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プロローグ 【レベルダウン】


プロローグ 【レベルダウン】



***



 最初に断言しておかなければならないことがある。


 俺は、この世で最も《最強》に近い人間だ。


 ――本来ならば――。


 そう。本来なら、俺は生を受けたその瞬間から、あらゆる物事において勝者であることが確定しており、人生の成功は約束されたものであった。

 一生のうちに苦汁を舐める可能性など皆無で、ただ己の思うがままに命尽きるその瞬間まで生きていけばよかったのだ。


 それなのに。俺の約束された勝ち組人生は――ほかでもない、実の父親の手によって一変した。


『ルイス。お前のレベル、今日から《-99》な』


 訳がわからなかった。

 また何かつまらない冗談でも口走っているのかと思った。


 けれど次の瞬間、親父が至って本気だということを身をもって知ることになる。


『つーわけで。はい、ドーン』


 親父が立てた人差し指を、くいっと俺に向けると、雲ひとつない晴天から前触れもなく雷が落ちてきた。

 その鋭い一撃は俺の全身を貫いて、


『……は?』


 本当に、訳がわからなかった。


 意識はあった。目の前はチカチカと眩しくて、身体中に走る痺れで不覚にも膝をついてしまったが。でも、それだけだった。


 当たり前だ。この時、俺は既に《Lv100》だったのだから。


 いや、少し訂正するべきか。

 正確には、俺は生まれた瞬間から《Lv100》だった。


 この世界――【アリーナル】の生物には、Lvレベルという概念が存在する。


 レベルは絶対神【リュミエス】によって定められるもので、体力・筋力・知力・魔力など、あらゆる能力をもとに導き出されるらしい。

 基本的には、優秀な能力の数が多いほどレベルも高くなる。

 が、だからといって必ずしも、それだけが高レベルへの道ではない。


 例えば、筋力も知力も魔力もまったく持たない奴がいたとして、そいつが体力だけは、ずば抜けて優秀だったとしよう。

 そして、体力も筋力も知力も魔力もあるが、どれも人並み程度の奴もいたとする。

 この二人が、まったく同じレベルになるということも充分に有り得るのだ。


 つまり高レベルを目指す主な方法は、《様々な能力を平均的に上げていく》方法と《特定の能力だけに絞って限界まで上げていく》方法の二種類ということになる。

 こうして並べてみると前者の方が有利に思えるかもしれないが、難度を鑑みるならば後者の方が比較的楽だと言える。得意分野を極めればいいんだからな。


 どちらにしても、レベルを上げたければ《経験》を積んでいくしかない。


 ――まあ、俺は生まれながらに全能力が最高値だったが。


 それなのに。

 親父は、そんな最強で最高な息子である俺を、あろうことか本当に、言葉通りに《Lv-99》にしやがったのだ。


 何だよ、-99って。

 俺の知る限りじゃあ、歴代最低レベルは《-30》だぞ? なのに、-99って。


『本当は-100にしようかとも思ったんだが……ま、1レベルはサービスってことで』


 何がサービスだ。いっそ100の方がキリが良くて清々しかったわ。


『ルイス。どうしてパパがお前にこんな酷い仕打ちをしたか、わかるか?』


 親父が急に真面目な表情、声音で訊いてきた。

 わかるわけねぇだろパパとか気持ち悪ぃな、とか言いたいのは山々だったが、痺れのせいで舌が回らなかった。


『……その答えが知りたければ、強くなり、俺を探しに来い。俺を見つけ、俺に勝てたその時に、すべてを教えてやろう』


 そう言って親父がおもむろに指笛を鳴らすと、家の方角から一羽の鳥が飛んできた。


 普通の大人より二回りほど大きな身体の鳥――クルゥ。海のような深い藍色の羽根が日の光に照らされて輝く。

 そんな美しさよりも俺が気になったのは、クルゥの背中に微かに見える、とても馴染みのある姿だった。


『かあ……さ……?』


 クルゥが静かに親父の隣に降りてくる。

 距離が近くなってハッキリした。やはり、その背中には母が乗っていた。


 クルゥの柔らかな羽毛に身体を沈めて、見たことのない漆黒の布切れで身体を包まれている母は、スヤスヤと穏やかな寝息をたてている。

 清らかな少女のように愛らしい寝顔と、闇の底よりも深い黒色は相反すれど、何故だか不思議と合っている。


 親父はクルゥをひと撫でした後、母を闇から解放した。

 その闇を今度は自分が纏うように、己の肩に引っ掛ける。


 それ、お前のマントだったのかよ。


『ルイス』


 バサッと、これでもかというほど漆黒のマントを翻しながらクルゥの背に飛び乗る親父。


『万が一、お前が俺の元へ来る気がなくなると困るからな。母さんは預かっておくぞ』


 そして、母さんの身体を優しく抱き寄せて不敵な笑みを浮かべると――


『母さんを助けたければ、俺を探しに来い。答えが知りたくても、俺を探しに来い。とにかく俺を探しに来い。強くなって、俺を倒しに来い! お前と再会する日を、楽しみに待っているぞ!』


 高笑いを上げながら、クルゥで空の彼方へ飛び去っていった。


 ――いや、何かもうグッダグダなんだが。

 お前はどこの魔王だ。


 痺れは随分と治まっていたが、親父たちの姿が小さくなり完全に見えなくなるまで、俺はその場で呆然としているしかなかった。主に呆れで。


 ――ちなみにそれから数日後、母から手紙が送られてきた。

 内容はこうだ。



『――前略、ルイスへ。

 お元気ですか? ご飯はちゃんと食べていますか?

 今いる場所は教えちゃいけないって言われたので言えないけど、私もお父さんも元気にしています。だから心配しないでね。

 お父さんったら、昔から《息子に背中を追いかけられる父親》に憧れていたからって、急にこんなことをしちゃって……本当に困った人よね。

 でも、怒らないであげてね、ルイス。お父さんに悪気はないの。あなたを立派な男の人に育てたくて、したことなのよ。

 お父さんね、あなたがお父さんを乗り越えることをとっても楽しみにしているの。だから、会いに来てあげてね。

 それじゃあ、身体には気をつけてください。またお手紙出します。

 母より』



 ――本っ当に、グッダグダだな。


 親父、手紙を許可するなら内容のチェックぐらいしろよ。アンタを探す目的のひとつが既になくなったんだが。こんなバカなことをやらかした答え、知っちゃったんだが。

 母さんがド天然なの知ってるだろうが。アンタも大概だけどな!


 正直、親父を追いかける必要性はあまり感じない。

 『強くなって、俺を倒しに来い!』――あの口振りからして、親父は何をされても俺のレベルを戻す気はないのだろう。

 恐らく、レベルは自分の力で元通りにするしかないのだ。


 それに母さんのことも心配ない。

 親父は母さんにベタ惚れだ。酷いめに合わせるわけがないし、母さんが本気で嫌がれば、すぐに家に帰すに決まっている。


 ――しかしまあ、俺にも、腹に据えかねたものはあるわけだし。

 レベルについても、このままでいい筈がない。何とかするしかないとは思っている。


 そんなわけで、俺は仕方なく故郷を旅立つことにした。


 とりあえずの目標は――


 《元のレベルに戻る》こと。


 それから、《親父をぶん殴る》ことだ。



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