神田雪名
神田雪名:10歳
その日は朝から肌寒く、昼からは雪が降った。
だんだん積もってきて、小さい子供達ははしゃいで外に出てきた声が聞こえる。小さい子供の高い声が私の耳に刺さって痛い。
家の中でも少し寒い。暖房をつけていても、少し離れるとまるで意味がないように寒くなる。
リビングに散らかった服の中から適当に選んで着た。おしゃれな服や高い服は買ってもらえない。それどころか、新しい服なんて着たこともない。
食べ物だって、みんなが言うおいしいものなんて食べたことがない。
すべて、父が働かずに遊んでいるせいだと、母から聞いた。
私は、孤児院から引き取ってくれた父のことが好きだった。けど、その時から私は父が嫌いになった。
ある日、母と父が喧嘩していた。
理由は、幼い私にはわからなかったけど、きっと父が悪いんだと決めつけた。
実際そうだったらしい。
父が浮気をして、浮気相手との間に子供が出来てしまったらしい。
「死ねばいいのに」
幼い私はそう思った。
喧嘩していた翌日の朝、母はこの世にいなかった。
大好きな母の腹部には赤黒い血の跡。となりには血だらけの雨合羽を着た父がいた。
「おはよう、雪名」
その目の中に光はなかった。
「イヤァァっ、離してっ!やだ!」
手に力が入らない。声も思ったように出ない。
「うるせえ!ぶっ殺されたくなかったらおとなしくしてろや!」
この人はもう私の父ではない。この人はもう私の知ってる人ではない。
ベッドに押し付けられて、思うように動けない。
「動くな!おとなしくしろっつってんだろが!殺すぞ!」
手に何かが当たった。
「ふへへ、お前も少しは大きくなったなぁ」
なんでもよかった。
それをつかんで、思い切り投げた。
死ね!死ね!死ね!
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!
「…っぁ、ぅあ……」
かどがとがっているものをたくさん投げたらしく、私の上に乗っている男は血だらけだ。
私も、血だらけだ。
なんとか拘束から逃れて机の上に置いてあるカッターナイフを握った。
その後のことはよく覚えてない。
気がついたら警察にいた。