カクセイ『4』
まあ一人になったところでどこへ行けと言うのか。
行きたいところもなければ一歩踏み出した時点で右も左もわからない。
結局のところルールビィの言った教材とやらを取りに行くしかない。
どうせ紙媒体じゃないデータ媒体だろう。タブレットみたいなものが置いてあるのかな?
エレベーターで上の階へ。
上の階に到着。目的の場所はどこだ?
とにかく歩く。扉の前、部屋の前には空中に部屋の名前がホログラム上に表示されている。
資料室は……あった。目的の場所に到着だ。あとは中に入って戦利品を……ん?
資料室の扉を開けようと近づいたら、自動扉が前に立つ前にひとりでに開いた。
怪奇現象か。はたまたエイリアン特有の超常現象か。
なんて考えは一瞬で、資料室の中から黄色い髪の毛のボブヘアーの女の子が出てきた。
「ばぁ。おどろいた?」
両手を小さく広げてる少しおっとりとした出達の少女。
少し肌が白めの笑顔を振る舞いてくる少女。
驚いた時かされて、正直驚いたも何もない。
むしろ今のゆっくりとした動きの中で驚かす要素があったのかと問いたいくらいだ。
「君は誰?」
「アタシはイーロック・モンプリエ。イーロって呼んでね。アナタが噂の新入生だねぇ」
イーロックと名乗る少女が聞いてくる。
噂の転入生と言われたら、おそらくそうだろう。
とりあえず頷いておく。
「俺はゴトー。何かようかい?」
「聞くけどアタシ以外にクラスメイトに会ってないかな?」
「会ってって俺の契や、同居人と一緒に来た。そいつがクラスメイトのらしいけど」
「なんですとぉ! あやや、新入生の初対面は取られてしまいましたかぁ」
何やら悔しそうに人差し指を額に当てている。
いきなり素っ頓狂な様子の子に話しかけられたが、逆にちょっと、肩の力が抜けた気がした。
カラーリテラに来て基本的にルールビィとしか接点がなかったため彼女と同年代くらいのこの子を見るとどこか安心を感じられる。
「いやですねぇ。アタシは『初物』に対して目が無いんですヨ」
「初物?」
「そう! 新入生と言うほやほやの初物! 誰よりも早くアタシのことを覚えてもらいたい。そのためにクラスメイトとしての『初顔合わせ』をしたかったのです」
つまり、何でも自分が一番じゃないと気が済まない……とは少し違うか。
少なくとも新品に対しての執着心が強いと言うことか。
「残念だったな。初顔合わせじゃなくて次点顔合わせだ」
「むむむぅ。それでしたら! 次なる初物ぉ……友達になろう! 新入生の初友だぁ」
すっと差し出される右腕。
少々呆気にとられたが。何だ。
つまり友達がたくさんほしい子ってことか?
初物と称して友達を作るのが趣味な子か?
そう言えばいたな。学生時代に転校生にやたら興味を持って話しかけまくっていたやつとか。
フフッとちょっとした笑いが出てしまう。愉快な子だなこの子は。
「ああ、よろしくなイーロォっっっ!?」
イーロックの手を握ると同時にバチンと強烈な電流が流れ、咄嗟に手を放す。
この感覚。カラーリテラに来た初日に流されまくった首らの電流と似てる?
まさかルールビィのやつ。手にも電流が流れるようにしたのか? いつ流したんだ? と言うより近くにいるのか?
「あちゃーごめんごめん。あたし帯電体質だから静電気が流れちゃったかも」
「た、帯電体質?」
「他の子もまだ自分の力や特徴を上手く抑えられてないからねぇ。でも大丈夫! ゴトー君もすぐに慣れるよぉ」
力や特徴を抑えられないとは、まるで自分に特殊な力があるみたいな言い方だ。
今の帯電体質と言うのも、何かの特殊能力とでも言いたいのだろうか。
「それについては私が答えるわね」
「トガ子。話は終わったのか?」
「終わったわ。それにしてもアンタは何で教材を取らずに部屋の前で」
「ルビィちゃんだぁあ!」
ひゅばっと空気の切れる音がすると同時に、目の前にいたはずのイーロックが消え、視線を移すとルールビィに抱きつきながら床に転がっている。
うわぁめっちゃバチバチバチィってものすごい静電気の音が聞こえる。
あぁかわいそうにルールビィよ。南無三。
「うえへへへ。ルビィちゃんぷにぷにしてかわいー♪」
「ぎゃああ! やめろモンプリエ! アンタは自家発電の体質なんだからそんなにすり寄られたら電気が発生するから! 離れて!」
「ありゃりゃ嫌われました。じゃあねゴトー君。お昼ご飯一緒に食べて初お昼と行こうねー」
手を振りながらその場を後にするイーロック。初お昼って何だよ。
「うげぇ……携帯機器に変な不良が起きてなきゃいいんだけど」
「いやぁ俺としてはいいもんが見れた。ウォーキーのおばちゃんといい、お前案外押しに弱いな。ガハハハハアババババ!? イ、いきなり電流を流すな!」
「お前のその歳上ぶる態度が気に喰わない! 何が押しが弱いよ! フン!」
怒ってそっぽを向く。
こういった子供っぽいところを見るとこいつもまだまだと思ってしまうな。
それ以上に、こいつはあまり学校に行っていないみたいな言い方だったから友達もいないんじゃないかと疑っていたが、どうやら杞憂のようだ。
ハートアスの言っていた社会との関わりもあるようだし、少し安心した。
「で、お前は俺に何を説明しようとしたんだ?」
「別に。カラーリテラにいる異星人はアンタだけじゃない、各地から多くの異星人が移民として集まった多文化船団なのよ。街中でも見かけたでしょ。角が生えてる者もいれば髭が生えてる者と多種多様」
「へぇ。つまりいろんなエイリアンが集まったった舟ってわけか」
でも待てよ。ここでちょっとした疑問が残る。
なぜそんなにも皆似たような姿なんだ? 二本の足で歩き、五体の肉体を持つ。
宇宙は広いんだ。違う星の生物なのに皆が似た姿なんてあり得るのだろうか。
「この船団に入るには特殊な肉体改造が必要なのよ。身体の構造を弄ってアンタみたいな五体の身体を基本として再構成される。いわば移民の洗礼ってやつ」
「つまり、街中歩いているやつの中にはかつてタコ足の宇宙人がいたかもってことか?」
「そうね。カラーリテラの歴史は千年以上。その間にいろんな星からの移民が来たらしい。最初のころは姿かたちを変えずにありのままを受け入れられてたみたいだけど、いつの間にかこの姿がスタンダードとなったの」
郷に入っては郷に従えを途中から取り入れたと言ったところか。
まあ体の構造を統一した方が何事においても便利に働くだろう。
服とか、家とかも変にこだわらなくていい。
「ただ、移民の際に原生生物を連れ込んだり技術を持ち込んだりのおかげでカラーリテラの故郷の色はだいぶ薄まってね。地域によっては独自の生態系や文化を築いてるのよ」
「じゃあお前ももしかしたら異星人かもしれないのか?」
「少なくともカラーリテラ打ち上げ時の純粋な血統はいないでしょうね。私の中にも異星人の血は混じってるはず。だけど私の身体は他のと比べて装飾が無いから原住民としての血は濃いと思う」
「……待てよ。異星人の身体構造が組み替えられているなら、俺の身体ももしかして」
「それについては大丈夫。アンタたち地球人は私たちの身体構造とかなり似通ってるから肉体改造はしなくて済んだの」
そうなんだ。
よかったと安堵の息を漏らした。
気付かぬうちに改造手術を受けているんじゃないかとひやひやしたよ。
「カラーリテラの住人はそんな異星人の血を多く混じらせた船団。生まれつき、過去の異星の血が色濃く出れば角が生えたり、髭も生えたり、中には超人的な能力を持つ人たちもいる。基本的に幼いうちに抑えることを学ぶんだけどね」
「つまり、この学校では学を学ぶ以外に生まれ付いた力があればそのコントロールを教えることもしてるってわけか」
ご明察。ルールビィはそう言った。
なるほど、やはり地球と同じ物差しで見ない方がいい。
生まれついて特別な力と容姿が宿る世界。それを抑える力を学び大人になっていく社会と言うことか。
「モンプリエの帯電体質なんてまだ序の口よ。クラスに行ったら頭の上に雲を作り出してる奴もいれば、自分の腕が着脱式なんて奴もいるんだから」
それまた、随分と心臓を強く持たないといけないみたいだ。