カクセイ『3』
そしてまあ食事も終わって、身支度も適当に済ませて、ルールビィ曰く久々の登校、学校に行く準備は完了だ。
「もしかしてピタースーツの中に学生服の項目があったのって、これを着て登校しろってことなのか?」
「一応指定の制服はあるよ。まあ年齢はバラバラだから律儀に着ていく奴なんてほとんどいないけど」
「そうか……お前はその恰好で行くのか? 尖りまくったそのファッションで」
ウォーキーを買いに行くときも基本的にその尖りまくった私服だけどいいのかな?
でも街を歩けばこいつより奇抜なファッションの奴なんてごまんといたし、やっぱり自分の感性をエイリアンと合わせるべきじゃないかもしれない。
まともな服装のやつもごまんといたがな。
「もちろん! 上半身はピッチピチ。下半身はふわふわ。白衣に包まれ、額には決まったゴーグル……は外していこう。ずっとつけてると頭がかゆくなる」
「じゃあ俺も学生服じゃなくていいか」
ピタースーツの項目の一つ、外着を選択。
いくつかある項目の中で外着が一番気に入っている。
外に着ていける服と言うのもあるけど、自分好みだからだ。
黒を基調としたライダースジャケット。上下共に服の重さを体にダイレクトに感じられる、そんな重さと堅さ。
少なくも残る童心を擽ってくれる。
「よし。俺の準備は整った。荷物とかはどうするんだ?」
「教材とか必要なものは向こうが準備してくれるから学校に向かうわよ」
あいよーと言って、いつも通り穴をあけてもらう。
この部屋には『扉』が無い唯一繋がりがあるのはスイッチ一つで別の場所にあるルールビィの部屋に一瞬で移動できるたった一つの零壱ゲートだけ。
基本的にこの部屋に軟禁状態だ。
外に出掛けるにはルールビィの持つ零壱ゲートの本体を通じてしか外に出ることはできない。つまり外に出る時は基本同行しかないのだ。
「嫌だねぇほんとに」
「好き勝手出てもらっても困るわよ。じゃあゲート開くから、行くわよ」
彼女の持つ零壱ゲートは座標を入力することで遠くへ一瞬で移動ができる。
もちろん前もってデータを入力しておけばいちいち入力せずとも選択しただけで移動ができる。
今回はおそらく学校の前にでも移るのだろう。
零壱ゲートを起動させ、穴を開ける。その先が目的の場所だ。
ルールビィが穴を通るのを確認してから潜り抜ける。視界が変化した。そこは光のあまり刺さない、物置のような部屋だった。
「どこだここ?」
「学び舎のビルの一角の部屋。まあ物置部屋みたいなもんよ」
確かに、少し埃っぽい。あまり人の出入りが見られない薄暗い部屋だ。
置かれた物を押し退けながら、すいすいと慣れた様子で先行していくルールビィについていき自動扉から外に出る。
そこはまあ、よく言うSFチックな内装だ。
サイバーに決められたデザインから近未来を思わせるオフィスビルの廊下と思わせてくれる。
「さすがに宇宙船飛ばすエイリアンは未来行ってんな」
「いっとくけど私たちから見たらアンタの方がエイリアンだし、アンタたちが遅れてるだけよ」
ごもっともな意見をありがとう。
どこへ向かうと声をかける。
着いて来て。それだけを言われて、初日の病院内のように着いて行く。
連れてこられた扉を開け、いくつもの机が並べられ、そこに座る人たち。
ちなみに補足するなら彼らはエイリアンだけど地球人と見た目がとても似通っているため人と数え、称している。
何体とかに例えるのは何となく面倒なんだし、見た目的にちょっと引ける。
とりあえずだ。何人かが自分の机と面を向っていて、話をしている人もいれば何かの資料を読んでいる人と色々。
言えることは一つ。ここ、職員室だ。
「先生殿。お久しぶりね」
目上の人に何という声の掛け方だ。
だけど教師側はそのことには気にも留めず、むしろ喜ばしい様子で久しぶりだね~と応えてくれる。
「先日、この学園に籍を置きたい奴がいると言った話をしたけど、こいつよこいつ」
「どもです先生。ゴトーです」
話は聞いているわよと応えてくれる。
話によると手続きは済んでおり、どうやらルールビィと同じクラスに在籍とのこと。
「ん? ちょっと待て。お前確か十四歳だよな? 俺と十も違うのに同じクラスなのか?」
「違うクラスにする意味がないから。ちなみにアンタが籍を置くのは二万サイクル歳から二万五千サイクル歳のクラスで……まあ十四歳から十六歳のクラスって思っておけばいいわ」
完全に中学校じゃないか。
もう大学も卒業している歳だと言うのに、ガキどもに混じって机とにらめっこする羽目になるとは。
ああ呪おう、運命を呪おう。
いや、カラーリテラの連中全員を呪ってやる。
地球に要らん興味示したせいでこちとらひどい迷惑だ。
「よく歳が違うってのに俺を同じクラスにできたもんだな」
「知能指数が低いオツムのない奴として申請したからね」
「あ?」
「冗談よ。そりゃもうあれよ。裏金よ」
ちゃりーんと指で銭の形を作る。
「マジかよ」
「これも冗談」
「お前冗談ばっかりだな! 冗談言うほど親密になったって思った方がいいか?」
「まああれよ。私の空間技術のいくつかはカラーリテラに提供してあってね。この学校もそうなの。だからいくらか融通が利くのよ」
その話なら納得だ。つまり見返りとしていくつかの自由がもらっていると言うことか。
それもかなり込み入ったところまで入り込めるようだ。
事実、生徒の一人の所在を自由にできるのだからな。
「アンタは教材を取りに行ってちょうだい。私はここで先生とちょっと話をするから」
「どこにあるんだよ」
「上の階が私たちのクラスだから、同じ階の資材室ってところに置いてあるわよ」
ほら行った行ったと部屋から追い出される。
モルモットを一人にしていいのか? 用事はあるけど、とりあえず一人の時間ができた。