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インサイド  作者: 成神全吾
ノンペル/クエスト
16/57

カクセイ『2』

「十億人以上が暮らしてるカラーリテラ。アンタたち地球人と同じように私たちはアリやハチのような統率のとれた集団が故に一人のような思想はない。地域によって様々な考え方もある。だからこそ争いもあった」

「宇宙船内で、争いをするのか」

「文化や考えの違いは争いを生む。その中でもとりわけ対立しあっていたのがサイレント・ウォーって言われる親交派と侵攻派の仲違い。私の両親は侵攻派最高権力者であるハートアスの側近だったの。地球を侵略するぞーって躍起になっててさ」



正直、言葉の返しようがない。


只々、ずいぶんな急進派だとか過激派だとか、そんな言葉しか浮かび上がらない。



「アンタ、私の両親もろくでもないとか思ってるでしょ? 侵攻派に所属して戦争するーって意気込んでるとか思ってるでしょ?」

「んー……いや、ノーコメントで」

「いいのよ。所詮なまじ自己愛がある生命体ってのはロクでもない。侵攻派も親交派も同じ。そう、私の両親は親交派、仲良くするほうのよ。その過激派にパパが狙われた時に守って、死んだ」



親交派の過激派。手を取り、仲良くしましょうなんてタイトルを掲げているのに、そんな暗殺紛いなことをするのか?


いや、正義を装って裏の顔を持つ。地球でも同じ奴はいるか。



「両親は死んで私は今のパパに引き取られた。パパはより一層地球侵略に熱意を燃やした。もう本当にロクでもない。侵攻派も親交派も。上の連中は乱暴なことばっかり考えてる。だから私は変えてやるって決めたの。親交派が本当に手を取り合って、みんな仲良く誰とも争わない思想を広げるってね」



この子は……本当に14歳なのだろうか。

親の死を体験して、なぜそう考えることができるのか。

子供っぽいと思っていた。だけど違う。芯がある。


なんとなくだけど、まるで歴史の節目を作る偉大な人物に立ち会っている。そう思わせて来る。



「つってもお前ひとりでなにができるんだ?」

「まず手始めに親交派を乗っ取った」



素でえぇ……と言う言葉が漏れてしまった。

何を言っているんだこのガキはと素で思ってしまった。

と言うより本当に何を言っているんだ。



「言ったけど、私は親交派の影の最高権力者なのよ」

「それは聞いた」



問題なのは手始めにと何故お手軽感覚で乗っ取りを敢行できるかを聞きたい



「まあ私はロストオーバーツの研究者として富も知名度も信用もある。まずが親交派にすり寄って、内から食い荒らす白アリのように牙城を崩してやったわ」

「そんな簡単に言うけど、そんな上手くに行くわけないだろ」



十秒も満たない説明だけど、簡単に首を縦に振って『なるほど~』と納得する自分なんて存在しない。

もうちょっと内容のある会話をしよう。



「聞いちゃうの? そりゃあの手この手の汚い手。グレーゾーンギリギリから汚職も真っ青な献金積み積みなことまで多種多様」

「つまり、悪いことをしたってことか?」

「目には目を。歯には歯を。黒には黒をよ。卑怯なんて言わせないわ。大事の前の小事ってやつよ」



それって結局のところ侵攻派や親交派の過激派とやっていることと同じじゃないのか?

そう聞いてやりたかったけどどうせ聞いたところで反省の色も見せないだろうし、今言った通りハンムラビ法典紛いな言葉を返してくるだけだ。



「そのうちしっぺ返しを食らうぞ」

「望むところよ。みんなが手を取り合う思想を広めるまでくたばりなんかしないわよ。ま、私が表立ってると色々と面倒だから影武者を用意してるんだけどね」



ガハハと大口を開けて大笑いしてやがる。


最優秀生徒だったり幼くして富と名声を持っていたり黒いことに平気で手を染めたり、大物なのには変わりないがどこか人生を舐めきったような生き方だ。



「そんなわけでパパに黙って世直しをやってるってわけ。少しずつじわじわと思想を根付かせてやろうと思ってたけど。アンタが手に入ったおかげで一機に計画が進んだ」



きゅぴーんと両の目が光り輝く。

何だ? その予想外、嬉しい誤算を目の前にしたような満面の笑みは。



「俺が何だって言うんだよ?」

「アンタって地球人じゃん? カラーリテラでは地球に攻撃するか仲良くするかで結構揉めてるのは分かってるわよね?」



それが侵攻派と親交派だろう。耳にたこができるくらい聞いた。



「ぬふふふふーん」

「気持ち悪いなお前。いや、変なのは元からか」

「笑わない方がおかしいわよ。アンタ最高のモルモットよ」



最高の実験動物(モルモット)と言われて褒められた気など更々わかない。

むしろ最高の不名誉だ。実験材料として最高と言われたんだ。裸足で逃げ出した方がまだマシだ。



「アンタが手元に来てくれたおかげで私の『カラーリテラの皆! お手て繋いで仲良くしましょ♪』作戦が次のステージへとコマを進めたのよ」

「ほお。何故だ」



その問いにルールビィはふっふっふと不敵な笑いをしてくる。

もったいぶってないで言ってくれよ。モルモットとして気になるだろう。



「いい。アンタはカラーリテラ唯一の地球人。アンタをすっぽんぽん同然に調べ上げて地球人の安全性をカラーリテラに公表すると同時に表舞台に立たせる。今トレンドの地球人と言う肩書は絶大な話題性を生む! 著名人の会談からテレビ番組の出演。アンタをお茶の間にデビューさせて有頂天まで登り切ったその時にこう言ってもらう!」


『ボクチキュジン。カラーリテラメチャオモロイ。ナーカヨークシーマショ』


「ってね!」



立ち上がり、ぐあっと勢いよくガッツポーズを決め宣言するルールビィ。


その宣言に反射的に声を荒げた。



「おまっ、ふざけんな! つまり俺を見世物にするってことか! ぜってー嫌だ!」

「何言ってんのよ! アンタはカラーリテラでの自分の価値を分かってない! 地球人のアンタがカラーリテラと仲良くしたいって言えば自ずと世論は私の求める親交になる! それさえ完遂したらアンタを地球に帰してやってもいい」

「か、帰してくれるのか!?」



心が揺れる。零壱ゲートと言うよくもわからないロストオーバーツによって宇宙に連れてこられた。しかし、地球に帰すことができるのか?



「零壱ゲートは誰にも使われないように研究事全部私が保管してる。安定した運用とエネルギーさえ確保できれば地球への片道切符くらいならやってあげなくもないわよ」



むむむと唇を噛みしめる


両てんびんにかけ、今の自分が欲していることを選出する。

そうだ。どうせもともと首輪をはめられて逃げられないんだ。素直に帰してくれると言うなら、従うのが一番だ。



「……約束は守ってもらうぞ」

「契約成立! よし。じゃあさっそく地球人の適応力を確かめるために集団である学校に行くわよ! くぅ~! 学校に行くのがこんなに楽しみなのっていつ振りかしら!」



そう言って彼女はパンとオカズを勢いよく胃袋に押し込んでいく。

少しだけど、地球に帰る希望が見えてきた。

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