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自称魔王の、魔王を倒すまでの道  作者: 刺身こんにゃく
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魔物(一部)が仲間になりました

魔王を名乗る少年、ゼノは案内された長の家に堂々と入ると、テーブルの傍にあった椅子にどっかりと座った。


「さて、交渉を始めようではないか!」


長はゼノの向かいの椅子に座ると、心底不安気な表情で、


「交渉...で、ありますか」


「うむ!...しかし、その前に、だ」


不意にゼノは立ち上がると、開かれっぱなしのドアと窓を勢い良く閉めた。

家の前にいた野次馬達が何やら声を上げたが、ゼノは特に反応せず、再び椅子に座った。


「...あなたは信用出来る人物か?」


先程までの自信たっぷりな様子とは異なり、ゼノは長を真剣な目で鋭く見た。

長は少年の変わりように驚きつつも、やがて頷く。


「欺くようなことは、しないと約束いたします」


「そうか...良かった」


すると、ゼノは深い息を吐き、ぐったりと椅子にもたれた。


「ああ...喉が痛い...大声出し過ぎた...」


「演技、であったのですか?」


思わず長が尋ねると、ゼノはゆるく首を縦に振った。


「魔王って、大体あんな感じだと思って...頑張りましたよ、ええ。憧れてはいたけど、こんな大変だと思わなかった...」


「...あなたは、我らに何を望むのですかな?」


長の問いに、ゼノは咳払いした後、答えた。


「さっき言った通りです。私と共に世界征服したいという人達がいれば、連れて行きたいと思いまして...」


「世界征服...ですか」


「そう!世界征服!」


ちょっと元気になったらしいゼノは、笑みを浮かべた。


「私は勇者とか魔王とか、そういうものに憧れてるんです。しかし、私はご覧の悪人面。勇者にはなれない。だから魔王になろうと思ったんです!幸い、私は生まれつき力が強いので」


「それで...我ら魔物の力を借りたいと?」


「はい。こう言ってはなんですが、魔物の風貌というものは、人間にとって恐ろしいもの。ただその姿を見るだけでも、十分人間を抑圧出来るでしょう」


長はやや長考した後、ゆっくりと言った。


「それは、おそらく本当だとは思いますが...実際に戦闘になった場合、我らは戦えません。あなたの思い通りには、いかないと思われますが」


「魔物達に戦闘はさせません。戦うのは私だけです」


「あなたの知らない所で、戦闘になった場合は?」


「だからこそ、希望者のみを連れて行きたいんです。私もなるべく魔物を守りたいとは思っていますが...。命を落としてでも、私に加担したいという魔物のみを連れて行きたいと思っています」


長はしばらく黙りこみ、ゼノも沈黙を守った。


「...あなたに賛同する者が、いなかった場合は?」


「その時は仕方ありません。諦めます」


あっさりと、ゼノは答えた。


「...というか、そっちの方が可能性高いですよね。平和に暮らしている魔物達が私の単なる欲望に付き合ってくれるとは思えないし

...」


「あなたは、本当に自らのためだけに、世界を征服しようと思っているのですか」


長は、探るようにゼノの目を見つめた。


「...今、人間の間では、大きな戦争が起こってる」


ぽつりと、ゼノはこぼした。


「戦争のせいで、国同士の争いのせいで...あらゆる所で、飢饉が起こってる。国々がひとつの大きな敵によって支配されれば...国同士で争うことはない。戦争は、終わるはずなんだ」


少年の言葉に、長は衝撃を受けた。

戦争を終わらせるために、魔王になろうと言うのか。こんな、少年一人で―――。


「ふははははは!!」


ゼノの笑い声に、長ははっと意識を戻した。


「何を深刻な顔をしておる!こんなものは建て前に決まっておるだろう!我が世界征服するのに、理由などいらぬわ!」


長は呆気にとられた後、立ち上がった。


「あなたに付いていく者達を、集めましょう」


「うむ!希望者のみだぞ!」


そうして、魔王を志す少年と、魔物の長の会談は、終わった。







懐かしいなあ、とリールは玉座の前を掃除しつつ、思った。


魔物の長が、ゼノに付いて行きたい者を募集した時、真っ先に声を上げたのはリールだった。

魔王になるという少年。それを前にして、リールはわくわくしたのだ。そうしてリールを含めた、勇者や魔王に憧れている魔物達がゼノに付いて行った。


リールは、魔物の里での生活を、平和かつ退屈であると思っていた。自分一人では里を出られなかっただろうが、ゼノという人間の少年と共に行くのであれば、己の命を賭けて外の世界に行くのも、

悪くないと、思ったのだ。


そしてゼノは宣言通り、世界を征服した。


リールはその時点でも満足だったが、ゼノは違った。ゼノは自分が勇者に倒されるまでが、夢だったのだ。


自分が倒されたいというのはリールには少し理解出来なかったが、勇者を見てみたいとは、リールも思った。

だから何だかんだ言っても、自分も魔王と共に倒されるのだろうな、とリールは予感し、覚悟もまた、していた。


「こうなったら、あれだな」


玉座のゼノの声に、リールの思考が途切れる。


「あれって何ですか?」


「...私自ら、勇者を見つけ、ここまで導く」


「...は?」


目が点になるリールには目もくれず、ゼノはぶつぶつと何か呟き、やがて晴れた顔で告げた。


「よし、決めた!勇者見つけてくる!」


そうして―――自称魔王ゼノの、旅が始まった。


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