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能ある竜の爪を研ぐ

 朝の支度をしてから、老人と一緒に小屋を出た。

 兄さんは、まだ目を覚まさないので僕がおぶっていた。

 起きている人間を背負うのと違い、寝ている人間を背負うのは少し大変だった。

 力が全く入っていないので、油断すると落っこちてしまいそうになる。

「先に、ドラゴンの様子を見に行く。そして、そのまま山を降りよう」

「はい」

「そうじゃ、お前さんに良い物をやろう」

 そう言って、老人は棚からナイフのようなものを取り出した。

「竜飼いの一族に伝わる宝剣【竜刀蛇尾】だ」

「そんな大事なもの、預かれませんよ」

「ワシにはもう跡継ぎはおらん、ドラゴンと一緒に滅びるしかない運命じゃからな。お前が持っている方が御先祖様も浮かばれるってもんだ」

「ナイフなんて、使いかたも解らないですし」

「大丈夫。すぐに使いこなせる」

 手がふさがっているので、無理やり腰に装着されてしまった。

「何かあった時、ワシに守れるのはせいぜいあのドラゴン一匹だ。お前が妹さんを守るんだろう」

「はい」

「刃物を扱っていいのは、刃物の危なさを理解している人間だけだ。そして、誰かを傷つける為じゃなく、守る為に使える人間だけじゃ」

「分かりました。僕が竜飼いの意志を引き継ぎます」

「まぁ、そんなに気負わんでくれ。御守りみたいなもんじゃ」

「はい」

 昨日、ドラゴンに遭遇した場所からそれほどは離れていない洞窟に竜の巣があった。

 兄さんのおかげか、かなり調子は良さそうで、老人にすり寄ってきた。

「驚いたな。羽もあんなにボロボロだったのに。今日は体調が良さそうじゃな」

 出会ってからずっと表情が固かった老人が心の底から嬉しそうに笑っていた。

「あれ、ここはどこだ? 」

 そして、兄さんが目を覚ました。

「竜の巣ですよ、いろいろあっておじさんが山を降りる案内を引き受けてくれたんです」

「わ、分かったから下ろして」

 まさか、自分以外に誰かが見ているとは思っていなかったようで本物の子供用みたいにおんぶされているのを見られるのは、兄さんも恥ずかしい様子だった。

「危ないから、暴れないで」

「おお、妹も目を覚ましたか」

「いもうと……」

 笑顔のまま、老人が兄さんの頭を撫でる。

 完全に子供扱いされており、恥ずかしさで顔を赤らめている。

「あ、ありがとうおじ、おじいちゃん」

 ぎこちない演技に、僕も思わず笑ってしまう。

「なんだよお前まで、からかいやがって」

 地面に降り立った後も兄さんはふてくされていた。

 すると、ドラゴンがわざわざ兄さんの方まで近づいて、顔をすり寄せてきた。

「お前、元気になったんだな。良かった」

「ほう、気に入られているな。本来は、知らない人間に懐くことはないんだがな」

「きっとおじいさんと一緒だから、安心しているんですね」

「くすぐったいよ」

 まるで、ずっと昔からの仲良しのように、ドラゴンと兄さんはじゃれあっていた。

「それじゃあ、さっさと山を下りるとしよう」

「はい」

「実はこの洞窟の奥に抜け道があって、そこからだと半日くらいで街までいける。ワシら一族だけが知っている秘密の道だ」

「じゃあな、ドラ吉」

「兄さん、それじゃどら猫だよ」

「不思議な奴らじゃ、急に現れたと思ったらいつの間にか竜にまで懐かれておる」

「昔から、兄さんは動物に好かれやすい」

「動物にしか好かれないんだ」

 動物に好かれるというのは、一種の才能だと思う。

 僕は逆に、犬やは虫類など動物は苦手な方だった。

「お嬢ちゃん、君には竜飼いの才能があるよ」

「お嬢ちゃん……、そんなことないですわ」

「兄さん、逆に不自然だよ」

「うるさい」

 それからすぐに、抜け道から下山する道まで歩いていき何とか無事に街にたどり着けた。

 今まで通ってきた村とは違い、店や宿屋などの施設がしっかりと充実していた。

 それなりに人が多いので、うまく人混みに入っていれば怪しまれずに済みそうだ。

「おじいさんは、どこに向かわれるんですか?」

「食料と日用品を買ってから、また戻るつもりだ。お前さんらは知り合い会いに行くんじゃったな」

「はい。顔を見たら分かるはずなんですが……」

 まさかこんなに、人口の多い街とは思っていなかったので、手紙を渡そうにも相手を探さなくてはならない。

「じゃあな、お嬢ちゃんもはぐれないようにしっかりお兄さんに着いていくんじゃぞ」

「うん」

 兄さんは精一杯の演技で、挨拶を済ませて老人と別れた。

「兄さん、やっぱり喋り方は気をつけないと今後も、何かと怪しまれそうだよ」

「無理。妹のふりなんて出来る訳ないだろ」

「せめて、人前では注意してね」

「お前も、兄さん兄さん言ってると怪しまれるぞ」

「これは、無意識だから。僕も気をつけるよ」

 お金がないので、市場は素通りして民家の並ぶ通りを歩く。

「せめて、どんな格好かとか、どこに住んでるとかは聞くべきだったね」

「手紙に住所は書いてないのか? 」

「書いてない」

「しらみつぶしに、民家の戸を叩けってのか? 」

「うーん誰かに聞いてみるか」

「名前も解らないよ」

「それこそ、手紙に書いてあるだろ」

 仕方なく開いてみると名前らしきものが記されていた。

「アンか、どこにでもありそうな名前だな」

「とりあえず、聞いてくるよ」

 通りすがりの住人に声をかける。

「アンねぇ、いるにはいるけど。その人がどうか分からないわ」

「アンなら、3軒隣にそんな名前の子供がいたかしら」

 洗濯をしていた2人に聞くと近くに住んでいるらしい。




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