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自称魔王の、魔王を倒すまでの道  作者: 刺身こんにゃく
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悪夢の出現

ジングン帝国の皇帝、ユリウスは悪夢に囚われ、狂い果てた。

そう、噂されている。





元々これまでの戦争を引き起こしていたのは、帝国であった。強大な軍事力を誇る帝国は、今までもいくつもの国に戦争を仕掛け、蹂躙し、領土としてきた。

今回も、今までのようにいく筈だった。


魔王さえ現れなければ。





皇帝ユリウスは、軍人としては類い稀なる才能を持っていた。

彼は戦についてなら絶対の自信を持っていたし、周りとてそうであった。

しかしその自信は、たった一人の少年によって打ち砕かれた。

ユリウスは、その日のことを一時たりとも忘れたことはない。


ユリウス自身が指揮を執り、相手の軍を追い詰めていく。

そんな時、突然戦場に響き渡る少年の声。

凄まじい怒号を上げながら乱入し、ただ殴るだけで次々に兵士を気絶させていく。

あの少年は一体何者か。

相手の軍もこちらの軍も、別け隔てなく戦闘不能にされていく。

ユリウスは愕然としながらも、少年を殺すよう命じたが、少年は倒れることはなかった。

どれ程の人数で囲もうが、大規模な魔法を食らわせようが、弓をいくら放とうが。

ふざけた黒服の少年は、その全てを振り払い、己の元へ向かってきた。


「戦争を、止めろ!!」


何だ、その戯言は。


ユリウスは剣を引き抜き、少年に挑み、そして―――完膚なきまでに敗けた。


そして名将とまで称された皇帝は、たった一人の少年に敗北を喫して、狂い果てた。


今や皇帝は、ただのお飾りと化している。

元々戦争以外能がなかったのもあるが、たかだか一人の少年に敗けたことで、己の全てにおいて自信を失ってしまったのだ。陰では生きる屍とまでも言われてしまっている。





今日も今日とて、大臣達は会議室にて白熱した議論を交わしていた。

議題は勿論、魔王についてである。

そこそこの魔法使いの女と、剣士の男に魔王殺しを命じたが、あんな普通の範疇を出ない人間では、魔王の足下にも及ばない。即刻魔王に対抗し得る人材を見つけなければならない。

そして魔王を殺し、これまでのように国々を侵略し、搾取するのだ。

大臣達はその場にいるだけの皇帝に、目も向けない。

最早皇帝は使い物にならないのだから、当たり前だ。


「ふははははは!!到着だ!」


しかしそこに響いたのは、皇帝にとっても大臣達にとっても、悪夢の声だった。





突然現れた魔王に、彼らは凍り付いたように動きを止めた。

特に皇帝ユリウスは、魔王を視界に入れた瞬間にびくりと体を震わせ、椅子から落ちた。

ゼノは彼らを見渡し、告げる。


「安心しろ!我は戦いにきた訳ではない。サラという娘を引き取りにきたのだ!」


「...こ、これは魔王様!失礼致しました。サラ、という娘でありますか?」


大臣の一人が引きつった笑顔を浮かべながら立ち上がる。


「うむ、人質にされていると聞いたぞ。腕の立つ剣士の妹である!」


「...!あ、あの娘でございますな。しかし、何故魔王様があんな娘を...」


魔王はその問いに、口元を歪めるように笑った。


ひいっ、と情けない声を上げて大臣が腰を抜かす。


「貴様らに答える義理などない!我は魔王、簡単に目的は明かさぬぞ、ふははははは!!」


「し、失礼致しました...!!」


「それで、サラはどこにいるのだ?」


「しょ、少々お待ちくださいませ!ただいま連れて参りま...」


「いや、それは別にいい。我が出向こう」


「...!」


大臣は僅かに顔を歪め、絞り出すように「...そこの衛兵、案内して差し上げろ」と言った。

衛兵は露骨に嫌そうに顔をしかめると、ゼノに「こっちです」と背を向ける。

衛兵に大人しく魔王がついていく様を、皇帝と大臣達は一言も発することなく見つめていた。

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