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お客様は神様なのか

 まず、最初に僕は店内を隅々まで掃除する事にした。

 繊維系の防具は日陰に干して、風をとおし、甲冑や鎧などは傷がつかないように柔らかい布を固く絞ったもので拭き取り、汚れや埃を祓う。

 床や壁もピカピカに磨いて、看板も新しいものと取り替える。

 お店の中だけでなく、周囲の雑草を抜いて側道のゴミなども拾う。

 隣り近所の、お店に挨拶に回り、道行く街の人に声をかけた。

 その間、お店には1人のお客さんも来なかった。

 その日は、売り上げは0ローリオ。

 僕、デザイナー、兄さんの人件費がかかるので赤字経営だ。

「兄さん? そっちはどうだった? 」

「あれこれ、着せ替え人形にされたあげく、奇妙な服を着せられて大変だったよ」

「そう、せめて兄さんの方で稼がないとこの店はヤバいかもしれない」

「そんなに酷いのか? 」

「うん」

 次の日、僕は宣伝の為、近くに住む人達に営業に行った。

 そして、近くにあるライバルのブティック、武器屋、防具屋を見て回った。

 その間、店主が店番をしていたのだが、帰るとカウンターでは店主がいびきをかいて寝ている始末だった。

「もし、お客さんが来たらどうするんですか」

「客、今日はたぶん来ないよ」

「こんな調子だと、今日だけじゃなく毎日来ないよ」

 仕方がないので、店主は奥に椅子を設けて座らせておき、見た目だけでも偉そうにしてもらった。

「眠ってもいいですが、いびきは止めてくださいね」

「ああ、分かった」

 ライバル店は、かなりカジュアルな服を取り揃えており、実際は見た目だけでなく質も良い材料を使っていた。

 動きやすさや、見た目の華やかさが売りのようで20代~30代の男女に人気のようだった。

 また、もう1つの武具屋では服だけでなく盾や兜、武器などを一式コーディネートするサービスをおこなっており、お金に余裕のある冒険者や富裕層の40代~60代くらいの層に受けが良いようだった。

「兄さん、調子はどう? 」

「何か閃いたらしいが、形になるまでは時間がかかりそうだな。あいつ、気持ち悪いがデザイナーとしては才能があるみたいぜ」

「気持ち悪いのはどうかと思うけど」

「ハル、お前の方はどうだ? 」

「絶対ダメ。給料泥棒って感じ」

 店主は経営者なので、給料は発生しないが利益がなければ、材料費や光熱費も払えず商売としては成り立たない。

「今までどうやって経営してきたんだろう」

「さぁな」

 さらに次の日、僕は店の前に商品を並べる事にした。

 ただ置いてあった商品をマネキンに着せて外に出し、古くなった商品を半値で陳列しておいた。

 店主は、いびきこそかいていないが眠っており、店には1人もお客さんは居なかった。

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませ、こんにちは」

 誰も居ない店内に、威勢だけは良い僕の発声練習が虚しく響いた。

「ついに、完成した」

 奥から、デザイナーと兄さんが現れた。

 隣接する工房は、カーテンで仕切られており進捗は定かではなかったが、何とか形になったらしい。

「イメージは、おてんばな天使だ」

 白を基調としたドレスデザインになっているが、小さい子供が裾などを踏まないように、短めに仕上げている。

 身軽に動けるようにしているが、飾りのフリルがお洒落にあつらえてあり、可愛さと身軽さを備えた防具のようだ。

「お、おう。」

 なんとも複雑な顔をした兄は、見事に着こなしていた。

「可愛い、すごく可愛いよ」

 本心から僕はそう言ったが、兄さんにとっては罰ゲームでしかないようなデザインだ。

「ナイルさん。これ、兄さんが着た状態で絵は描けますか? 」

「ラフ画でよければ、ここにあるが」

「ちょっと借りますね」

 僕は、その絵に宣伝文を書き、10代向けの防具としてチラシを作った。

「こんな感じでチラシを作りたいんですが」

「ふむ、印刷屋に持って行けばいいんだな」

 店主の知り合いの印刷屋に持って行き何部か作らせた。

 ライバル店との差別化をはかるためにも、ここは兄さんに一肌脱いで、いや服を着てらうしかない。

 基本的には、防具は装着者の体格に合わせて作るオーダー品とフリーサイズの展示品に分かれており、兄さんの着ている服はオーダー品として扱う事になる。

 見た目はいまいちだが、展示品の衣服にも創意工夫が施されており機能は申し分なさそうだった。

 次の日、ポスティングの成果が出たのか3件のオーダー注文があった。

 兄さんには、恥を忍んで店頭で生きたマネキンをやってもらい、通行人の興味を誘った。

 そして、半値の商品だが展示品が少しずつ売れ始めた。

 店主は黙って、奥に座ってもらい。

 対応は全て僕が愛想良く行った。

「いらっしゃいませ!」

「かしこまりました」

「ありがとうございます」

 まだまだ、売り上げは大した事はなかったが、なんとか自分の1リオ200ローリオ分くらいは稼げたのではないだろうか。

「ハル君、君なかなか商才があるんじゃないかな」

 自分のデザインした服が売れて気をよくしたナイルさんの評価が少し上がった気がした。

「いえ、もとの商品の良さとお店と敷地があるから出来る事ですよ」

 僕は、オーナーへのフォローも忘れなかった。

 その後、服のデザインがさらに増えた頃にはライバル店と同じかそれ以上にお店が盛況になっていった。

 セールストークも板につき、自分でも商売が向いているんじゃないかと思い始めていた。

 賃上げ交渉もスムーズにいき、給料は400ローリオになった。


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