理由と予定
急ぐと唐突感が……
難しいものです。
「自己紹介といこうか!」
50歳ほどの男性が会場の前に出て話し始める。
「儂はガイン・フォン・フューゲルバイデ。クライスという国の王をしている。そしてこいつが――」
「リリアル・フォン・フューゲルバイデです。立場はクライス第二王女。あなた方を召喚した者ということになります。」
(やはり王族だったか。テンプレを突き進んでるな……しかし、あの若さであの召喚陣か。一度じっくり話したいが、どうするかな……)
あの召喚陣は功一から見ても凄まじいものだった。だからこそ、術者に話を聞いてみたいと思っていた。
(てか、なんでいきなりフランクになったんだ?……あぁ、ギャップで親しみを、ね。よく使われる手だが……ちっ、狸め。)
引き締まった身体の王、ガインと功一たちと同年代に見える王女、リリアル。
どちらも優れた容姿をしていて、特に男子共はリリアルに見とれていた。……功一は違う理由で見つめていたが。
「……田中クンも、美人なら誰でもいいんですか。見た目が一番ですか。」
(突然何を言い出すんだ、この人は……)
「見た目なら会長とあの王女、いい勝負じゃないですか。」
「そうだけどっ」
「そこは謙遜しましょうよ……」
どんな状況でも緩い二人である。
「では、この世界や召喚した理由についての説明を始めよう――」
国王がやっと説明を始めた。
長ったらしい説明だったので重要な部分を抜粋する。
・この世界は『ユピテル』という名前である。
・ユピテルに大陸は1つしかなく、5つの国が交易しながらも、牽制しあっているらしい。
・やはりこの世界には魔法がある。
・ユピテルと地球には様々な共通点がある。その繋がりを利用したから大規模召喚が成功した。
・ここは所謂“ファンタジー”である。 ・レベルとステータスはあるが、スキルは無いらしい。
・そして召喚した理由は、大陸各地で肥大化し続ける迷宮、つまりダンジョンを制覇して成長を止めてほしいとのことだった。
まさにテンプレ邁進中である。
……で、今は説明も終わり食事もほどほどに、功一は案内された個室(地下もあり600人は余裕だった)の中、一人であることを試していた。
「ヒルダ。ちょっと出てきてくれ。」
……別に妄想が痛い奴ではない。何故なら、功一の影から(・・・)金髪の美女が浮き出てきたからだ。
「お呼びしょうか?タキツ様」
そう伺う美女は黒のドレスを上品に纏っていた。だが人間ではない。折り畳んではいるが隠し切れていない、その翼。それが人ならざる者だと何より雄弁に語っていた。
「うん。用事はないんだが、リンクが切れていないかどうか確かめたかったんだ。」
「あ、世界間転移をしたのですね。少し探ってみましょうか。……あら?直接契約した3人しか繋がっていませんね。」
「……はぁ、そうか。仕方ないな。ま、お前らがいれば十分か。」
「そうですね。そこらにいる奴らに負けるとは思いません。……ところで、これからどうするのでしょうか?」
ヒルダの言葉は正しかった。だからこそ功一も特に注意などもせずに予定を教える。
「高校の連中とはなるべく早く離れたい。だがそれは、あの王女に話を聞けた後でいい。あとは、このユピテルで俺の魔法がどうなるか見ておきたいな。」
「この世界の魔法体系はよろしいので?それにタキツ様が尊敬している方々は、やはり連れて行くのでしょうか?」
「ユピテルで魔法は一般的みたいだし、他で調べられるだろう。あの人たちには、近々出て行くことを伝えておく。そうすりゃ自分で決めるだろ。」
(守るために拉致ったら本末転倒だしな。)
「なるほど。了解しました。では私は影の中で休ませてもらいますね。」
「あぁ、呼び出して済まなかったな。」
「いえいえ、それでは失礼します。」
そうして水に入るかのように影に沈むヒルダ。
「さて、王女様とはどう接触するかな。」
だがリリアルの気を引けるものなどわかるはずもなく。もうストレートに行けば意外と成功するんじゃないか?なんて考えていると、
―――コンコン
「んあ?どちら様で?」
誰かが訪ねて来た。
ドアを開けると、そこには一人の女騎士がいた。
「私はリリアル様直属の騎士、メイアだ。性はないので、メイアと呼んでくれ。」
「直属ってことは、第二王女様の近衛騎士ってやつか。あぁ、俺は功一だ。よろしく、メイア。」
メイアは何故かポカーンとしていた。
「おい、何固まってんだ?おい!」
「………………はっ!?よ、よろしくな、功一。」
「まったく……んで自己紹介しただけでフリーズするかね……」
「いや、済まない……女の身だと下に見られがちでね。普通の対応をされると思っていなかったんだ。」
(なるほど……男社会なわけね。)
「だからそんな似合わない口調なのか。無理しているのがバレバレだぞ?」
「うっ……仕方がないだろう。甘く見られて狙われては意味が――」
「嘘つくなよ、メイア。」
「……なんだと?」
「お前、相当強いだろ?というか意図的に隠してるよな。それに纏っている空気、それは決して弱者が纏うものじゃねぇよ。」
そうなのだ。実を言うとメイアは、全力で戦えばクライス王国で五指に入る実力者だったりする。
一方、見抜かれたメイアは、
「……ふふっ、凄いな貴方は。リリアル様に目を付けられるだけはあるな。」
なんだか嬉しそうだった。
それに気になることも言っていた。
「ん?王女様がどしたん?てかメイアはなんでここに来たんだ?」
賛辞はガン無視で話を進める功一。
「あぁそうだった。リリアル様が気になることがある、と。功一はそれに関わっているらしいぞ?」
(召喚魔法陣のことだろうな。なんたって壊そうとしたし。)
「そうなのか。早めに行った方がいいのかね?」
「都合がよさそうなら、すぐにでも連れて来てほしいと仰っていたぞ。」
(渡りに船だな!まさかむこうから来るとはね……)
「ん~、用事もないし大丈夫かな。待たせるのも恐れ多いし、早速行こうかな。」
「そうか!じゃあ案内する。ついてきてくれ。」
こうして予定よりかなり早く王女リリアルに会うことになった功一だった。
しばらく美優との掛け合いはありません。
他の600人に関しては当分書きません。