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願掛け

 稲穂を揺らす風を受けて僕等は進む。キャンプ場とは湖を挟んで反対側の、田んぼの中を貫く道を山に向かって。

 最も、山、とは言うけれど、別に登る訳じゃなく、湖の対岸に行くだけだけど。

 心地良い風を受けながら、彼女を乗せて僕はべダルを踏む。

 前へ、前へと。

 そうして辿り着いた道は、行き成り上り坂で始まった。

「雅春、いけー!」

「おう!」

 彼女の声援に応えるべく活を入れ、力の限りペダルを踏み付けた。

 だけど途中で力尽きて、結局は押して歩く嵌めに成ったけどね。

「情けない……」

 昔はもっと急坂でも登れたんだけどなあ。

 そんな僕の気持ちを読み取ったのか、彼女は少し意地悪な笑みを見せる。

「運動不足だぞー」

 ちょっぴり辛辣なお言葉を頂戴してしまい、僕は肩を竦めて少しだけ情けない表情を作る。

 そんな動作も彼女にとっては笑いのネタになってしまっただけの様だった。

 ただ、坂道だって何時までも登りる続けるだけじゃない。

 その後には快適な下りが待っている、筈だったのだが、道は無常にも水平を保っていただけで、結局はペダルを漕がないと駄目な様だった。

 でも、登るよりは遥かにいい。

 そして僕達はまた、自転車の上の住人になる。

 日差しを遮る梢の中、澄んだ色と仄かに香る風を感じて、僕達は駆ける。左手には揺らめく光を蓄えた湖を従えて。

 暫く走ると、神社の鳥居が目に留まり、彼女の指がそれを指す。

「あ! そこで止まって!」

 僕がその脇に自転車を止めると、彼女は一目散に駆け出して、神社の境内へと消えて行った。

 その後をゆっくりと追い掛けて僕も鳥居を潜ると、清涼な空気感を漂わせる中、その社は佇んでいた。

 その前では彼女が手を合わせて何事かを祈り、僕も隣に並んで同じ様に手を合わせて祈る。

 彼女とずっと一緒で居られます様に、と。

 僕達は示し合わせた様に同時に顔を上げると、互いにはにかみ合った。

「何をお願いしたの?」

 彼女に聞かれて僕は少しだけ逡巡した後、素直に答える。

「君と一緒に居させてくださいってお願いしたよ」

 彼女の表情が微かに曇った後、それを打ち消すかの様に笑顔の花を咲かせる。ただその笑顔は、少しだけ寂しそうにも見え、僕の心を不安にさせ、そんな心の動きを悟らせまいと、努めて明るい声で同じ質問を返す。

「君は何を?」

 だけど、少し困った顔をされてしまい、それ以上聞く事は出来なかった。

「いこ」

 そのまま振り向く事無く彼女は歩いて行ってしまった。

 木漏れ日に髪を煌かせ、肌を優しく包む秋風を受けながら。

 そんな彼女の背を見詰めながら僕も足を前に出した時、一瞬視線を感じて振り向く。

 でも、そこには誰も居なかった。

 ただその視線は、柔らかく温かみを帯びていた気がしたのが、不思議だった。

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