File.1 矛盾
11月末。時刻、8時20分。
カーテンの隙間から朝日が差し込む。薄暗い部屋にその隙間分の光りが今日を伝えに侵入する。その光りに向かって吹かれた煙は反射して薄く白い壁を造り出した。この薄暗い部屋で唯一の光に迷いこんだその煙はあちらこちらと動き続ける。室内に創造された動く白い壁は幻想的にさえ見えた。煙はやがて出口を見つけたのかどこかへと消え、光だけが残った.....
幻想的.....いや、世の中はこの煙を嫌う。こんなにも幻想的な姿を持っているのに。皆、先入観にかられマイナス思考になってしまっているのだ。
知性を持つ人間は物事を批判することができる。あれはダメこれはダメ、だから嫌い、否定。それは表面や一部しか見えていない段階であったり、どこからか聞いた噂であったりと、曖昧である場合でもだ。そんなことで人生に楽しみや幸せが訪れるわけないではないか!!本質や本来の姿を目に映して初めて判断するべきではないのか.....
そしてそれを見つけ理解したとき、最高に楽しいではないか!!人生は短いが、その分楽しいものでなくては。そう、楽しまなければいけないのだ.....
と、人間を真っ向から否定している彼の名は天内修治。この北国に生まれ育った生粋の田舎者である。翌月に訪れる誕生日で21歳になる大学3年生でもあり、なかなか名の通った人物でもある。人当たりの良さというのか、前向きで活発的な態度が、彼を噂にあげる原因だった。そんな修治は今、非常に焦らなければいけない状況にあるはずなのだが.....
ん?8時50分?おっと、こりゃ遅刻だ。またポン吉に怒られんじゃん.....いやいや、それはそれでネタができるから良いとして.....それにしてもだ!!
「今日はやけに冷え込んでやがるなぁ。初雪だな、こりゃ。ははっ、さっさと走れってな」
吸いかけのタバコを消した修治は、朝一の授業に間に合うべく大学へと走った。