カクセイ『5』
予想以上だった。凄い物を見た。
かれこれ二十三年生きてきたが、自分の頭をモーニングスターにするやつとか、突然空中浮遊しだすやつとかがいて、見ていると面白いとしか思えない連中がばっかりだった。
何だ? ここは珍獣園か? サーカスか何かか?
落ち着け。あくまでここはエイリアンの母船だ。
目の前の事実は小説より奇なり、と言うより自分自身あり得ない体験をしているんだ。
何回このことを自分に言い聞かせた。いい加減なれるんだ。
とりあえずエイリアンの母船の学校にも昼休みと言うものが存在するらしい。
皆が皆羽を伸ばして雑談に勤しむ者やアホみたいな量の弁当をチャイムと同時に掻っ込む者。
ここら辺は地球の学校と何にも変わらない。
「ふぅ……勉強つったってエイリアンの勉強なんて何が何だか分かんねぇよ。なぁトガ子。飯食おう、」
「初お昼と行こうゴトーくぅううううん!」
「おぶぇっと!?」
側面からドーンと衝撃!
あぁ……イーロック。いいタックルだ。電気ショックもおまけ付きで。
クラスメイトからはいきなりだねぇ、と笑われながら言われる。
「うん。じゃあゴトー君! 初お昼に初屋上に行こう!」
「ちょ、引っ張んなって! と、トガ子ォ!」
目まぐるしく変わりゆく景色。
教室から廊下、エレベーターを昇って……人工的な青空の元、青春の一ページの定番、屋上だぁ。
屋上庭園。いい感じに緑化が進んでいて横になると景色も相まって寝転がると案外気持ちよさそうだ。
「むっふっふっふー。アタシ一押しのお食事スポット。本当は入っちゃダメだけど、だからこそ価値のある屋上。新入生の君には一度でいいから味わってもらいたいからねっ!」
「規則破りかよ……待て。俺巻き添えにされてる?」
「規則破りの共犯ですなー」
不覚。別に校則を破るつもりはないガッチガチの優等生気質でもないけど、流れる川の水のごとく規則破りの共犯者にされるのが少し気に喰わないと言うかなんというか。
「さてさて、君ってルビィちゃんと同居してるんだって?」
「まあ、同居と言うか軟禁と言うか」
「ふーむ。ルビィちゃんもスミに置けないねぇ。男の人と一緒に住んでるなんてねぇ」
にやにやと舐めるように見てくる。変な勘違いをしているな。
「……イーロはトガ子、ルールビィと友達なんだよな?」
なんとなく、出た言葉だ。
その問いに一つの間を置いて答えてくれた。
「あの子ってかなり特殊な立ち位置なのは知ってるのよね? あんなに小さいのにカラーリテラを代表する研究者で、父親が侵攻派のトップ。クラスメイトどころか学校側もルビィちゃんの扱いには困ってるって節があるんだよ」
それは、薄々感づいていた。
あの子に友達はいない。頼れる人もそうそうそういないだろう。
この数日間、ほとんど家から出なかったルールビィ。人とほとんど接点が無く、身内のハートアスにさえ裏では離別の姿勢を取っている。
そんな彼女に、親しい者と呼べるを人物がいるのかと言われると想像しがたい。
事実学校でもクラスメイトと話すところはみていないし、授業に出ていても自分のことに没頭しているのを見た。
本当に老婆心だろうが、変に保護欲が湧きたち心配な気持ちで満たされてしまう。
「でも君はあの子に抱きついていた。友達だと思ってるのか?」
「アタシはね、初物に目が無いんだ。あの子はまだ誰にも心を開いていない。ならアタシがあの子の初友になるんだ。別にあの子が淋しそうとかじゃないよ。そうしないとアタシが落ち着かないだけ」
シシシと歯茎を見せつけるように笑う彼女は、とても尊く思う。
ルールビィの存在はとても特殊だ。
どんなに幼くとも、決して同じラインに立つことはできない。ワンステップ上に立っているような存在だ。
どうあがいたってルールビィは舌に降りることはできない。
だけどイーロックはそこへよじ登ろうとしてくれる。
「イーロ。これからもあいつのことを気にかけてやってくれ。きっとそれがあいつのためになる」
「頼まれなくてもガッテンです。ルビィちゃんの初友はアタシのものだよ。あと、」
「なんだ?」
「君ほんとにアタシと同年代? 何かやたら大人びてると言うか、老けてると言うか。ホントに二万五千サイクル歳?」
鋭い。
その問いには渇いた苦笑いで返事をした。