――1――
灰色の雲が空を埋め尽している。
雨が来るのか、気温が低い。
廓純志朗はスーツの前を寄せた。
奈耶麻港に吹く風は冷たく、ここの季節は万年真冬だ。吐く息こそ白くないものの、肌は粟立っている。
「…さむ……」
ポケットに手を突っ込むと、傍に居た先輩が苦笑いした。
「暑いより良いだろ?」
「……まあ、」
確かに。
廓は目の前に転がる物を見下ろした。
内臓を抜き取られた女の遺体である。
現場の血痕は僅かで、別の場所で殺害された後に奈耶麻港廃コンテナ23号裏に遺棄されたのだろう。
遺留品は、遺体の左手首のブレスレットが1つだけ。
銀の鎖に水色の石を3つあしらい、銀色のプレートにシリアルナンバーらしき数字が刻まれている。
報告によると、それはある会員制の宝石店で受注販売されたものだった。
会員名簿から施前花乃霞と言う女性が購入した物であると分かった。
「確に、私が妹の柚乃香に贈ったものです」
聞き込みに伺った際、施前花乃霞は証言してくれた。
施前花乃霞の妹・施前柚乃香は4日前から連絡が取れない状態にありったと言う。自宅にも戻っておらず、友人の家にも行っていないとの事。
廓と相方の塩田将洋巡査部長は4日前の施前柚乃香の足跡を辿る事にした。
――Lapislazuli――