シュトゾン『3』
「さぁて。今度こそ本当に質問に答えてもらうぞ。何の目的で俺をここに連れてきたのか。そしてトガ子。お前は俺に何を求めているのかを」
テーブルを囲み、こうやって面を向って話をしているが改めて聞こう。彼女は敵なのか味方なのか。
味方と言え。敵と言われたらもうどうしようもない。味方と言ったら全力で家に帰してと駄々をこねてやる。
とうのルールビィは幸せそうにウォーキーを頬張っているが。
「………おい」
「ムグムグ……そうね。言ってしまえばモルモットは本当よ。どうせ帰すことはできないし、これを機に地球人のことを詳しく調べよう。それが私の目的」
「つまり、俺の敵なのか? 味方なのか?」
「敵ではないわね。パパみたいに地球を攻撃しようなんて思っていないから純粋に地球人のことを知りたいだけよ。むしろ味方って思ってもいいくらいだわ」
「ほう、何でだ?」
「ご飯奢ってあげたじゃない」
逃げたけどな。
「まさか餌付けしようなんて思ってないだろうな」
「そんなつもりは更々ないわよ。これは正当な取引。アンタ。帰れないけど住む場所とか食べるものはどうするつもり」
「そりゃあ……」
改めて考える。彼女の言葉を信じたらここは地球ではない別の場所。帰してほしいと言ってもそれが叶わぬ夢だとしたら。この先どうしたらいいのだろうか。
ルールビィの言う通り、宿無し金無し飯も無し。歩いて転んでしまえば手を差し出してくれる人もいない一人ぼっちの状況。冷静に考えなくても今の状況が切羽の詰まったものだとわかる。
え? 何? もしかして今目の前の少女に見捨てられたらどうしたらいいかわからない状態?
異国の地に一人置き去りにされた旅行初心者以上に緊迫した状態?
それを分かっているのかルールビィがニマァと人を小馬鹿にした満面の笑みを見せてくる。
ね、妬ましい。何でこんな年下の少女にそんな面白フェイスで煽られているんだ。
落ち着け。深呼吸だ。
別にムカつくから一発ひっぱたいてやろうとかは考えないけど、年上に、捨てられた、子犬を見るような哀れみの目を向けてくることに少々真剣な説教をかましてやりたい。
「そりゃあ……の後は何かしらねぇ。別にいいわよ。私をほっといてどっかに行ったって。そのあとはどうするつもりぃ? 住み込みのバイトでも探して日銭を稼ぐの? 家に帰りたいのよねぇ? なのにカラーリテラに染まっちゃうのぉ? ニヒヒヒヒ」
「こ、このクソガキ……!」
「そんな口聞いちゃう? まあさっきの年齢のこともあるし、アンタが年上だって認めてあげるわ。でもアンタ。そんな年下がいないと何にもできない。路頭に迷っちゃってどうしようもない状況よねぇ。滑稽。カワイそう」
生意気すぎる。
今の立場を利用してここぞとばかりに言い攻め立ててくる。
そもそもお前たちのせいでこうなったんではないか、と言いたいところだけど今この場でこの子に見捨てられたら、完全にプー太郎に堕落してしまう。
本当に情けない話だけど、ルールビィがいないとどうしようもない。
「だけど、私は優しいの。アンタにメリットしかない取引。聞かないなんて言わないわよね?」
「……俺のことを調べたいって言ったけど、具体的にはどうしたいんだ?」
「それは考え中。血液を採取するのもいいしちょっとした投薬に付き合ってもらうのも良し。その代わりにアンタに安定した衣食住を提供するわ。これ以上ない取引だと思うんだけど」
調べる内容が不透明過ぎてこれ以上ないくらい胡散臭い取引だ。だけどさっきから言っているようにこちらには選択肢はない。
まさに崖っぷち。前門に虎、後門に狼とはこのことだ。
衣食住にありつける方がいいかもしれないけど、その代わりにスーパー奴隷になり果てるかもしれない。
それに一つ、確かめたいこともある。
「そもそも、何で俺を誘拐したんだ。地球人なんてアホほどいるだろ。なのに何で俺を選んだんだ」
「別にアンタを選んだわけじゃなかったみたいよ。何十人か連れてきたみたいだけど」
「そんなに誘拐をしたのか? ろくでもないなお前ら」
「私の関与しない所で行われた計画って言うか。全てはパパの凶行が発端なのよね」
「ハートアスさんの?」
つまり、ここに連れてこられた原因はこいつの父親が原因と言うことか。
ハートアスもルールビィと同じように地球人を調べたかったのだろうか。
「パパも私も研究者なんだけど、基本違う分野なのよ。パパは人体及び精神的な研究分野。対する私は空間技術の研究分野。パパは私の研究を使って地球に調査団を差し向けたのよ」
「調査団? トガ子の研究を使ったって、地球に来る手段があったのか?」
と言うより、これだけバカでかい船を宇宙に浮かしているなら地球に来る船の一つでもありそうだが、ルールビィの言い方だとまるでルールビィの研究無しでは地球に来れないような言い方だ。
「私の研究分野はちょっと特殊でね。アンタのピタースーツやカラーリテラそのものみたいなロストオーバーツの研究なのよ」
「その、ロストオーバーツって何?」
「『失われし遺産』。私たちの祖先は元々、アンタたちの住む地球のように惑星に住んでいた。けど、発達し過ぎた文明がやがて星そのものの機能を破壊し、生物が住むには難しい星に変貌させた。祖先は汚染されていない大陸を宇宙船に創り上げていくつかの技術を捨てて宇宙に飛び立った。その技術がロストオーバーツ。滅びをもたらした遺産ってわけ」
発達し過ぎた力は自分の力でコントロールできずに自壊した、と言ったところか。