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紅十字  作者: 流音
3/5

先輩視点

【i】




 美術部の後輩になるかもしれない吾妻七生。

 彼女に角を曲がるまで見送られ、四宮出は溜め息を吐いた。

 今日はいつもより疲れていた。

 まさか仮入部に新入生が来るとは考えていなかったのだ。しかも、よりによって自分のいる時間帯に。

 仮入部の時間内ではあるが、普通はもっと早い時間に見学するだろう。

 だからあえて普段よりも部活に行くのを遅らせていたというのに。

 

 本当に今日は疲れた。

 自分は人――特に年下――が苦手なのだ。

 これから吾妻の世話をしなければいけないかも、と考えるだけで気が重くなる。

 


「いや……」


 

 出は頭を振った。


 吾妻は他の新入生とは違う。

 

 出は思い出していた。

 吾妻が美術部に来たときのボーッとした顔、自分を見つめるオドオドとした表情。内気なのかと思えば校門の前で叫んでいた。

 表情があれほどコロコロ変わるのも珍しいと思う。

 吾妻のことを考えているといつの間にか自宅に着いていた。

 思考を切り替える。目の前のドアを開け、ようやく帰宅する。

 スリッパを履き、玄関から続く廊下を抜けてリビングの入口で鞄を下ろした。

 

 

「――おかえり」



 ゆらりと妖しげに光る深紅の瞳が、同系色のソファ上から出を見ていた。

 艶やかな唇は弧を描いている。



「随分ご機嫌だね、イズル」

「そうかな? 気のせいだと思うよ。それよりも」


 

 出はソファに近付き、彼の人の額にそっと手をあてて顔を歪めた。

 そして眉根を寄せて不平を口にする。

 


「まだ熱があるじゃないか。なんで寝ていないんだ」


 

 出が注意しても彼の笑みは変わらない。


 

「イズルに早く会いたかったんだよ。そんなこともわからない?」

「あなたは……本当に……」

 


 出はソファに片足を掛け、陥るように目の前の人物を抱き締めた。

 痩せた小柄な肢体は出の腕にそっと収まる。

 出は彼はの首筋に顔を埋めた。少し癖のある黒い髪が耳を擽る。



「俺は貴方が大切なんです。だから――自分を大事にしてください」

 

 

 力を入れすぎないように。でもできるだけ強く。

 その冷たくも熱い身体を抱き締め続けた。

 受け入れている彼は子供のような出を否定しない。どこか遠い目をして己よりも大きい頭を撫でてやる。

 


「ほんとうに仕方のない子だね。――イズル、僕は大丈夫。今はお前がいてくれるからこそ生きていれるんだよ」

「葉月……」

 


 きゅっと一度強く抱き締めてから出は葉月(はつき)から腕を離した。

 自分で今の行動は子供っぽかったと悟っている出。

 軽く落ち込む出の頭をもう一度撫でて葉月は美しく微笑んだ。

 


「さ、元気が出たなら夕飯を作っておいで」


 

 甘みを含んだその言葉。出は吾妻の前では見せなかった無垢な笑顔で頷いた。





合間合間に先輩サイドや、他のキャラサイドの話も挿入していこうと思っています。

先輩はとんだ猫かぶり!

ちなみに、私はショタも好きです。

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