シュトゾン『2』
「ハイハイ今作ってあげるって。ゴトーさん。また話聞かせてね♪」
「おばちゃん!」
「おーこわ」
おばちゃんはそそくさと謎の食べ物ウォーキーの調理、もとい準備に取り掛かる。
話を聞かせてと言ってもまだ顔を合わせて数時間しか経ってないこの子の何を話せばいいんだろうか?
親交派のトップですーとか寝顔はかわいいーとか言っておけばいいんだろうか。
実際彼女の情報をほとんど知らないから、ここらで聞いておいたほうがいいのかもしれない。
散々質問に答えてあげるとか言っといて全く答えてくれなかったし。
「フー…フー……ん? 何アンタ。その妙に優しい眼差し」
「いや、子供っぽくて微笑ましいなぁーってあいた!」
「何が子供っぽいよ! モルモットの分際で生意気なのよ! 恥を知りなさい恥を!」
またしても殴打。なんて手の出る速さだ。思考より直感で動いているのか?
ただ、こうやって顔を真っ赤にして反論してくるあたりもかなり子供っぽいな。
「だいたいアンタ私に対して随分上から目線じゃない! 何? アンタは年上のつもりでいるのあぁん?」
「逆にお前は俺より年上だと思っているのか?」
「アンタ何歳よ。何歳よえぇ!」
「何歳って、23歳だけど」
と言うより歳を言って意味はあるのか?
このカラーリテラと地球の時間の周期とか、絶対同じじゃないだろう。
一応十年前とか言ってたけど。
土俵が違うというか基準が違うというか、年齢を馬鹿正直に答えても意味のないものだと思うのにルールビィはなぜか勝ち誇ったように笑った。
「勝った。私は20000サイクル歳以上。アンタより19977歳上よ」
ほらやっぱり。
サイクル歳って何だよ。
「以上ってなんだよ」
「というわけで私がお姉さん。年上の言うことは聞きなさい」
まあ、20000サイクル歳以上がこちらの基準で何歳かは知らないけど、幼い子の物言いにツンケン反論してもしょうがない。
わかったよと宥めるように返事をする。
「ちなみにアンタの年齢に合わせるとね」
「合わせられるのか? て言うか止めといたほうがいいぞ」
「やかましい! 私がアンタよりアダルトってことを見せてるやるわ」
またしてもホログラフを立ち上げカチャカチャと操作していく。
地球の時間と同期ができるのか?
なんで自分の首を絞める真似をするのだろうか。
「出た! なになに……ッ!」
「で、何歳って出たんだ」
「えっとぉー……39歳かな」
「よぉおばさん」
「14歳に対しておばさんはないでしょー!」
やっぱり年下じゃないか。
「言っとくけど歳なんて関係ないのよ! アンタは私のモルモットなんだから逆らうこと禁止! もし逆らったら電流お見舞いしてやるから! わかった!?」
「わかった。わかったよ。トガ子には逆らいませんから」
言ってしまうと、やはり反抗盛りの子供ということだ。
「こう見えてカラーリテラで最優秀生徒でアンタなんかより地位は上だから。そこんとこ頭に叩き込んでおきなさい」
ここで新事実。
最優秀生徒。つまりこの子は学生。
まだ色々と学んでいる最中ということか。
「はいよルビィちゃん。ウォーキー赤塗り二つ。彼氏さんもいただいてね」
「違うから……! とっとと食べるわよ」
催促されてとりあえずついていく。
振り返るとおばちゃんは嬉しそうに手を振ってくれた。
席に着き、やっとこさ落ち着ける状態になる。
そして対面してまさに話し合いの場。目と目が線を結び互いの意思と目的が一致するかのような達成感。
やっとまともな話ができるのか。
「さぁて散々待たせてくれてんだ。まずここがどこかはそのカラーリテラとかいうのを信用しよう。お前は俺をどうしたいか、」
「待って。そんなに急いちゃ事を仕損じるわよ。先に食べましょ。おごってあげるんだから感謝して食べなさいよ。ここのウォーキーは絶品だからね」
だからウォーキーってなんだよ。
手渡された紙に包まれたそれは赤い色のパンにジューシーや作りたてのパテ、色とりどりの野菜を挟んだ……
「まんまハンバーガーじゃないか」
「なにそれ? これはウォーキーっていうのよ。何と見間違えたかは知らないけどこれはウォーキーだから。ウォーキーだからね」
何度も念押しされてるけど、パンが赤い以外完全にハンバーガーだ。
そう、まごう事なきハンバーガーだ
「一体何が違うって……ん?」
ハンバーガー、もといウォーキーに突然ある物体が浮かび上がる。
ギョロリと、こちらを見定めるように舐め回すように、パンの部分に丸い円形のそれがこちらを睨みつける。
睨みつけるとは比喩表現とかではない。文字通り『眼』が現れたんだ。
「うわぁあっ!」
反射的に手から放り投げた。
ウォーキーは地に落ちる。すると手足を生やし、紙くずから飛び出したかと思えばまるでトカゲのように走り出し、通行人に蹴られ、ソースが飛び散った。
『ピギー!』
『うわっ! 誰だよウォーキー食べ損なったやつ!』
少し離れたところでちょっとした喧騒が起きている。
冷や汗が止まらない。
「あー……せっかくウォーキー奢ってあげたのに。もったいなー」
「な、何なんだよあれ! 眼がギラッて、足が生えて走り出して!」
「そういう食べ物よ。生きが良くて美味しいのに」
ルールビィは大口を開けてウォーキーにかぶりつく。
食べられたウォーキーからピギーと小さく断末魔が聞こえる。
もしかしてこのファーストフード……踊り食いなのか。
「ムグムグ……ん? 欲しいの? もう買ってあげないわよ」
「いや、結構」
今のを見てもう一度食べようなんて思えなかった。