灯台その日暮らし
ふと、夜中に目が覚める。
先ほどまで、そこにいたはずのドラゴンは自分の住処に帰っていったようだった。
兄さんは相変わらず深く眠りについており、夜の風が金色の髪を揺らしていた。
いつの間にか雲が晴れて、綺麗な月が現れている。
毎日が新しいことばかりで刺激に満ちていた。
あまりにも日常からかけ離れた状況に戸惑う事も多かったが、兄さんが近くにいてくれるから何とかやってこれた。
「うーん」
まだまだ、誰かを守りには非力な身体ではあるけれど、せめてこの小さな背中くらいは安心して任せてもらえるようになりたい。
そんな事を想いながら月を眺めていた。
「驚いた。こんな山の中で何をやっとる」
手斧をかついだ小柄な老人が、僕達に気付いて歩いてくる。
「山を越えるつもりだったんですが、道に迷っていたんです」
「そんな小さな娘を連れてか? まさか誘拐じゃないだろうな」
老人は険しい表情でこちらを睨む。
「妹なんです。山の向こうに知り合いがいて、会いにいきたいんです」
「妹か、まぁ嘘とは思わんよ。安心しきった寝顔をしておるな」
「ええ、昨日は歩きっぱなしで、妹もかなり消耗してしまって」
偶然とはいえ、人に出会えたのは運が良かった。
「近くにワシの小屋がある。今夜はそこに泊めてやろう。明日、ワシも山を降りる用事があるから連れて行ってやろう」
「いいんですか? ご迷惑じゃなかったですか? 」
「まぁ、ついでだからな」
老人の後についていくと、近くに小屋があった。
兄さんをベットに寝かし、老人と少し話をした。
「おじさんは、こんな夜中にどこに行くつもりだったんですか? 」
「この辺りで、最近密猟者が増えてきて、見回りをしているんじゃ」
「まさか、昼間のドラゴンですか? 」
「ほう、あいつを見たのか」
「かなり傷だらけだったので、兄……じゃなくて妹が心配していたんです」
「ドラゴンの素材は貴重だからか、すぐに狙われてしまうんじゃ。この山にも昔は沢山生息していたが、今では一体しか残っていないんじゃ」
「大変ですね」
「昔から、ワシの一族は竜飼いを生業としていたが密猟者のせいで、廃業じゃ」
「あの一体は、おじさんが飼っているんですね」
「ああ、最後の一体になってしまった」
やはり、あのドラゴンは人に慣れていたようだ。
「そろそろワシも良い歳じゃから、あいつを守ってやれるのも今だけだ」
老人は、悔しそうにそう語った。
「さぁ、明日は早めに出発するぞ。ワシが留守にするとすぐに密猟者に狙われるからな」
「分かりました。明日は宜しくお願いします」
僕はソファを借りてそこで眠る事にした。
窓の外の月は、また雲に隠れて見えなくなっていた。