その59・狸寝入りで時間を潰すこと
頭が重い。痛い。
全身がだるくて、倦怠感がある。喉が渇いて、鼻と喉の間辺りがどうにも腫れぼったく感じるのだと。
この間、黒液と肌が接触する事件があったので、一応体調の変化を自己申告しておくか――といった心持で体調の不良を楠に訴えた奏は、返された言葉に目を瞬いた。
「風邪……ですか?」
「どこをどう見ても、明らかに風邪だよね?」
そこからは兎も角、早かった。
どうせ元々怪我の療養期間でもあるし、自室で大人しくしていようと思ったのだがあれよあれよという間に飯島がやってきて、奏は何故か楠の研究室へと運び込まれた。
それはどうやら、集中看護の計らいのようで。
出来る事なら付きっ切りで愛娘の看護を行いたい、けれど一応所長としての仕事がある、しかし奏の容体が気になるという事で、飯島は楠へと白羽の矢を立たせたらしかった。
確かに、何と言っても楠は研究室を離れる事が無いので。
何が起きようと逐一奏の看病を行う事が出来るという点において、飯島は最適な人選を行ったと言えるだろう。
しかし一方、たかが風邪ごときで『容体に変化があればすぐさま報告を、そして速やかな健康状態への回復を!』などと過保護すぎる指令を言い渡された楠は、それはもう大層うんざりしたに違いない。
そしてどうにも迷惑をかけている気分しかしない奏は、しかしもう既に二人の間で話はついているらしい状況の中、今更口をだす事が出来なかった。
ついでに言うならそもそも、強引な飯島に逆らう気力もなかった。
“風邪”という単語を意識した途端、なんだか妙に脱力し始めた体に従うよう、大人しく部屋の隅に用意されていた布団に寝かされた彼女は――現在、浅い夢の中にいた。
※ ※ ※
救急車のサイレンが鳴っている。
否、あれはパトカーかもしれないなと、奏は落ちる夕焼けを土手から眺めた。
秋の終わりの風はまだしっとりとした草の匂いを纏っていて、けれどこの時間帯になると『涼しい』というより『冷たい』に近い温度をゆったりとつれて来る。
遠くで鳴り続けているサイレンは結局、パトカーなのか消防車なのか分からなかったが、しかしどちらにしてもその音は夕暮れ時に妙にマッチしていた。
それは、何故か。恐らく、音というよりもそこから連想される回転ランプが、赤いから。
そんな事を考えながら纏っていたパーカーのチャックを少しばかり引き上げれば、右手に巻きつけるように握ったリードの先ががピクリと引かれるのが分かった。
「……何。どうしたの?」
いつの間にやら足を止めていた自分に習い、同じく足を止めてくれていた愛犬の顔を見下ろせば、くりくりとした瞳に真っ直ぐ見上げられ首を傾げる。
恐らくケンタロウは何か物申したいのだろうが、その内容がいまいち伝わってこない。
散歩はいつもローペースで長距離を歩くものなので、それを分かっている彼が先を急がせる理由は無いはずなのだが。
「……ごめん、行こうか」
まぁ、そんな気分の日もあるのだろうと。
小声で話しかけて足を進めれば、これまた珍しく、強く引かれたリードの先が帰路を急いでいるのが分かった。
中学といえば部活。部の先輩とのラブ&コメディー。
そんな事を友人が言っていたが、奏は速やかに帰宅部を選んだ。因みにキャッチフレーズは『俺には帰る家がある』。
ということで速やかに帰って来た家の前、門を開けて庭を突っ切り、玄関先に来る頃にはもう、既に奏は小走りになっていた。
朝晩、長年ケンタロウと長距離散歩を行っていたおかげか息切れはしなかったものの、どうにも違和感が頭の端を過ぎる。
カリカリと催促するように扉を掻くケンタロウを片手で諌めながら鍵を開ければ、空いた玄関の隙間へとモフモフの後姿が身をねじ込むように消えていく。それに慌てて続けば玄関先の廊下の奥、居間へと続く扉の方に、やはり小走りに駆けていく後ろ姿があった。
本当に、一体ケンタロウはどうしたというのか。
何かに急いでいるのは一見にして明らかで、けれどその理由が分からないままに、扉の鍵を閉めて靴を脱いでいると下駄箱の上にある置手紙が目に留まる。
『おかえりなさい。 先日言っていたように今日は少し早めに帰らなければならないので、夕食はテーブルの上においてあります。冷たくなっていたら、チンして食べて下さい。』
どうやら家政婦さんは、今日は早めに帰ってしまったらしい。
そういえば何か用事があると言っていたな、と。お散歩セットを置きながら、家を出る前に台所から見送ってくれた彼女の姿を思いだせば、テーブルの上に置かれているというご飯はまだ温かくてもおかしくなさそうだった。
と、なればチンをするよりも暖かいままのご飯をそのまま食べた方が美味しいに決まっており、瞬時に判断して電気をつけながら居間の方へと早足で向かえば、ふと何故ケンタロウがあんなに急いでいるのかもわかったような気がした。
恐らく、ケンタロウもお腹がすいているんだろう。
ふっと自然に浮かんだ笑みを隠さないままに居間の扉を開けると、ふわんと漂う夕食の香り。自分のお腹がそれに反応してきゅうっと動くのが分かれば、お腹がすいているのは私も同じかと、加えてくすりと苦笑が漏れた。
庭へと出るための大型の窓からは、西日が差しこんでいる。しかし紫に近いそれが部屋の隅までを照らしてくれるとは到底思えず、カチリと居間の電気を灯せば、毎度のごとく丁寧に盛り付けてある夕食がテーブルに乗っている事が分かった。
いつ見ても、なんだか滑稽な光景だ。馬鹿でかいテーブルに、一人分の食事が乗っている様というのは。
しかし、一年のほとんどを海外での仕事で過ごす両親には慣れっこで、けれど見渡しても居間にケンタロウの姿が見えないのは珍しい事で。
となれば、と。広い空間の奥、使用後間もないオーブンが熱を残す台所の中を覗いてみると、やはり居たその姿はやけにそわそわしているように見える。
「あんた……そんなに、お腹すいてるの?」
確かに、今回の散歩はいつもより長距離だったかもしれない。
それだったら少しばかり悪い事をしたかもしれないな、だなんて考えながら、流しに立てかけてあったドックフードの器の水滴を切ろうとした時。
足元から聞こえてきた唸り声を、初めは聞き間違いかと思った。
けれど驚いて反射的に落とした視線により、足元で耳を後ろに寝かせたケンタロウが、身を低くして唸っているという事実が紛れもないものだという事が分かった。
「え。なんで?」
ケンタロウは何と言っても、吠えない・唸らない・咬みつかないといったとても温厚な性格の持ち主だというのに。
しかしそんな異変に対しての動揺を、あっという間に塗り替えるのは次に来る衝撃。
それは、耳を突き抜けるような大きな破砕音。
びくりと竦んだ体に反し、何故か顔だけはまっすぐに音の方へと向いて、そこに居たものに自分は思い知らされることになる。
そう、本当にお腹がすいていたのは、自分でもケンタロウでもなかったのだという事を。
「――言っておくが。これでも私は多忙なのだぞ?」
はっと目を見開いた奏は、暗い視界と顔面に接触する布団の感触に、自分がうつぶせに寝ているのだという事に気が付いた。
息がやけに苦しく、己の心臓がバクバクと大きく鼓動を打っている事が分かる。
「そうは到底見えないけどね?」
「配管の点検、電気の配線チェック、機械に不備が無いかを確認に、壊れた壁の補強――」
「……君、所長より用務員になった方が良かったんじゃない?」
枕から少し顔の向きをずらし、奏は静かにゆったりと深呼吸を繰り返した。
夢の内容はもう既にほとんど頭の中に無く、何故か早鐘を打っている心臓の意味が分からない。
恐らく何か嫌な夢を見ていたのだろうが、その内容は一体何だったか。
思い出せないものより目覚めたときの自らの状況から、奏はやがて『うつぶせに寝ていたせいで酸素が十分に取り込めていなかったのではないか』という中々にありそうな結論に落ち着いた。
「用務員!? 用務員などでは、組織を構築出来んだろう?」
ならば次は状況の確認を、と。
そっと薄目を開けてみれば、残念ながら奏の目の前は壁だった。しかしとても聞き覚えのある声が背後からするところ、状況の把握はとても簡単だ。
恐らく容体を見に来たものの、愛娘が起きていなかったという事で、楠相手に暇潰しを始めた飯島が居るのだろう。
(私が起きた事には……気づいてないっぽいな)
となれば次は、これからどうするか。
しばし自らの今後の行動においての選択肢を脳内で展開してみた奏は、そっとまた目を閉じる事にした。
身体はまだ少しだるいし、眠気も完全に去りきっていない。
「あとな、目安箱の中に『C-4区画の奥が臭いです』とあったから確認に行ったら、お前の第三ラボの中で感染者が腐っていたぞ」
「あ、そう? あはは、そういえば放置してたっけ」
カタカタ、カタカタと。絶えず響いているタイプ音と声色からして、楠が飯島の話に対して上の空だという事はその顔を見ずとも分かる。
それどころか時折“カタカタ”に“カンッカンッ”が混ざっているところからして、キーボードを叩く楠の指先にはなんだか苛立ちが込められているような気すらしてくる奏である。
「お前……あれだけ感染者の管理はきっちり行えと」
「ああ、あれ。もういらないヤツだから大丈夫だよ?」
「そういう話ではない!」
「あはは、うるさいよ? 奏ちゃん、起きちゃうじゃん」
さらっと飯島の鎮静に使用された奏は、瞬時に向けられてきた注視の視線に慌てて息を殺した。
(た、確か寝てる人間って、無意識に腹式呼吸をしているんだっけ)
そんな事を考えながら必死に寝たふりを装う奏は、起きているとバレれば途端に飯島の相手をせねばならなくなる事を知っていた。
全く、風邪の時くらいそっとしておいてくれればいいものの、彼はやたらと自分にかまいたがる。それでも寝ているところを叩き起こされなくなったのは、もしかすると楠が注意してくれたおかげかもしれない。
(……ってか)
飯島は、何かと人の邪魔をし過ぎではないだろうか。
寝ている自分の邪魔をするのもそうだし、黙々と研究を行っている楠の邪魔をするのもそうだ。実際、いま飯島の意識が別の方に向いた途端、楠の作業音はとても軽快なものへと変化している。
(まぁ、実際ちゃんと用事があるときもあるみたいだけど……)
大体において、飯島の用事はくだらないものである。
そして普段、しょっちゅう研究の邪魔をされているというのに、楠は飯島に対し寛容である。
それは一応所長を立てているのかもしれないが、楠にそんな思考が存在するのかは、正直ちょっぴり疑問である――等など。
ウトウトと寝ぼけ交じりの奏は、ぼんやりとした思考に身を任せていた。
しかしそうしてそろそろ再度眠りの世界に飛びたてるかというところで、研究の邪魔を何よりも嫌がる研究者の作業音が、何故か唐突にピタリと止まった。
「……ってか、黒液に感染しなくなる薬って案外簡単なんだよね」
なんですと?
と、至極真っ当なツッコミが己の口から飛び出さなかったことに奏は安堵した。
しかしぽろっと落とされた楠の言葉によって、眠気は彼方へ飛んで行ってしまった。
「……ならば、何が難しいと?」
そして問い返す飯島は、何だか妙にマイペース。
否、彼がマイペースなのはいつもの事で、ギシッと鳴った椅子の背の音からして楠が伸びか何かをした事は明らかで。
「んー……秘密」
「なんだそれは」
実際、その音は楠が腰掛けた椅子をくるくると回転させ始めた音だったのだが、何にしろ衝撃の事実に対し呑気すぎる二人の態度に、奏は多大な疑問符を浮かべた。
どうやら『黒液に感染しなくなる』という人類の悲願は、楠にとって『案外簡単』な事らしい。
それは余りにも衝撃の事実で、とくれば確かに、先程は場違いに思えた飯島の質問も真っ当なものに思えて。
黒液に感染しなくなる薬を作るのが簡単だというのなら、一体何が難しい事なのか。
(……!)
覚醒した頭で速やかに思考を巡らせた奏は、自らがその答えを知っている事に気が付いた。
恐らくは以前言っていた、『感染者を元の人間に戻す』という件。
しかしそんなものより、『案外簡単』だというならば先にさっさと感染しなくなる薬を作ってくれ――と言いたくなる奏は、何だか別に少しばかり気になる事があった。
その違和感の元を辿ればきっと、この感染者に対し興味があるらしい研究者が、しかしそれを大事にはしていないという部分だったのだろう。
用済みとした検体に対して、楠は酷く、ずさんである。
それらを只のゴミとしか思っていないのか、ゴミ箱にきちんと捨てられるだけゴミの方がマシなのか。
捕らえている検体の存在を、忘れたり。
あまりにも容易に、検体を脱走させたり。
そういった『用済み』に対する楠の無頓着さが、少なくとも改めて考えてみた奏には引っかかった。
(ってか……)
保存されているサンプル。放置されている検体。
その時点で楠の興味を引いているのは『黒液』の方で、まだ大事に扱われているのも『黒液』の方に思えて。
(なのに、なんで――)
感染者を元の人間に戻す話をしていた時、楠は真剣だったのか。
感染者という“元・人間”を、大切にしているとは到底思えないのに。
なのに、『黒液』ではなく、『感染者』に対して真剣な理由は--。
「――ってか用事それだけ?どうせ遊びに来るなら、何か面白いもの持ってくるくらいしてくんない?」
引きこもり研究者の中にある例外を考えていた奏は、落とされた声にプチンと思考が途切れるのを感じた。
無音の中での集中は、一度途切れると再びつなぎ直すのが難しい。
「検体放置に対する反省は無しか?!」
「ああ、せっかくなんだからパズルとか持ってきてくれたら良いのに。あれ、程よく気分転換になるんだよね」
「お前とだけはもう二度とパズルはやらん!」
更に。
何やら始まった良く分からない言い合いによって、奏は己の思考の欠片が四方に霧散していくのを感じた。只でさえ風邪で頭は働きにくい状態だというのに、周りがうるさいと考えが纏められる筈がない。
軽く眉根を寄せた奏は、改めて楠は研究妨害をする飯島に対しもう少し怒っても良いように感じる。
「何、まだ根に持ってんの? 気づけば半分越えてたんだからしょうがないじゃん。越えたぶんはまたバラバラにし直したし、何怒ってんの?」
否、やはり楠の方にも問題はあるような気がしてくる奏である。
そういえば現在彼らの話題としてあがっている件について、彼女は飯島から詳しい話を聞かされた事があった。
それによると、元々パズルは半分ずつという分担の元で行われていたらしい。
そして、そのパズルを行うことを、飯島はとても楽しみにしていたらしい。
しかし。
楠は飯島より早くパズルを組み上げ、分担であった筈の半分を超過した挙句、この調子で「あ、ごめーん」とか何とか言って己が組み立てた部分を全て、彼の目の前でバラバラにしたのだという。
「ッ!! ま、まぁ良い。元はと言えば、あれはお前の頭の回転が鈍っていないかの実験だったのでな。結果が得られた事を思えば……」
何やらブツブツ続けている飯島は、得意分野での敗北という、忌まわし過ぎる記憶を何とか宥めようとしているのだろう。
「はいはい。で、話は終わり? ならちょっと出てってくんない? 無駄にブツブツ言ってたら、奏ちゃん起きちゃうし」
そしてやはり気分屋というかマイペースというか自己中な楠の言葉に、まぁもう起きているのだが、と。
内心で妙な気まずさを感じながら言葉を返した奏は、完全に寝るタイミングも起きるタイミングも見失っていた。
こうなったらもう、完全に眠りに落ちるまで不動の狸寝入りを続けるしかなく。
「終わりではない! ……これを見ろ」
ペラリと紙が翻される音に、思わず耳を澄ませてしまった自身に気が付いた奏は、内心で小さくため息をついた。
「前回、何やら民間の者と揉めただろう。今後そういったことが起きないよう、あのあと直ぐに少数で奴らの後を追わせたのだが……それに対する報告書が、それだ」
ヒラリ、と。
また紙が翻る音と、落ちた数秒の無音。
それからして、その報告書とやらを楠が黙読しているのだろう――という事を察しながら狸寝入り続行する奏は、新たに始まった話題に完全に眠れなくなった。
前回もめた民間の者、とは、間違いなくあの男の集団の事である。
「民間の集団も問題ではあるが、これは……思わぬ収穫というべきか。奴が出没するとわかれば、放ってはおけまい」
「ああ、あれか……前もこいつに誰か殺されてなかった?」
しかしどうやら、彼らが注目しているのは民間の集団ではないらしい。
それをワントーン落とされた声から察した奏は今、思い切り聞き耳を立てていた。こうなったら何だか気になる話題でもあるし、いっそとことん盗み聞きしてしまった方が良いだろう。
「ああ。過去に何人か喰われている」
「できれば生け捕りにしてほしいけど、無理かな?」
「無理だな。それに奴を生かしてはおけん」
「やっぱバレるとまずい?」
しかし、何やら良く分からなくなってきた言葉の内容に、奏は壁に向かって眉を寄せた。
こうなったら“奴”が何者で、何をして、何がバレると不味いのか。起きだして問い詰めたい気持ちになるが、そうは出来ないのが狸寝入りの哀しさだ。
そうしてそんなデメリットに奏が歯噛みしているうちにも、上司二名のなんだか真剣な話はさくさくと続いており。
「どこからどう繋がるか分からん以上はな。それに奴が特殊型ではない、とも言いきれん」
「まぁ、ね……これ見る限りは変異型みたいだけど。なーんかあの特殊型見てると、変異型から特殊型への進化、とかも十分あり得る気がしてくるしね」
「あの小僧か……」
新たな発見としては、現在彼らの話題の中心にいるのが何やらの感染者だということ。
それ以外は依然、よく分からないまま。
多分、先の楠の言葉からして、飯島の言った『小僧』とは鴉を指す言葉なのだろうが――と。
なんだか考えても解明できない内容が会話に含まれている気がしてならない奏は、どうにもまた眠気がわいてくるのを感じた。
そう。
風邪とは、呼吸器系の炎症。
そして、冬の季語。
なのでもうすぐ夏という季節に自分が発症したこれは、正確には風邪ではなく知恵熱のはずであり。
ならば頭を使う事はあまりよしておいた方が良いんじゃないか、なんて考えながら目の前の壁を見つめていた奏は、そっと静かにその瞼を閉じた。
それと同時に緩やかに思考も閉じられ、急激に眠気が増していくのが分かる。
「じゃあ次のは奏ちゃんと、河井君も呼ぶの?」
ぼやけ始める思考に辛うじて届いた楠の声に、その通りだと奏は心中で頷いた。
(どうせ、任務になったら呼ばれるんだし――)
今、あれこれ考えなくても良いではないかと。
けれど起きた時覚えていたら、詳しく聞いてみようなどと、冷静に考えれば出来る筈もないことを思いながら、奏は眠りに落ちていく。
ともかく今は知恵熱(風邪)を治すのが先決で、布団をもぞもぞとかぶり直せばもう、己の睡魔に抗う理由は存在しなかった。




