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そこに山があるから

「もう歩けないよぉ」

「兄さん、可愛くいっても駄目ですよ」

 僕達は、ルートから大きく逸れた山中で迷っていた。

 次の街までは海沿いの道を進むのが正しいルートだったのだが、騎兵隊による検問所がある為、しばらく通るのは無理そうだった。

「別にコソコソしなくても、訳を話したら通してくれんじゃないのか? 」

「いや、辞めておいたほうが良いでしょう。2番目の村の反応を見たでしょう? ただでさえも若い娘を連れていれば目立ってしまうのに兄さんは魔女の疑いももたれている」

「そうかぁ、だったら仕方ないか」

 山というからには上を目指せば向こうにたどり着けるのかといえば、そんな単純なものではなく、ぐるぐると登山道を周りながら頂上に向かう。

 そして、必ずしも頂上から向こう側に下山出来るとは限らない。

 道も複雑に入り乱れており、入ってしまえば今自分たちがどの辺りにいるのかも解らない。

「やばいな」

「引き返したとしても、元の道に戻れるかどうか」

 方角はざっくりと太陽の位置で分かるが、行きたい方向に進んでもいつのまにか道が違う方向に向かってしまう。

「迷った時は無闇に動かない方がいいって聞いた事があるよ」

「この場合は、そういう訳にはいかないだろ」

 道なき道を歩いていくと、少し見晴らしの良い場所に出た。

 だが、目印になるものは何もない。

「おい、ハル。あれは何だ? 」

「ド、ドラゴンですね」

 まずは隠れて様子を見る。

 マンガや、ゲームなどでは馴染み深い生き物だったが、本物を目にすると恐怖しかない。

「怪我をしてるみたいだな」

 見ると確かにボロボロの状態で、羽根や鱗にも傷跡が無数についていた。

「酷いな、とはいえ人間を襲うようなら退治されるのは運命なのかもしれない」

「顔つきはあまり凶暴そうには見えないね」

 こちらの存在に気付いて目が合ったが、向かってくる気力はないようだ。

「飼い慣らせないかな、こいつ」

「兄さん、無茶言わないでくださいよ」

「でも、傷ぐらいは治してやろうぜ」

「駄目です。その力も無闇に使えば何が起こるか」

「何が起こるか解らないなら、試しておいた方がいいよ。解らないまま、知らないままにしておく方がもっと危険だ」

 こういう性格だから、兄さんはいつも損な役回りばかり押し付けられるのだ。

 兄さんが手をかざすと、ドラゴンの羽根や鱗が綺麗に修復されていく。

 傷口も塞がり、皮膚にも生気が戻ってきた。

 治療されている間も、ドラゴンは大人しく座っており警戒している様子はない。

「兄さん、何ともないの? 」

「ちょっと疲れるくらいで、大したこと……ないよ」

 その言葉とは裏腹に、兄さんの息が乱れていく。かなりの体力を消耗しているに違いない。

「ハル、すまん。ちょっと休むわ」

 そう言って兄さんは倒れ込んでしまう。

 幸い、抱き止めたため頭を打つことはなかったが、力を使い果たした後眠ってしまった。

「いつも無茶ばっかりする」

 ドラゴンは首を倒して、頭を垂れている。

「頭良いみたいだな、お前」

 服従姿勢なのか、単に身体を休めているのかは分からないが、少なくとも敵意はなさそうだ。

「仕方ないから、僕らも休むよ」

 できるだけ大きな木の根元にもたれかかって兄さんを支えるように座り込む。

 日は暮れ始めており、日が落ちると光るドラゴンの目だけが暗闇に浮かんでいた。

 月はそんな日に限って、雲の中に隠れてしまった。

「兄さん、大丈夫。兄さんが無茶するなら最後まで付き合うよ」

 少女の寝息の穏やかさが、気を紛らわしてくれる。


 

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