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迷子の迷子のコネクター

「ハル、ハル起きろ」

「ん、何? 兄さん」

 聞き慣れない高い声が、僕を呼ぶ。

「大丈夫か? 怪我はないか」

「怪我、そうそう左足に刃物が刺さって」

 目を開けると、そこには金髪おさげの活発そうな瞳の大きな少女が僕を見下ろしていた。

「誰? 」

 それには答えず、少女は僕の左足のズボンを捲った。

「本当だ、何か刺さったような跡があるな。血は止まっているみたいだが」

 学生服を着ていた筈なのに、なぜか服装が変わっている。

「大丈夫、それより君は? 」

「ん? あぁ、これはだな。えーと」

 我に返ったらしく、頬を染めて顔を背ける。

 恥じらう姿は少しだけ可愛く思えた。

「目が覚めたらこうなっていた。俺にもよく解らん」

 俺という言葉が全く似合わない表情で少女が言う。

「つまり、君は迷子ってやつかな」

「うむ、確かに、ここがどこだかさっぱり解らん。日本なのかどうなのかもな」

 少女は腕を組み、迷子を認めた。

「君は一見すると外国人みたいだし、もしかたら日本以外の国から来たのかもしれないね」

「そうだ。周りを見渡しても見たこともない植物や生き物ばかりで、おまけに太陽が2つある」

「でも、日本語上手だね」

「ふむ、ここが外国だとしたら、言葉が通じない可能性が高いな。俺、英語のテストで10点以上とった事ないからなぁ」

「とにかく、交番を探して訳を話すのが一番じゃないかな」

「警察の厄介になるのは、癪だが、この際仕方がない。まずは街を探そう」

 少女は歳の割にはしっかりしているようだ。

「そうしよう、じゃあ危ないから手をつなごうか」

 僕が差し出した手をじっと見つめる。

「もう、お前も手を繋ぐような歳ではないだろう。小学生じゃあるまいし」

 どうやら子供扱いされたのが気にくわないらしい。

「そうだよね、幼稚園児じゃなくて小学生にもなれば手を繋ぐってのも恥ずかしいか」

「たく、甘えん坊な所は変わらんな」

 今度は少女の方から手を伸ばしてきた。

「じゃあ行こう」

 その小さな手を僕はぎゅっと握った。

 口では生意気な事を言っているが、まだ小学生なら両親と離れて迷子になったら不安だろう。

 僕がしっかり守ってあげないと。

 そんな事を考えていると、急に左足の傷が痛みだした。

「痛っ」

「大丈夫か? 」

 下から覗きこむように、少女が僕の事を心配そうに見上げていた。

「平気だよ」

 彼女を不安にさせないように、僕は明るく言って見せた。

「そうか、なら良かった」

 少女がにっこりと微笑んだので、僕も元気が出てきた。

 ここがどこなのか、僕にもさっぱり分からなかったが、広い公園のような草原を避けていくと粗末な道があった。

 獣道ではなく、一応人の手が入っていそうだった。

 少女の歩幅は思ったより狭く、あまりスピードを出すことができない。

「大丈夫? 」

「ああ、普段とは勝手が違って筋力が全然なくて、息もすぐあがっちまう」 

 少し高低差があるだけで少女は体力を消耗し疲れが顔に現れていた。

「いったん、休憩しようか」

「すまん。そうしてもらえると助かる」

 これまで1人もすれ違う人が居ないとうことを考えると人里は遠いのかもしれない。

 このペースでは日が暮れてしまう。

「あの、君の事はなんて呼べばいいかな」

「ん? そうだな。この姿で兄さんってのは無理があるし、シューヤでいいかな」

「シュヤちゃんか、どこかで聞いたことある名前だな」

「お前の事は何て呼べばいい? 」

「えーと、お兄ちゃんは駄目かな? 」

「まぁ、お前がそれでいいなら。そう呼んでやってもいいが」

 顔が真っ赤になってモジモジしている姿に、こちらの方が照れてしまう。

「お兄ちゃ」

 少女が勇気を振り絞って言葉を発しようとした瞬間、大地が大きく揺れた。

「なんだ」

「地震にしては、短いな」

 再び、同じように地面が揺れ、とっさに少女の頭を庇い抱きしめて身を屈めた。

 何か大きな生き物が近づいてくるような、地響きにも似ていた。

「大丈夫だよ。僕が君を守ってみせる」

 普段なら、震え上がって縮まっていただろう。でも、今の僕には守るべき者があった。 2メートル以上の大きな黒い生き物がのしのしと迫っていた。

 こちらには気づいていないようで、木々を挟んで森を歩いていく。

 ゴリラにも、カバにも似たそれは、初めて見る生き物だ。

「痛いよ」

 状況が解っていない少女から非難の声があがる。

「しぃー、静かに」

 僅かな物音だが、距離が近いので聞こえてしまいそうだ。

 黒い生き物の足が止まった。

 しばらく、沈黙が続く。

 ガサガサ。

 遠くで何かの音がした。

 黒い生き物は、音がした方向に向きを変えて歩き出した。

 

 



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