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自称魔王の、魔王を倒すまでの道  作者: 刺身こんにゃく
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邪悪なもの

予想外だった、とゼノは思った。


ルーツィアが現れたこともそうだし、愛し子が同行していることもそうだし、レオーネが先陣を切ったこともそうだった。


美しい顔を不機嫌そうに盛大に歪ませて、レオーネは素早く魔法詠唱を終える。

レオーネの指先から躍り出た火炎をもろにくらうが、その程度の魔法では魔王はびくともしない。

レオーネに感化されたのか、ケリーは剣を振りかぶり、サラは清らかな歌声を響かせる。


ほとんどゼノが思い描いていた通りの、勇者パーティと魔王の決戦の模様である。武闘家がいないことと、場所が王座の間ではなく、魔王城の門であることが不満だが。


「皆、始めてしまいましたね。どうします、リンク様?」


「うむ?わらわは手を出さんぞ。ゼノが一抜けする手伝いなどしとうない」


「そうですか...じゃあ僕は、リンク様を守ることに専念しますね」


先程まで隣にいた少女はいつの間にやら、攻撃されるゼノから離れアルの背中へと舞い戻っていた。

そのことに苦笑しつつも、彼女を責める気はゼノにはない。己とて、彼女の立場に置かれたら羨望していただろうから。


もうすぐ、死ぬ可能性があるということに。

そして、そうなりかけた時彼女達がどんな行動に出るかも、ゼノは知っていた。

つくづく、厄介なのだ。ルーツィアも、アギスも。


「私が、あいつより先に魔王を殺し!私こそ最も美しいことを証明します!」


レオーネが傲慢な欲望を、吠える。


「サラが安心して俺と生きられる世界をつくる!」


「お兄ちゃんがワタシとずっと一緒にいられるようにするの!」


ケリーとサラの兄妹が互いの為に、憤怒する。


成程、強い思いがあるからこそ、魔王を恐れることもなく戦えるのだ。


本当はゼノが大したことは出来ない善人だとバレているからなのだが、ゼノがそれに気付くことはなく、勇者達の相手をしながら満足そうに頷いている。


「気に入らない!貴方、何へらへら笑っているのですか!死にますよ!」


「魔王っ!てめー、殺すぞ!」


「お兄ちゃんの敵は、ワタシの敵なんだからーっ!やっつけるのー!」


「そりゃあ嫌だな。よし、悪いがゼノ。お前を殺す奴等は俺が潰すぜ」


声がした。

何者をも恐怖のどん底へ叩き込む、男の声。


魔王に並々ならぬ願いを抱いて戦っていた筈の勇者達の動きが止まる。


ルーツィアはその男の姿に、目を見開いた。


「ぬぉおアギス!おぬしほんとに鼻のきく奴じゃな!」


「よぉ、ルー。お前と俺だけが嫌われ者ってのも寂しいだろ?ゼノも道連れにしようぜ」


「...次会う時は死体であればいいとか言ったのは誰ですか...」


最早諦めの境地にあるゼノに、悠々と現れた真っ黒な一人の男は軽く笑い飛ばす。


真っ黒なローブに、真っ黒な短い髪に、真っ黒な目をしながら、その肌だけは病気か何かのように青白かった。

ゼノが前々々回会った時は黒い猫で、前々回は黒い鳥で、前回は黒い蜥蜴の姿だった、アギスと呼ばれた男である。


「俺は都合のいいことが大好きなんだよ」


「な?わらわより悪趣味じゃろ?わらわは最後の最後まで我慢しとるが、こやつは危なくなったらすぐに手出すんじゃぞ?」


「どっちもどっちですよ...」


ルーツィアとアギスは顔を見合わせて、悪どい笑顔を浮かべた。


「そりゃあ仕方ねえだろ。だって俺達」


「抜け駆けは許せないんじゃもん」


「「ねー!」」


終いには声を揃えてハイタッチする始末。


新たな男の存在に、アルはまたもや不満そうであり、更によく見ると震えていた。無意識に恐怖しているといったところか。


レオーネ、ケリー、サラの三人は、その悪人共にどっと冷や汗をかいている。

ルーツィアだけなら何とか動けたレオーネも、アギスがいるのでは最早何も出来まい。


勇者の成れの果てがただの人間に及ぼす影響は尋常ではないのだ。


ゼノは、分かっていたことだが、決戦を邪魔されてため息を吐き、仕方ないのでその場の全員を魔王城に招き入れることにした。

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