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白い彼岸花  作者: ばるる
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若芽

次の日、静は…哲と会ったらまず何て挨拶しようか…と

悩みながら朝、家を出た。

電車に乗らず…とぼとぼと歩いて行く。

初夏の日差しもそろそろきつくなってきて…

なるべく日陰を渡り歩く。まだ待ち合わせの時間には十分に早い。


(なんて挨拶しよう…良い天気だね…とか?)



哲にあうのに、こんなに気が重いなんて…

心がモヤモヤといつまでも、すっきりしない。


(どうしよう…)


エンドレスに続く困惑。

色々な事が混じり合って、何がどうなっているか…。

あれやこれや考えて歩くうちに、大学正門へ近づく。



「静っ!」


(え?)


振りむくと、名取君が手を振って追いついてきた。


「今、車で来たんだ。静は歩き?」


思いがけず、名取と会ったので静は言葉を失う。


「なに?どうした?」


名取君が首をかしげて僕の背中に手をまわした。


「あ…あの…名取君…僕…てつと…」



言いかけたその時

哲が無表情で横を通り過ぎたのは同時だった。



(え?)



(なんで?…)



正門を通り過ぎてどんどん離れて行ってしまう哲。

静は、その後ろ姿を目で追いながら…

その場に固まった。



空気にヒビが入ったみたいに…

哲との時空が分かれる。

哲は振り向かない。


(置いていかれた…)


呆然と立ち尽くす静に、名取は困惑する。


「静、どうした?大丈夫か?」


静は無言でうなずくが…

その目からはすでに生気はない。






(嫌いにならないって…言ったのに…)



ぽとりと、涙が落ちる。




「名取君…ごめっ…僕…今日は…学校いかない…」



名取が驚く。


「え?どうして…とりあえず…車で送るよ…」


と優しく静の背中を押す。

静は導かれるまま…名取と車へ向かった。






どうしよう…


どうするのがいいの?


こわい…


もう…哲は…僕が嫌い?



目を見開いたまま…何も発しない静。

名取は、とりあえず…車を出した。


「静……横田君に振り回され過ぎじゃない?」


しばらく無言で運転していた、名取が気遣いながら静に話しかけた。


(振りまわされてる?…違う…)


「あんまり…もう…あいつと関わらない方がいいんじゃない?」


(…関わらない?)


「静とあいつとは…合わないよ。あいつ、勉強好きじゃないし…寝てばっかじゃん何の為に大学きてんだか。遊んでばっかなんだろ、きっと。」


「違うよ…哲はそんな人間じゃないよ。寝てるのは…バイトが大変だから…」



「でもさ、今、バイトなんかして何の意味があるの?教授だって言ってたじゃん。若者がバイトするから、正社員の就職口が減るんだって…大学でて正社員になれなかったら意味ないじゃん。目先の利益より、先見の明だろ…」



静は…名取の言葉に傷つく。


「…そんな…哲は一生懸命…がんばてるのに…そんなこと…言わないで」



「一生懸命がんばっててもな~あいつは、僕らとは違うよ。上へは行けない。」



自信たっぷりと名取は言いきった。



「上?」



(なに言ってるんだろう…名取君…)



「そうさ、静は生徒代表で入学したくらい頭良いんだから、あんな一般人とは違う。僕だって、成績は常にトップクラスだ。僕達はもっと上に行ける。」



静は…自分の言葉に酔っている名取を…冷たく見た。



「名取君…もう…いいよ。僕…ここで降ろして。」



「え?何で?せっかく大学休んだんだから…どこか行こうよ」



「行かない…。」



思いのほか、強く拒絶されて名取は眉をしかめる。



「なんで?」



静は不快感をあらわに…我慢できないといった表情だ。



「なんでだって?…しいて言うなら…僕や哲と、君は違うから。」



赤信号で止まった車から、素早く降り、バンっと思いっきりドアを閉めた。

車の中から、名取が何か言っていたが

静は聞く耳持たない。


自分が馬鹿にされるのは構わない。そんなのは慣れてる。


だけれど…

哲が馬鹿にされるのは我慢できない。



(あんなに…優しくて…思いやりのある…人を…)

(どおして…よく知りもしないで…)



ギリッと静は奥歯を噛んだ。

怒りがおさまらない。



(悔しい)



名取君みたいな考えかたをする人が沢山いる事は知っている。

でも…

知ってたって…受け入れる事なんんか出来っこない。




(哲に…あいたい…)



あの、優しい心に触れたい…


その名を口にするだけで…


怒りも、穢れも…祓われていくよう…


静は走りだした。哲の元へ。













誰も居ない教室で…哲也はぼんやりと外を見ていた。


窓から見えるのは…青く瑞々しい若葉。

天からの光を受けて、光り輝く。

いかにも老木の木から、毎年変わらず若葉は芽吹く…


ちりちりと命の灯が燃えているようだ。


友達でいると…つい昨日言ったばかりなのに…

その舌の根の乾かぬうちから

態度にでちまう。


(まいったな…皆…どうやって…気持ち押えてんだ?)


煙草を一本咥えて…吸いだすと…

気持ちは幾分、落ち着いた。


こうやって…人は少しずつ…

狂ってくのかな…


手に入らないもどかしさに目を逸らして。


煙草の煙がユラユラと、窓から入る外気に揺れる。


2時間目の授業が始まる予鈴が鳴る。


(次は…金融論だったか…)


と振り向いた時、

バンっと勢いよく静が入ってきた。


哲は煙草を、落としそうになり

あわてて…携帯灰皿に押し付けた。



「お…お前…なんでここ…」



猛烈な勢いで静が迫ってきて…ドンっと哲也の胸に飛び込んだ。



「知ってるよ…いっつも哲、空き時間はここにいる」



ぎゅうっと静がしがみつく。



哲也は…その力に少しよろけて、窓辺にもたれかかった。



「どうした?何かあったか?…あいつ…名取は?」



ブンブンと首を振る静。


「いいんだ。もう…他の人なんて…」



「え?」



静がキッと顔をあげて哲也を激しく見た。



「僕…哲が好きだ。」



「…。」



哲也は…思考が停止した。


今さっき、どうやって静を友達視しようかと


想い悩んでいたのに…



(どういう意味で…??????)



「し…しず?」



ぐいっと、静が哲也の紺のシャツの襟首を引っ張った。


哲也の顔が下に持ってかれる。


「あ…」


言いかけた口に、静の唇が重なる。



「!?」



静は背伸びしてふるふると震えながら


真っ赤な顔をして


思いっきり目を瞑って…





俺は…


心が震えた。


しきりにしきりに静が慕わしい…



押えきれない情熱に火が燈る。



俺は力いっぱい静を抱き寄せた。




もう…待ち続けなくていいのか…



心の奥へ押しやっていた想いを…



もう…解放していいのか…



この…ひたすらな恋を…



「しずっ…もう…離さないからな…覚悟しろよ…」


抱き締める腕に力がこもる。身体が熱くなる。


こくこくと真っ赤な顔の静が頷く。




引き返す事も、先へ突っ走ることもできないでいた想いは…



今…ようやく…報われた。




「しず…大学卒業して…独立したら…一緒に暮らそう。約束してくれ…絶対してくれ…たのむ…から…」



「うん。てつ…ずっと一緒にいよう…」



俺は目を瞑ったままの静の頤を片手でくいっと持ち上げ

唇を重ね合わせた。



契りを交わしたうえではもう何も悩まない…



真紅の彼岸花のように激しく燃えるだけだ。



こんなに激しい恋心は知らない。



こんなに大事で、失えないものはない。




思いもかけず色づいて…輝く。



同じ気持ちでいられるという…小さな奇跡が


これほど


これほど…ありがたい事なのか。



芽吹いた想いは…いつか花を散らしたとしてもまたきっと蘇る。

年老いた樹木から何度も何度も若木が生えるように。

この想いも永遠だ。

決して枯れない。




胸に抱いた静を…もう絶対逃がさないと


哲也はただただ強く抱きしめた。














                 ―――――― 完 ――――――




































































こんな長くなるとは本当に予想外で…読んで下さった方には土下座でお礼を言いたいです。ありがとうございました。


恋愛が成就するまでの気持ちのようなものを書きたかったのですが…なんかもう…なんともお恥ずかしいかぎりです。


お付き合いいただいてありがとうございました(TT)。      バルル。










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