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白い彼岸花  作者: ばるる
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別れ

唇を離すと…そこには…静の戸惑いに揺れる瞳があった。


俺は…その瞳を直視しながら…

自分の気持ちにブレーキを無理やりかけた。


「…俺…熱あるんだ…移るから…お前…もう帰れ…」


口でそう言っても…体は静を離したがらない。

熱のある手で…静の頬を優しく撫ぜる…


もう一度…キスしたら…こいつ…怒るかな…

静の頬を包み込み…少し開いたままで固まっている唇を親指でなぞる。


静の瞳がはっと大きくなり俺を見つめ…そしてゆっくり目を閉じた。


「…ほんとだ…熱い…」


俺の手の熱さを頬で感じて…

呟いて、開いた瞳には…もう戸惑いの色はなかった。


「こんな哲を置いて帰るなんて…できない…」


きっぱりと、静はそう言った。




俺達は、鍵を開けて…部屋に入った。荷物を玄関に放り出して…

敷きっぱなしの蒲団の上に静を抱かえて座った。



外はあんなに生温かい空気なのに…鉄筋コンクリートのアパートの部屋は

むしろ寒いくらいに冷えていた。



それとも…俺に熱があるせいで寒く感じるのか…

まとまらない頭は…腕の中の静に答えを求めた。



「…熱くねぇ?」


「ん…てつは、熱いよ…部屋は寒いくらい…」


白い綺麗な手が俺のおでこに伸びてきて、熱を下げようとする。

俺はその手をつかんで…指先にキスをした。


「てつ…眠ったほうが…」



明りのついていない部屋の中に

月明かりが入って…薄ぼんやりと照らされ

静の心配そうな瞳が黒く光る。



「うん…」


静を引き寄せて…首筋にキスをした。



こんな…甘い時間…流れつづけたら…

俺…どうにかなっちまう…

こいつの気持ち…無視して…

無茶苦茶しちまう…


大事にしたい…


きっとまだこいつは…俺に恋愛感情なんか…持ってない…

流されたら…

何もかも

駄目になる…



「傍に…いてくれよ…」


俺は静の耳元で呻いた。


「いるよ…てつがいなくなったら…変になる…置いて…いかないで」


静のプライドもなにもかも捨て去った言葉が俺の胸に降り積もる。


「俺…お前が本当に大事だ…誰よりも…」


ずっと一緒にいたい…


「だから…まっててくれ…俺…お前を…奪いにいくから…」


「待たなきゃいけないの?僕…てつに傍にいて欲しい…」


すがる静が、キュッと俺のシャツをつかんで離さない。



…でも…友達として傍にいるんじゃ駄目なんだ…

俺の想いと静の想いは違う…

気付いて欲しい…

俺が…どんな目でお前を見ているか…


同じ目で俺を見つめて欲しい…そおしたら…どんなに幸せだろう…



「静…俺…もう…お前と友達でいられない…」


静が身を固くする。


「なんで…てつ…!?」



俺は静の両腕を掴んで、まるで駄々っ子に言い聞かせるみたいに

ゆっくりと伝えた。


「でも、一番お前が大事な事に変わりはない…これからもずっと…変わらない…その意味を…考えて欲しい…」



「…いみ?」


静が解らないというふうに俺に答えを求める。



俺は…静を振り切るように立ちあがり、携帯を鞄から取り出して…


中西に電話をかけた。



「中西?…わりぃんだけど…車回してくんない?」


「どうしたの?なんかあった?…いいよ。すぐ行く」


「わりぃな」



電話を切って振り向くと、静が固まったまま俺を見ていた。


傷ついた瞳をして…。



「しず…中西が来るから…お前…家に帰れ。」


「なんで…てつ…」


静には解らない…何故哲也が急にこんな事を言って自分を突き放すのか…


友達でいられないなんて…


混乱しすぎて…体が震える。


失うんだろうか…また…


せっかく…仲良くなれたのに…


また…僕は…



苦しげな哲也の姿が、さらに静を傷つける。



やっぱり…自分は厄介者だったのだろうか…


てつは…面倒になったんだろうか…


僕が…おかしいから…?



気持ちが解らない…


怖い…


暗い瞳にもどっていく静。



「しずっ、考えてくれ…俺が欲しいなら…考えてくれ。頼むから…。俺からはもう…ケジメつくまで会いに行かないから…」



「嫌だ…なんで…」


つめよっても、てつは苦しそうに、頼むから…考えてくれと繰り返す。


解らない…なんでこのままじゃ駄目なんだろう…


づっとこのままでなんでいけないの?


解らない…



ピンポンとインターホンが鳴った。てつが離れて玄関へ行く。


中西さんが、ちらっと見えて…てつは僕を残して


部屋を出た。




扉を閉めて、


俺は血走った眼で中西に手早く説明する。



「すまん…静を…家に送ってやってくれ…」


中西くらいにしか頼めない。


「…解った。大丈夫…静ちゃんは…きっと気付くよ。お前は…寝ろ。」


とぽんと肩を叩く。

こういう時、こいつの悟りの速さにいつも救われる。


「わりぃ…頼む。」


「あぁ。」



中西が俺の部屋の中に入っていった。


俺は…そのまま少し…部屋を離れる事にした。











































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