自称魔王と魔物が出会いました
読みにくい、意味の分からない文章にご注意下さい!
「勇者はよ来いやあ!!」
秘境にある魔王城にて、その叫びが響き渡った。
しかし魔王城で働く魔物達にとっては日常茶飯事らしく、気にする者はいなかった。
唯一げんなりしているのは、その叫びの主である彼の、側近の魔物だけだった。
「魔王様...いい加減止めません?この習慣」
「馬鹿、これはあくまで私の心の叫びだ。止めたくて止められるものではない!」
魔王城の一番広い部屋の中で、きりっと側近の魔物に答えたのは、恐ろしい顔面の魔物の王―――ではなく、悪人面の少年だった。
仰々しい黒服の少年は悠々と部屋の玉座に座っていた。側近の魔物は玉座の前の掃除をしつつ、ため息を吐く。
「はあー、何で勇者は来ないんだろうか...そんなにも魔王たるこの私が恐ろしいのか...?」
「まあ魔王様は恐れられていますからね、主に国々の王様に」
側近の魔物は思い出す―――己と、魔王を志す少年との出会いを。
魔物の里。そう呼ばれる所が、この世界にはあった。
人間達が立ち入ることの許されない場所。そこで、魔物達は平和に暮らしていた。
大抵の魔物が、そこで一生を終わらせる。外の世界では、恐ろしい人間達がいて、もし外の世界に出たら人間に見つけられた瞬間に殺されるという話を、魔物の誰しもが信じていたのだ。
実際に外の世界に出て行った魔物は、その後魔物の里に帰って来ることはなかった。
外の世界で人間に殺されたのかどうかを知る手段は無かったが、おそらくは人間に殺されたのだろうと、魔物達は思っていた。
魔物の里では、自給自足の生活が営まれている。魔物とて食事が必要なのだ。魔物に料理という概念はないため、植物を育ててそのまま喰らうという非常にワイルドな食べ方ではあるけれど。
魔物の里では、植物がよく育つ。人間達が魔物の里を見つけられないのも、大いなる植物が魔物の里の外側を覆い隠しているからだ。
魔物が魔物の里を出ることはほとんどない。たまに外の世界に憧れ出ていく魔物はいるが、魔物の里には帰って来ない。とは言え、間違って里を出てしまった魔物はすぐに戻ってくるため、魔物の里を一歩でも出たら場所が分からなくなるという訳ではないのだろう。
魔物達は里で平穏な人生―――魔物生を、送っていた。
リール、という名を付けられた、人型の魔物がいた。
彼は後に魔王を志す少年の側近となるのだが、それは一旦置いておく。
彼は幼い頃、魔物の里のはずれにある書物庫で、ある一冊の本を見つけた。
その本は人間の子ども達にとってはお馴染みの、勇者が魔王を倒すまでの冒険を描いた物語だった。
それを、リールは夢中になって読んだ。
勇者が敵視しているのが自分達魔物という点に何かしら思わない訳ではなかったが、それでも勇者は、とても格好良かった。
本の主人公である勇者のようになりたい、とリールは思った。
その本をリールは友達に勧めた。人間が主人公になっている本を毛嫌いする者もいたが、ほとんどはリールのように勇者に憧れるようになった。
だが、憧れたとしても、外の世界に出て勇者になりたいと思う者はいなかった。リールとてそうだった。
魔物の里は、平和そのものであり、何が起こるか分からない恐ろしい外の世界に行こうとは、少しも思えなかった。
転機が訪れたのは、ある、晴れた日の昼頃だった。
「ふははははは!!」
唐突に魔物の里に響く声。魔物の誰もがぎょっとして、その声の主を見た。
「我はゼノ!魔王になりし者なり!我と共に世界を征服したいという者がいるならば、名乗りを上げよ!」
そこにいたのは、仰々しい黒服と髪に葉っぱをたくさん付けて、高笑いを上げる悪人面の少年だった。
強引に魔物の里を取り囲む植物を突破してきたのだろう。少年は言い切った後、ぜえぜえと息を切らしていた。
魔物達に、緊張が走った。
いくら少年だとしても、あれは人間である。...多分。
人間の姿など書物でしか見たことがなかったし、それに人間が魔物の里に侵入したとあっては、魔物の長は由々しき事態として、少年を捕らえることにした。
自分を取り囲む魔物達を見て、少年は、嬉しそうな顔をした。
「おお!こんなにも我に従う者がいるとは!」
勘違いしている少年を無視し、魔物達は少年を捕まえようと、手に縄を持ち、少年に飛びかかった。
「お?何だ、力試しか?いいだろう!受けてやるぞ!」
―――事態は、魔物の長の思う通りにはいかなかった。
少年は、とんでもない怪力だったのである。
自分を捕まえようとする魔物を片っ端から投げ飛ばし、少年は楽しそうに笑った。
「ふははははは!!魔王たる我に敵うと思ったのか!ふははははは!!我に負けた者は全員我の配下となるがいい!!」
そう叫びながら魔物をダウンさせていく少年に、長は諦めた。
そして、少年を捕まえようとする魔物達をいさめ、少年に真っ向から向き合った。
「何だ貴様は!我と一騎討ちを望むか!」
「いいえ、あなたの要求を受け入れます。ですので、これ以上は、どうか...」
「そうか!我は寛大だからな、突然の力試しも許してやろう!」
少年はあっさり言うと、自分に付いた葉っぱを頑張って取り始めた。
そして、少年は長の家へと案内された。
長の家の前には、大勢の野次馬が押し掛け、長と、魔王を名乗る少年の動向を見守った。
これが、リールが魔王を志す少年の姿を初めて見た瞬間だった。




