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白い彼岸花  作者: ばるる
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幸せ

静はリビングにある食卓に着き、焼かれたトーストを手に持った。

杏ジャムをつけてもそもそと、朝食の食パンをかじり…嚥下した。


対面に座る蓮は、何も言わず…

机の上に足を組んで乗せ、テレビを見ながら食パンに齧りついている。


(…行儀悪い…)


「蓮さん…足」


ぼそっと、静が注意する。


「ん?あ~ま、後で降ろす。」


と蓮はテレビを見たまま返事する。



「…後でって…もぅ」


静ははぁ~っと溜息を吐いた。

あんな説教した後で、こんな基本がなってないってどうなんだろう。

ちゃんとしてる時はかっこいいのに。

箸の持ち方とか、鉛筆の持ち方とか…蓮は細かい事に囚われるのを嫌う。

同居をし始めた最初の頃、静は蓮に何度か注意をした。

だが返って来るのは


「うん。お前の言う事はもっともだ。お前は正しい。だがな、考えてみろ。ルールは誰かが作ったもんだ?。その誰かをお前は知ってるか?俺は知らん。よって、知らん奴のルールに従うのはどうかと疑問に思う訳だ。箸の持ち方にしたってな、そいつのやりやすいルールな訳だろ?だったら、俺はこの持ち方が一番食べやすい。そもそも人間食べる事が大事だ。手づかみで食べてる国だってある。それをだ、持ち方どうのを気にして味が解らなくなったら本末転倒だ。そうだろ?そう思うだろ?ん?違うか?俺はそう思う。だからこれでいいんだ。」


と延々と続く屁理屈が帰ってくる。

はぁ~っと、もう一度溜息を吐くと。


「あ…幸せが…あっちに」と蓮が外を見る。


「いいですよ…逃げた幸せなんて…」


「ばか、幸せは心に縛り付けとかないと、浮かばれないんだぞ」


「そうですか…じゃ後で捕まえておきます。」


「うむ。そうしたまえ。」


「さ~て、面倒だが、大学へ行くか。」と蓮さんは伸びをした。



…僕も、大学へ行こう。


行って、てつともう一度話して…



そこからまた考えよう。







電車で一駅。静は大学の正門をくぐった。

てつが引っ越してから、待ち合わせは正門横だった。

いつもの時間、いつもの場所に哲の姿はない。

静はまた小さくため息を吐きそうになって、あわてて口を押えた。



(大丈夫…授業が始まれば会える。)



教室へ向かう。

だが、予鈴がなっても哲也は姿を現さなかった。



(今日は来ないのかな…)


事業中も、ソワソワと何度も後ろの席を振り向いてみたけれど…

哲也は教室に現れなかった。


午前中の授業が終わり…静は哲也の姿を探して構内を歩いた。

5階建てのマンションのような建物が、8棟。5つの食堂、大聖堂、図書館、体育館。

倶楽部の部室や球場、道場、茶室…静の通う大学は広い。

たった一人を目で探すのは至難だ。

それでも…静はじっと待っていられなくて

時間の許す限り、哲が行きそうな場所をさがした。

第3食堂に入ると…お昼時、ごった返すフロアに見知った茶髪を見つけた。


「中西さんっ」


静が駆け寄る。

中西は飲みかけたカフェモカを、口から離しテーブルに置いた。


「あれ?静ちゃん…よくここ解ったね。」


示し合わしてでもいない限り、知り合いに会うのは難しいのだ。


「うん…てつを探してるんだけど…」


と言うと、中西はあ~っと残念そうに


「あいつ、今日は休んでるよ…熱がまだ…えっと~」


これ以上言ったら、静が心配すると思ったのか目線をそらそうとした。



「熱…どれくらいあるの?医者は?」


静は段々不安になってきて…矢継ぎ早に質問する。


「ん~、下がってきたとは思うけど…医者は…今日行ったのかな?」


どうも、よく知らないらしい。



「解った。僕、てつの家に行ってみる。」


「え?も…もう行くの?答えでたの?」


静の顔がパッと赤くなった…


「出てないよ。…でも…ほっとけないよ」



「待って、まって、静ちゃん」


あわてて、中西は静の腕を掴んだ。




「行ったら駄目だよ…もうちょっと考えて…」


「考えたって…答えでないよ。昨日ずっと考えてたけど…」


静がうつむく。



「直接、もう一度…話ししたい。」


中西は迷う。


(どうしよぅ…今の静ちゃん…まだ哲に惚れてるって感じないんだけど…)



「えっと…でも…」


何か言いたげな中西を振り切って静は食堂を出た。



中西はすぐ、哲也に電話しようと思った

けど…

携帯の番号をみつめてためらう。


(うまく行くかもしれない…駄目になるかもしれない…)

(でも…決めるのは…二人だ…)


そのまま携帯を机に置き…座って、カフェオレを口に含んだ。


(俺が動くのは…てっちゃんが助け求めてからでいい)


願わくは…あの二人が解りあえますように…祈るだけだ。








哲のアパートは大学から15分程度の距離。静は急ぐ。



倒れてたらどうしよう…



熱がもっと上がってたらどうしよう…



なんで朝行かなかったんだ…



走りなれないから、心臓が悲鳴を上げる。


足がもたつく。


それでも懸命に静は走った。


少しでも早くてつの元に行きたくて。



ようやく、哲也のアパートに到着した。



ピンポーンとインターホンを鳴らす。返事はない。



「てつ?いるんでしょ?あけて」


コンコンとドアを叩く。


中で何か音がして、足音が玄関に近づく。



「…静か?」


てつの声が聞こえた。


「そうだよ、ね、開けてよ…てつ」


僕はドアノブを掴んで回す。鍵がかかっていて開かない。



少しの沈黙の後


カチッと音がして、鍵が開いた。


僕は勢い余って部屋に入り、てつの胸に飛び込む。


「あ…ごめん…」


顔を上げると、少し困った顔のてつがいた。




「熱は?てつ…」


僕は咄嗟に庇って抱きかかえてくれた、てつの腕を掴む。


(…熱い)


「まだ、熱高い…ごめん、呼んで…早く寝て」


焦って、ぐいぐい哲をひっぱって、寝床に押し倒す。



「大丈夫だよ…」


ゴホッと咳をする哲也。


「それより…お前は?風邪…移んなかったか?」


「僕は大丈夫だよ。薬は?」


「飲んだ…」



「そっか…良かった。」


ほっと安堵の吐息。



そして、今の状況にハッとする。


哲を布団に押し付け、上に覆いかぶさるような体勢…



「…!!」あわわっと…声にならない声を出して哲から離れる。



「ご…ごごめん」声が裏返る。



哲がプイっと視線を反らす。


「いや…別に…」



(しまった…話しって言っても…どこから…)


僕は動揺で何しに来たか解らなくなって



何か…せねばとオロオロと部屋を見渡す。


「ご…ご飯は?」


「食欲ねぇ…」


「…。」



重い沈黙。



真っ赤になって固まっている静。



(なんか…俺…いじめてるみてぇ…)



「静…大丈夫だから…帰れよ。」


「で…でも…」




うつむいて、動かない。





哲也は静から、視線をはずし…


天井をみた。



(昨日の今日で…静の気持ちに変化があったとは思えない。)


今日はただ、自分の風邪を心配して…来てしまったんだろう…と


哲也は思った。



「しず…俺の気持ちは…変わらない。…お前は…俺とどうありたい?」



答えの解っている判決を聞くような…


波風の立たない穏やかな気持ちで聞けた。






真っ赤な顔をした静は…やがて顔色を無くして…



「…僕は…てつと…友達で…いたい…」と



小さな声で呟いた。





(…やっぱりな…)





「そうか…。解った。」


俺は…その塩酸のような静の答えを…のみ込まざる得なかった。




「…いろいろ言ってごめんな。友達でいるよう…努力するよ。」


俺は…用意していた台詞を口にした。



静がばっと顔を上げて俺を見る。


心細そうな顔で…



(馬鹿だな…しず…もう…そんな顔…俺に見せるな…)



俺は一度、きゅっと目を瞑り…


静にできるだけの笑顔を向けた。



「もう、気にするな。明日は学校へ行く。また門のとこで待っててくれ。


今から気合いれて寝て治すから…お前はもう帰れ。な?」



「ほんとう…?僕の事…嫌いにならない?」



「なんねぇよ。何、しけた面してんだよ…熱あんのは俺だぜ?元気だせって」



「てつ…」


黒い大きな瞳が、俺をじっと見る。


何か言いたそうで…でも、きっと俺の欲しい言葉はでてこない。




「もう寝るぜ…おやすみ静。明日な。」



俺はわざと目を瞑った。



静が動く気配。



「うん。てつ…じゃ、明日…よく寝てね…。」



玄関のドアの閉まる音。



(この気持ちに…どうやってケリをつけようか…)


(薬のんだら…あいつへの熱も…下がると良いのに…)




俺は…そのまま…深い眠りに入った。




哲也の部屋から出て…


静はドキドキとなる心臓を押えた。



(てつは…解ってくれた?本当に…ずっと友達でいてくれる?)



でも…なんだろう…


心に小さな穴が開いたみたいに…


スースー風が吹く。


なんで?



これで良いはずなのに…



これが最良なはずなのに…



何で…幸せな気分にならないんだ…?



僕の中の幸せは…何処へ…行ったんだろう…?





静は戸惑う心を抱かえて…帰途につく。


















































































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