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紅十字  作者: 流音
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先輩視点

 出は絵を描いていた。自分の中にある想いを全てぶつけるように。

 描いても描いてもなくならない想い。人はこれを何と呼ぶのだろう。

 ただ、焦燥にも似た気持ちが込み上げてくるだけなのに。

 筆を奮う度に鋭くなる目付き。

 限界まで細められた、その時。  



「こんにちは」


 

 美術室の扉が開いた。

 一変して穏やかな表情を見せる出。

 筆を置いて声の方へ視線を向けるとそこには吾妻がいた。

 その脇には友達らしき人物。鮮やかな金髪は一目で自然な色だと分かった。



「――こんにちは。その子は友達かな」


 

 どこか見覚えのある顔に気をひかれながら出は口を開いた。


 

「はい、クラスメイトです」

「ども。喜多宗子です」

「宗子! すみません先輩、今日は部活に参加できません」

 


 ふてくされた様子の喜多に吾妻は叱咤した。


 

「いいよ別に。前にも言ったけど、基本的に自由参加だから」


 

 一人の方が集中できるから、とは言わずに出は続ける。

 


「じゃ、気を付けて」


 

 にっこりと微笑む出につられ、吾妻は笑って頷いた。


 

「はい。じゃ、失礼します! さようなら」

「さようなら」


 

 吾妻は背を向けて出ていく。

 その後に続く喜多は、面白くなさそうな顔で一度振り返った。


 

「喜多さんもさようなら」


 

 笑顔のままの出を胡散臭そうな目で見て、何も言わずに出ていった。

 吾妻たちが美術室から出ていった後、出は静かに独り言ちた。

 


「――――急がないと」


 

 描いていた絵が乾いているのを確認し定位置に片付ける。

 戸締まりをし、鞄を持って美術室を出た。

 

 

 



=======================


 

 

 

 

「ただいま」


 

 鞄を持ったまま階段を上る。

 踊り場を右折し、葉月の寝室へ向かう。

 昨日は具合が悪そうだったからまだ寝ているだろう。

 寝室のドアを開けると、ダブルベッドの中央に小さなふくらみがあった。

 それはゆっくりと上下に動いている。

 

 ――熟睡している。

 

 小さな身体を丸めて眠る姿は、幼い子どもそのものだった。

 


「葉月……」


 

 捻り出すように呟きながら、葉月を起こさないよう、ベッドの端にそっと腰かける。

 本当に熟睡しているようで、少しベッドが揺れても起きなかった。

 出は葉月の髪にそっと指を通す。

 さらさらと手触りの良い髪を、上下にゆっくりと解かす。

 


「きっと明日、見つかるからな。

 だから、――あと少しだけ。頑張れ」


 

 囁く声はとても苦しげだった。

 出は葉月の頬を優しく撫で、視線を窓辺に移す。

 部屋にある唯一の窓から見える月は欠けていた。


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