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――2――

09:30

自宅マンションを出る。


 施前柚乃香(セザキ・ユノカ)の自宅は倫埜(ミチノ)区に在り、そこは屈指の高級住宅地だった。


 施前柚乃香は大学生だが、実家が資産家らしい。


 そう言えば姉の施前花乃霞(セザキ・カノカ)はテレビや雑誌でよく見る『セレブ』っぽい服装だった。「セレブっぽいとは何か」と尋ねられても返答し難いが、兎に角、セレブっぽいのだ。


 施前柚乃香の自宅マンションもセレブっぽくて、オートロックの玄関には監視カメラが付いていた。何か異常があれば、管理室から警備員が駆け付けるらしい。その管理室は壁1枚隔てて隣にある。壁をガラス窓にすれば監視カメラはいらないのではないかと思うのだが、それはプライバシーの関係で巧くないらしい。警備員に丸見えの窓は駄目で、監視カメラは良い。窓とカメラは結果的には同じだが、相手の顔が見えるのと見えないのでは大きく異なる。


「プライバシー、個人情報。他人との交流よりも独りの世界を重視するのは、今の時代の良くない部分だな」

 塩田は管理室から玄関までどんなに急いでも20秒かかる事を知って呟いた。

 20秒あれば刃物で人の脛動脈を切る事が出来る。窓があって、そこから警備員の顔が見えていれば、それは起きないかもしれない。


「個人情報は守るべきです。見ず知らずの他人に自分の日常を知られるのは嫌じゃないですか。危険です」


「危険か?」


「若し、帰宅する時間を知られて、待ち伏せされて襲われたらどうします?」


「大声で助けを求めて、隣人に助けに貰えなかったらどうする?」


廓は返答出来なかった。


「ある程度の交流は必要だろう。部屋に上げる程までではなくても、会ったら挨拶するくらいはしても良いだろ。コミュニケーションがある程度出来ていれば、犯罪は半減する」


「確かに、そうですけど……」


「それで?施前柚乃香は確かに9時30分に出たのか?」


廓は手帳を開き、警備員からの証言を読み上げた。


「監視カメラのビデオにも姿が確認出来ます。お姉さんの施前柚乃香さんにも見て貰いましたが、間違いないようです」


「戻った姿は、無いか」


「9時30分にここを出て、それ以降の記録はありません。あ、今、浅間(アサマ)刑事の班が部屋を調べているそうですが、行きますか?」


「いや、いい。次に行こう」


そう言った後、塩田は鼻を動かした。


「何の匂いだ?」


「匂い?」


廓も大気の匂いをかいでみた。確かに、自然物と化学物の匂いがする。


「表の花壇のラベンダーと、隣のビルの塗装の匂いですよ」


ここに入る際にそれ等を見ていたので、廓自身は匂いなど気に留めていなかった。今更気付いたのかと、先輩刑事の感覚を疑う。


「そうか」


塩田は踵を反した。


「次はバス停だな」


「はい。そこから市立図書館です」


廓は塩田を追い掛けた。

歳の差故か脚の長さ故か、いつも塩田が先を行く。


それが廓は嫌だった。




――Lapislazuli――


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