シドウ『2』
「ところでゼルゥ。任せといた奴は調べられた?」
「おう、あれだろ。実に興味深かった。と言うより、本当に突然変異体かも疑ったぞ。本当はカラーリテラ出身なんじゃないか? それか元からある力だろ?」
「ありがたいことにそれだけはあり得ないのよ」
「そうかぁ~。本当にあの事故で変化したんだな」
肩を組まれながら、二人の間に挟まれながら研究者どもが話をし始める。
蚊帳の外、と言う感じがしないのはなぜだろう。むしろ当事者としてこの会話に加わるべきだと本能からのお達しだ。
「なあ、何の話だそれ? 俺も話に加えてくれよ。と言うより俺が関わってんだろどうせ。調べた奴ってどうせ俺のことだろ!」
「ご明察だ」
「ご名答よ」
こいつら、いつの間にか人を使って実験紛いなことしていたのか?
人をモルモットだと思ってバカにしやがって! この身に宿る恨みの念。はらさでおくべきか
「いやいや、アンタと同棲をして早数日ってところだけど、寝てる間にアンタからほんのちょっぴりだけ血を取らせてもらったのよ」
「寝てる間に血だって? ど、どこに刺し跡があるんだ? 待てよ。それだけじゃないはず……他に何かしてるんじゃなだろうな!」
絶対している。研究者ってやつらはモルモットに対して情を持っていないはずだ。
ほんのちょっぴりの情なんて間違いだ。絶対に他に何かしている。
「いやいや、この数日はアンタの様子を見る以外は何もしてない。代わりにゼルゥが調べてくれたから」
「ゼルゥさ、ゼルゥが? 何を調べてぐえぇ」
「ゴトー。お前は実に興味深い。カラーリテラでも類を見ない超高性能な力を後天的に身に着けたと言うことだ」
「後天的?」
もしかしてここに来てから数多く目にした目の数が三つの人とか空中浮遊してる人とか、そういった類の特殊な力を持ったってこと?
つまり、ミュータント化したってことか?
「ちなみに、どんな力」
「健康になる力だ」
…………………………………………………………………は?
「け、健康になる力?」
それってあれか。
日光を浴びてない引きこもりー! だけど安心超健康!
夜更かししちゃったー! しかし無問題超健康!
食生活が乱れちゃったよー! でも大丈夫超健康!
「何じゃそりゃー!」
健康になる力って、健康になる力って!
そんなもん朝起きて日の光浴びて一日三食バランスよく食べて日中活動して七時間睡眠取ってりゃ誰でも健康になれるじゃないか!
「そんなのって、そんなのって! 期待させやがって! もっとこう、空を自由に飛べるようになるとか、未来を見通す力とか、もっとやりようがあったんじゃないの!?」
ちょっとした冒険心もとい、期待の溢れた童心! どうしてくれるんだ!
いやどうしようもないんだけど。
プラスに考えよう。常に健康体なんだ。それはそれで無条件に素晴らしいことだ。
「何かアンタ、不服そうね」
「そりゃそうよ。健康なんて誰でもなれるし、健康になれる力って言われてもねぇ」
「これは仮説だがな」
「あん? なんですか?」
「お前は常に健康状態であると言うこと、つまり広域的な適応能力があると言う事じゃないだろうか?」
「広域的な適応能力?」
「例えば極寒の地に身を置いたら、我らはみなそれ相応の装備が無ければ大自然の前の無力さに身を窶しながら死に至るだろう。だが常に健康状態を保とうとするお前はその寒さに対応できる可能性を秘めている。少なくとももらった血での実験では度を越えた温度には適応できなかったがそれでも普通では考えられないほどの温度に適応した」
つまり、寒いところに行っても厚着をしなくてもいいってことか?
寒けりゃ厚着すればいいじゃん。
逆に熱いところ行ってもそんなに熱くないってわけ?
それは便利そうだ。
「所詮仮説の話だがな。ただ、確かなことがある」
「次は何ですか? 水中潜ったらえら呼吸になるとかですか?」
「一つ。お前の常に健康だ。あらゆる病原菌を投与してみたがそのすべてを飲み込みんだ。つまりお前は病気や毒の類は一切受け付けない」
病気にならないのか。毒も大丈夫なのか。
それなら夏に海に行ってクラゲに刺されたらどうしようとか心配しなくて済むな。
海に行けたらの話だけど。
「そして第二に。お前、屋上から落ちて全身の骨が折れたのに一瞬で治ったんだよな」
「まあ、痛みはまだありますけど」
「そうか。じゃあ今からやることはちょっと痛いがガマンしてくれ」
「ならやめてください。今からしようとすることを辞めてください! イヤアアァア!」
拒絶。恐怖。首に突き付けられた狂気の凶器。
メス? ナイフ? とにかくひんやりとした刃物が首筋を宛がってる!
「た、助けてトガ子! この人! 俺のこと殺そうとしてくる! 俺はお前のモルモットだろ! ここで殺されていいのか!?」
泣きわめいて助けを乞うも返事をもらえぬまま無情にそれは首筋を貫いた。
声にならない息が漏れる。
咽の中に異物感が気持ち悪い。
痛い。血が滲み出て刃物を伝う。
そして少しの間だけ制止し、乱暴に引き抜かれる。
膝が折れ、首筋を抑えながらその場にへたれ込む。
穴が開いている。声を出そうとしてもそこから声が漏れだすような気がして声が出ない。
血を止めなきゃ。止めなきゃ……止め。
「止まってる? あれ? あいた。なんか痛いイタタタタタタタタ! イタァ!?」
まるで蜂に刺されたかのような痛さだ。
絶えずリズムを取るようにズキズキする。
けど、摩ればわかる。確実に突き刺されて開いていた傷が何事もなかったかのように治っている。
「これってさっきのよね」
「常に健康体であろうとする。つまり怪我に対しては異常な回復力があるってことだ。零壱ゲートで芝生に落ちたとはいえこの建物から落ちて即死じゃなかった辺り、少なくとも打撃に関しての頑丈さも向上しているようだ.ただ、風邪の時に熱が出るように治るときに随分と痛むようだがな」
つまり、余分な痛さのある超回復体質と言うことだろうか。




