プロローグ
空は澄み渡り、雲は遥か高みをゆっくりと流れて行く。まだ日差しは夏の色を留め、空気は秋の到来を予感させた。だけど、僕は知っている。この時期は、往々にしてして不思議な事が起こる事を。これは、そんな狭間の季節の話。
夏の間は忙しかった仕事も落ち着きを取り戻し、少しだけ纏まった休みが取れた僕は、ここぞとばかりに、旅に出る計画を立てた。
計画を立てた、とは言っても、行き先だけを決めて、後は自由気ままな一人旅だ。気負う事も無ければ、誰かに気兼ねする必要も無い。そんな自由を満喫する旅。
出発前夜、荷物を纏める僕の心は弾んでいた。
忘れ物が無いか、チェックリストを使い、確認をする。もっとも、忘れても困らない物も有るには有るのだけれど……。でも、それでは旅先で余計な出費をしてしまうし、そんな事で気を揉むなんてしたくない。だから、チェックは入念に、だ。
何も忘れ物が無い事を確認して、僕は眠りに着く。ただし、すぐに寝付けるかは別問題だ。風に吹かれ漂うタンポポの綿毛みたいに、気持ちは浮かれているから。
心の何処かに、何か予感が有った訳じゃない。でも、少しばかり何かを期待していた。
それがあんな形で実現するなんて思いもしなかった。それも、あんな出会いが有るとも知らずに、そして、あんな別れ方も有ると知らないままに。
そんな狭間の季節に、僕は旅に出た。たった三日だけの旅に。
行き先は、子供の頃、一度だけ両親と行った場所。そして、僕はあの子に出会った。