やっぱり異常
ペースが……(涙)
やはり平日は厳しいですね。
授業中は流石に自重しますし。
あの功一とリリアルの初遭遇から四ヶ月が経った。
今では積極的な元生徒たちは迷宮に入り、自分自身を鍛えつつ迷宮制覇を目指していた。
ここで迷宮について説明しておこう。
迷宮とは主に二つの原因で発生する。
一つは最上位の魔物が住処として作るもので、比較的ではあるが難易度が低く、召喚組はここを攻略している。
もう一つは、最上位の魔物の中でも特に強い魔力の持ち主が、長年住処として使っている、もしくは使っていた場所が変異して迷宮になるものだ。
そして迷宮とその周辺地域を合わせて、ダンジョンと呼ばれている。
これは迷宮から溢れ出た魔獸や魔物が地上のそれらより強いため、名前を付けて他と区別しているだけで地形が変わったりはしない。
そんな召喚組の大半が理由は様々だが命を懸けて戦っている中、功一は――
「これが今回の自信作だ。」
「え?でもこれって普通の火の玉の魔法陣に見えるよ?」
――まだリリアルと魔法を語り合っていた。
「これは、再利用可能な魔法陣なんだよ。陣の魔力を使い切らないように調整してみたんだ。」
「………………(パクパク)」
「リリアル?できればコメントが欲しいんだけど?」
「……はあぁぁぁ……功一には驚かされてばかりだけど、今回のは飛び抜けてるね……」
リリアルは少し疲れた表情をしていた。だが無理もない。魔法の歴史は、まだ500年程度だが大原則として『魔法陣は使い捨て』とされているのだ。
実を言えば、根幹を揺るがす大事件である。
「ま、実用に耐えるものじゃあないけどな。どうやっても火の玉レベルが限界だ。」
「それでも、だよ。これも他の人にはいえないなぁ……功一がお城に住み始めてから私の秘密が凄い勢いで増えてるよ。……ヒルダさんのこともあるし。」
そうなのだ。ここでの会話は1000年先のことを話しているようなもので、他人においそれとは話せなかった。
あと、何故功一が王城で暮らしているのかというと、美優たちに「ついて行かない。あんたの好きにしろ。」と即答されたからだ。功一はこの件でちょっと傷ついていたりするが、それはまた別の話。
「私のことは、やはり問題があるのですか?」
実は初めからずっといたヒルダがリリアルに質問する。
「うん。吸血姫は歴史上存在しなかったし、吸血鬼は滅んだけど人類の敵だったからね。」
「なるほど。だからうっかり出てきちゃったヒルダを見て、メイアが切りかかってきたわけか。」
その罰として、メイアはまた部屋に入れてもらえない状態だったりする。
「あの時は私の注意不足ですみませんでした……」
「あはは……私も改めてメイアの代わりに謝罪するよ。」
「別に謝る必要はないけどな。しかしユピテルには吸血姫はいなかったのか。たしかに真祖以外の女の吸血鬼は下級にしか会ったことはないが……」
「吸血鬼は血を流し込んで同族を増やす種族ですからね。女吸血鬼は重要ではないのです。そんな種族なので未熟なまま戦場に駆り出されて、命を落とす者が大勢いるのです。」
「そういうことか。吸血鬼なら女性を守る必要はないからな。」
「ふぅん……あ、話は逸れちゃったけどさ、ヒルダさんのことは隠した方がいいと思うよ。」
「そだな。騒がしくなっても困るしな」
「では、私は出て来ない方がいいですね。周囲に人がいる間は影から動かないのが最良ですか。」
「そうなるな。バレても俺たちは問題ないけどな。」
「いやいや、しっかり隠してね?大騒ぎになるから。……というか、功一は迷宮には行かないの?お城からも出てないよね?」
「ん~……そろそろかな。ユピテルの魔法も十分わかったし、来月当たり行こうと思ってる。自分のステータスも知れたしな。」
そう言って名刺を二周りほど大きくしたようなプレートを取り出す。
「私、功一のステータスが凄く気になるんだけど。」
「いや~……こればかりは、ちょっとな。」
「ううん。ほいほい見せるようなら逆に心配だしね。」
ステータスプレートを他人に見せることは『信頼の証』とされている。それほどユピテルの人々はステータスを秘匿している。
持ち主の魔力に反応して持ち主の視界に(・・・)情報を写す仕様なので、覗かれる危険性など皆無だが。
ちなみにステータスはF~SSSにプラスとマイナスがついた、27段階である。無駄に細かいが魔獸や魔物にもつける指標だから、幅がないと収まらないらしい。
人間の平均が大体C~Bの間で、最高位の魔物がSS前後のようだ。
(そう考えると俺のステータスは人類を卒業しちゃってるんだよなぁ……)
変わることのないステータスをもう一度見る功一。
―――――――――――――――――――
名前:???
Lv:1
体力:S-
魔力:SS
物攻:SSS-
物防:C
魔攻:SS+
魔防:B-
敏捷:SSS+
運 :F+
―――――――――――――――――――
(ツッコミたい!声を大にしてツッコミたい!!
名前はいい。これは仕方ない。
レベル1ってのもわかる。この世界に来てから一度も戦ってないからな。
でもその下っ!火力だけなら最上位の魔物と同格じゃねぇか!!
しかもユピテル全生物で一番速いとかいろいろおかしいだろ!?
そして運!低過ぎだろ!?こんなんでよく生きて来れたな俺!!)
お前は異常だと、まざまざと見せられ結構ショックな功一だった。
「こ、功一?なんか急に老けてない?」
「精神的に疲れたんだ……。今日はもう帰るわ……。」
「う、うん。えと、お大事にね?」
「ちょっとずれてるけどありがとう。明日には治ってるから心配は無用だ。」
そうして煤けた功一は部屋を出ていった。
~~~side???~~~
深夜。曇り空で辺りが闇に包まれている森の中で、迷いなく進む影があった。
「ここか……」
どうやら目的地は地下迷宮だったようだ。
この地下迷宮は発生して10年と若く、捕食者となる高位の魔物もあまり住み着いていない。ある意味では平和であるが故に、弱小の魔獸ばかりが増え続けている。
そんな好都合な場所は滅多にない。だから昼間は駆け出しの攻略者や召喚組で賑わっているが、今は一人しかいなかった。
「ふぅ……サクッと終わらせるか。」
その一人の人間は、声から察するに男のようだった。
全身を真っ黒の装備で固めて、これまた黒のロングコートを羽織り、腰ほどまである髪は一つにまとめている。
「制限時間は……四時間くらいだな。少し急いだ方がいいな……っし!行くか!!」
男は地下迷宮に躊躇いなく入っていった。
翌日、制覇されて雑魚一匹すらいなくなった“元迷宮”が発見された。
~~~side out~~~
若干、説明回になってしまいました。
進行遅くて本当に申し訳ないです……