ノート
大学生ってのは遊んでばかりなイメージが多少あったが、一、二年のうちは、かなり忙しい。
卒業単位を取る為に、朝から晩(は言い過ぎか)まで授業をみっちり受けなくちゃならん。
そう思って、2年目の前期試験までは、俺も一生懸命早起きして大学へ通っていた。
しかし、テストにノートが持ち込める事を知り、そして試験はそんなに難しくない事を知って、やがて、ダレはじめた。
授業に出るより、人にノートを借りる方が多くなった。
授業にでても、広い教室はいつもがらんとしていて、先生もきっちり時間通りにこない。
授業中、前の方に座ってしっかり勉強してるやつと、
後ろに座って寝てるやつ半々くらいで(大学生って、楽だ)と堕落を知った。
しかし、楠木静ってやろうは、嫌味なくらい、勉強熱心だった。いつも最前列にいて授業が終わった後は先生に質問しに行ったりしてやがる。
(つくづく、目立つやつだ)本人に自覚がないとしたら問題だろう。
俺が日当たりのいい窓際でヌクヌクと、そんな事を考えていると堂々と遅刻してきた中西が俺の横に座った。座った拍子に、日当たりが悪くなり一気に俺の心の雲行きは悪くなった。
「せっかく、温かかったのによ」と文句を言うと
大して悪びれもせず
「あ、ごめんごめん、それよりさっ」と軽く無視しやがる。
「統計学のノートはだいたい集まったんだけど、歴史が微妙でさ~哲っちゃん何とかしてよ」
「無理」
「そんな、政経は貸すから」
「う~でも俺もあんま出てないし」
困ったなとふと、前をみると、楠木が目に入った。
「あいつに頼んだら?」
「静ちゃんね~ノート取らない主義なんだって」
「まじっ!?」
「うん。さすがだよね~」
大学でノート取らない奴なんて初めて見た。流石ってか、もう奇妙とすら思える。
「あいつは、学者にでもなるつもりかねぇ」
「さぁ?そう言う訳で、歴史頼むよ」
「お前、友達に頼めよ」
「それが、歴史だけいないんよ~」
「ま、でも、政経あるんだったら、歴史落としても良いんじゃねぇ?」
「いや~安全な道を行きたいのだよ」
「だったら、ちゃんと授業でろよ」
「それは、言いっこなしでしょ^^、じゃ、よろぴく」と云うなり席をたつ。
「おい、もう帰るのかよ」
「おいらを待ってる女子が外にいるのよ、ごめんね~」と風のように去って行った。
楠木を楽しい道へ導くなんて、たいそうな事を言ってたくせに中西は、すぐ彼女をつくりやがった。
ま、厄介な計画が進行しなくてよかったぜ。