先輩視点
【i】
美術部の後輩になるかもしれない吾妻七生。
彼女に角を曲がるまで見送られ、四宮出は溜め息を吐いた。
今日はいつもより疲れていた。
まさか仮入部に新入生が来るとは考えていなかったのだ。しかも、よりによって自分のいる時間帯に。
仮入部の時間内ではあるが、普通はもっと早い時間に見学するだろう。
だからあえて普段よりも部活に行くのを遅らせていたというのに。
本当に今日は疲れた。
自分は人――特に年下――が苦手なのだ。
これから吾妻の世話をしなければいけないかも、と考えるだけで気が重くなる。
「いや……」
出は頭を振った。
吾妻は他の新入生とは違う。
出は思い出していた。
吾妻が美術部に来たときのボーッとした顔、自分を見つめるオドオドとした表情。内気なのかと思えば校門の前で叫んでいた。
表情があれほどコロコロ変わるのも珍しいと思う。
吾妻のことを考えているといつの間にか自宅に着いていた。
思考を切り替える。目の前のドアを開け、ようやく帰宅する。
スリッパを履き、玄関から続く廊下を抜けてリビングの入口で鞄を下ろした。
「――おかえり」
ゆらりと妖しげに光る深紅の瞳が、同系色のソファ上から出を見ていた。
艶やかな唇は弧を描いている。
「随分ご機嫌だね、イズル」
「そうかな? 気のせいだと思うよ。それよりも」
出はソファに近付き、彼の人の額にそっと手をあてて顔を歪めた。
そして眉根を寄せて不平を口にする。
「まだ熱があるじゃないか。なんで寝ていないんだ」
出が注意しても彼の笑みは変わらない。
「イズルに早く会いたかったんだよ。そんなこともわからない?」
「あなたは……本当に……」
出はソファに片足を掛け、陥るように目の前の人物を抱き締めた。
痩せた小柄な肢体は出の腕にそっと収まる。
出は彼はの首筋に顔を埋めた。少し癖のある黒い髪が耳を擽る。
「俺は貴方が大切なんです。だから――自分を大事にしてください」
力を入れすぎないように。でもできるだけ強く。
その冷たくも熱い身体を抱き締め続けた。
受け入れている彼は子供のような出を否定しない。どこか遠い目をして己よりも大きい頭を撫でてやる。
「ほんとうに仕方のない子だね。――イズル、僕は大丈夫。今はお前がいてくれるからこそ生きていれるんだよ」
「葉月……」
きゅっと一度強く抱き締めてから出は葉月から腕を離した。
自分で今の行動は子供っぽかったと悟っている出。
軽く落ち込む出の頭をもう一度撫でて葉月は美しく微笑んだ。
「さ、元気が出たなら夕飯を作っておいで」
甘みを含んだその言葉。出は吾妻の前では見せなかった無垢な笑顔で頷いた。
合間合間に先輩サイドや、他のキャラサイドの話も挿入していこうと思っています。
先輩はとんだ猫かぶり!
ちなみに、私はショタも好きです。