罪
僕は小学校三年の時恋を知った。
相手はおかっぱの少し気の強い女の子。
いつも白くて大きな毛むくじゃらの猫を連れていた。
彼女を好きになって僕は男である事を強く意識した。
気の強い彼女だったけど、共働きの両親に構ってもらえない寂しさを
猫を可愛がる事で隠してた。
誰にも言えない悩みを持つ僕と、寂しい思いをしている彼女と
パズルのピースが合うみたいに必然的に惹かれあって、すぐ仲良くなった。
学校が終わってから毎日、
校庭の片隅で僕らは夕日が沈み、暗くなるまで遊んだ。
ブランコを勢いよく漕いで、最高潮の高みからジャンプしたり
ジャングルジムの家の中から、遥か上空流れる空の雲を数えたり
舞い落ちる桜の花びらを拾い集め、風の中、踊りながら歌ったり
飽く事なく、僕らの日常は掛け値無く楽しかった。
こんな穏やかで平和な毎日がいつまでも続くと信じていた。
あの恐ろしい事故が起こった日
僕にはあまり記憶がない。
ただ、あまりに恐ろしくて、ガタガタ震えて
周りの大人達が騒ぎ、大混乱になって
僕は、張り裂けそうな心臓を掴んで震えていた。
葬式がいいつ執り行われたかも解らない。
僕はどこかの病院でガタガタ震え続けた
誰が来て、誰が去ったかも解らず、いく日経ち、何年たったかも解らず
ある日、唐突に「罪だ」と思った。
謝るべき相手はもういない、だから、自分で自分を罰せねばならないと思った。
僕は、病院の屋上を目指し、暗い階段を登った。
一歩一歩進むにつれ、楽になれる気がした。
階段を登り切り、ドアを開けると
真っ青な青空と天高く光る太陽があった。
天へ…
僕は、救われたい一心で金網の柵を登り始めた。いよいよ、乗り越えようとした時
後ろへ強引に引き戻された。
ガシャ~ンと僕が金網から転げ落ちた瞬間大きな音がなった。
振り向くと、そこには凄い形相をしたユイの母親がいた。
僕は恐怖で凍りついた。
殺しにきたんだと思った。
だが、すぐ、これで楽になれると内心安心したようにも思う。
そんな僕の醜い心根を見抜き、ユイの母親は言った。
「殺したりなんかしない…あんたは生きるんだ」
鬼の形相だった。
僕は目を見開いて、蝋人形のようにピクリとも動けずにいた。
「生きて…私の怒りを…受け止めて…もがいて…ずっと苦しむめばいい、ユイにはそれすらもう…できない」
おばさんの言葉は僕を突き刺し
あの、優しかったおばさんにこんな言葉をはかせてしまった事や
ユイへの想いや色んな感情が入り乱れて…僕は…このまま張り裂けてしまいたいと願い
その場にうずくまった。