてほしいものだ。


それより、なんでルールビィは体質の変化に対してそんなにもうれしそうにしているのか。


彼女の言い分だと自分はモルモットで貴重な研究資料とのこと。

零壱ゲートで異常な突然変異を起こしたからその価値はさらに希少なものになったからこそそんなに大の字掲げて大喜びをするのだろうか。



「アンタ。言ったわよねぇ。私だけのモルモットになるって」

「あ、あぁ」

「つまり、何でもするってことよねぇ」



やはり含み笑い。

マズい。何でもすると言う言葉に素直に首を縦に振るのはマズい。


信用していると言ってもコイツも所詮研究者。何でもすると言われて何をしでかすか容易に想像できるようでできない。


それこそ縛り上げられて身包みどころか皮すら剥がされてつるし上げられることだってあり得る。



「どうなのよ」

「え、えぇ!? えっと痛くないことなら」

「さぁねぇ。アンタ次第だけど、その頑丈さを見込んでやってほしいことがあるのよねぇ」



つまり、痛い目に遭う可能性があると暗に言っているんだよな。



「断る」

「却下する」



無慈悲! 取り付く島が無い。


と言うより頑丈さに目を付けて何をしようって言うんだ。

ボクサーにでもなれって言うのか? Gが強くかかるレーサーにでもなれとでもいうのか?



「侵攻派を出し抜くために、一つの考えを私は持っていた。それは親交派のマスコット的広告塔の存在よ」

「……居ないのかそういうの?」

「いない。だから作るのよ。親交の意志を持つ、インパクトのある広告塔!」



グッとこぶしを握り締めて高らかに宣言する。



「つまり、それを俺にさせようって言うのか」

「私の空間技術の粋を結集して決行しようとしたけど、恥ずかしい話それを実行できる人物がいなかった。想定で空を縦横無尽に跳び回るから頑健な体を持つ奴が欲しかったんだけど、それが手に入った」



つまりまあ、さっき言った超健康な男がそれに当てはまると。


でも空を縦横無尽に跳び回ると聞くと、そこはかとなくやってみたいと言う考えが出てくる。

気持ちよさそうだ。空に身体の全てを預け、どっちが下で上かもわからない無重力感。


想像の域を脱しないけど、気持ちよさそうだ。



「ククク! 今から楽しみだわ。帰るわよゴトー! たった今より『プロジェクトノンペル』を始動する! さっそくかえって準備しなきゃ」

「待て」

「何よ! 今から忙しくなるのよ! 一秒でも無駄にするつもりなんてないわよ」

「勝手に帰ろうとするな。今日は学校に来たんだ。最後までいろ」

「はんっ! そんなの御断りよ。そんなことより今思い浮かんだ構想をすぐにでも」

「ルビィちゃーん!」



ぐあー! っと目の前の傲慢少女は横っ飛びだ。


どこから飛び出してきたんだろうか彼女は。スタンバっていたのだろうか。

先ほどの再現のように、イーロックがルールビィに抱きついて廊下に倒れ伏せた。



「突然ゴトー君を連れだして心配したんだよルビィちゃーん」

「ノォオオ! やめろ! バチバチするぅ!」

「ゴトー君は大丈夫なの? ボロボロだったじゃん」

「えっと、角度が良かったのか、奇跡的に無傷だったんだ」

「ふーん。気持ち悪い体してるんだね」



ひどい言われようだ。


この後、午後の授業に遅れないようにとイーロックはルールビィを引っ張って行って無事、今日の学業を完遂したのであった。

次回、ノンペルが出来上がるまでのプロセスが明らかになる。

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