罠
「仲よさっげに見えたけど~」と気楽なチャラ西。
「どこがっ!?」焦る俺。
「だってさ~なぁ~に?あのお金」
(ぎくっ!!確かに、確かに、俺はあの時相当、動転していて)
何故やつの枕元に金を置いたか上手く説明できない。
いや、決して、金で解決しようと思った訳じゃなく、人の秘密を勝手に見ちゃってさ
そのすんげ~く、悪い事しちゃったみたいでさ
で、つい無意識に援交のおやじよろしく、あり金を置いて逃げちまったんだ。
そう、そして俺は男らしくなく、まだ奴に謝ってない訳で。
チクチクと俺の良心が痛みだす。
「あれは、貸したんだ」と小さくうめいた。
「頼んだ覚えはないけど?」後ろから俺の良心をザックリ突き刺す言葉が響いた。
(振り向きたくない……けど……チャラ西の顔でもう誰か解るし)
「あっ!静ちゃんじゃん!よっ」
(なんてチャライ、でも今はこのチャラさに乗っかりたい)
「あんた知らないけど、誰」
「あで?俺、同高よ~学年一個上だけど^^」
(浪人かよっ!!なにいきなりカミングアウト根っからのチャラ男めっ)
(しかしそんな事はどうでもいい)
(くそっ、男は度胸だっ!!)と俺はぐるっっと方向転換して奴の顔を見た。
「楠木君、先日は、その、殴って悪かった。でも、あんときはああするしか、いや、そんな事言いたいんじゃなくて」
俺はガバッと頭を下げた。
「すまん、裸みた」
カフェテリアの周囲の和やかな空気が一瞬にして凍りついたのは目で見なくても解る。
ちらほら居た他の学生達は、不自然に緊張して自然を装っていた。
チャラ西は「お~」とか歓声をあげてるし。
楠木は沈黙を守っていたが
「別に、大した事ないだろ」と言った!
(えっ!!大した事ない!?ほんとうか~~~~~!?)
「そ、そうか?悪かったなって」
「いいよ、あの時あんたが止めなきゃ、本当に死んでたかもしんないし一応礼を言おうと思って」
(なんだよ~結構良い奴じゃんか!!)
「いや、そんな礼なんて」
「でも、あんたホモ?絶対僕の事好きにならないでね、じゃ」
と、素敵な捨て台詞を吐いてすたすた歩いて行ってしまいました。
「ぎゃはははははははっ!!」
笑いまくる中西、先輩みたいだけど、殴っていいかな?
「おいっ、黙れよ」
「だって、ひっひ、お前、あんな決死の覚悟で謝ったのに~っ~かわいそ~過ぎるっ」
ぎゃはは、げほっ、げほっと気道を詰まらせむせる。
(どうか、そのまま死んでくれ)
散々な、学園生活初日、俺はめっぽう疲れて家へ帰った。
「ただいま~」
「お帰り。哲、入学式どうだった?やっぱりお母さんついてけばよかったな~」
(冗談は辞めてくれ)
「別に……大した事ねぇよ(入学式はな)」
「そう?お友達できそう?」
(いらないからそんなの、今はもう誰とも深く関わりたくないんだよっ)
「できんだろ、そのうち」
「大学は一生の友達ができるからね^^。4年間楽しんでね」
(一生付いて回らないか、もう不安で一杯だよ)
「あぁ、疲れたから寝る」と俺は階段登って自分の部屋へ向かう。
「え~今日はお寿司よ」となんとも呑気で暖かな母の声。
母ちゃん、おれは知らず知らずのうちに何だか妙な穴に足をつっこんだみたいだぜ。
今まで、挫折とかなく着々と思い通りに生きてきたのにな。
ふっ。人生ってやつは本当に解んねぇ罠がしかけてあるもんだ。
俺は布団に潜り込んだあと、世をはかなみ、グウグウと寝息をたてた。