戸惑い
(何だよ…静の奴…あんな奴と仲良くしやがって…)
はぁ~と重いため息をはく。
(これじゃまるで小学生のヤキモチだ…)
静を独占したくて、自分だけを見ていて欲しいなんて…
(俺って…独占力強いんだな…知らなかった…)自分の感情に戸惑う。
でも、友達でいる間は、静が誰と仲良くしようが…黙ってみてるしかない。
(そもそも…俺がどうこう言う権利も…ない…)
静が…誰か他の奴好きになっても…友達でいる以上…
指をくわえてみてるしかない…
(でもそんなの堪えられねぇ。見たくねぇ)
あいつがちょっと誰かに笑うだけでも嫌なのに…
(どうしよう…俺…こんなに…静を好きになっちまって…)
告白しないで、振られる事なんて考えてなかった…
そもそも静は自分を男だと思ってるんだ…男の俺を恋愛観する事なんて…あるのか?
静が俺に求めてるものって…ユイとは違う?
「友達」であれば…それでいいんだろうか…
急に寒気がした。腕をみると夏だってのに鳥肌…
妙に怠い。授業に出たくない…
俺は…自分のアパートへ向けて歩き出した。
先生に、友達でいて欲しいと言われたのは…あれは…
もしかして静の気持ちそのものだったのかな…
依存どうのこうのより…
静は俺に恋愛なんて求めないってことじゃ…
(参ったな…)
こんな事に今更気づくなんて…
間抜けで笑えてくるぜ…
何で俺…静とずっと一緒にいられるなんて…
そんな確信…どこにあるってんだ。
このまま…友達でいたら…そのうち…静と別れがくる…
それは…きっと…俺の方から…
静を混乱させたくない…
でも好きな気持ちのままそばにいるなんて…苦しい…
どうすれば…
(あ~なんか頭痛くなってきた。)
(一旦家に帰…)ふと時計を見れば、バイトに行く時間…
急いで仕事場の、丸英スーパーへ向かう。
今日は客が少ない…
ぼんやり仕事してたら
チーフの高倉さんに腕を捕まれた。
「横田君?大丈夫?」
「何がですか?」
「何がって…君…傾いてるんだけど…えっ!ちょっと熱あるじゃない!」
俺はあまりに目が回るのでその場にしゃがみ込んだ。
「横田君、もう上がっていいから…ちょっと…」
俺は高倉さんともう一人誰かに
両脇抱えられて控室へ運ばれる。
「…すいません…」
「いいから、とりあえず薬飲んで…家誰かいる?」
「いない…ひとりです…」
俺はそう答えた後、不覚にも意識を失った。
静が誰かと歩いている…
これは夢だと何処かで解っているのに
目を逸らせない。
待てと、引きとめる事もできず
俺は金縛りにあったみたいに
動けない
行かないで欲しい
傍にいて欲しい
俺の…
静に向かって手を伸ばしたところで
急激に意識が混乱し
明りが差し込む。
目を開けると、控室の天井が視界に入った。
おでこに絞ったタオルが乗っている。
「?」
それを取ろうとした時、手に生暖かい物を感じた、
みると…高倉さんが俺にもたれかかるように座っている。
「え?」
高倉さんが気づいて顔を上げた。
「あ、横田君…良かった…もぅ、酷い熱で…」と涙目だ。
喉がからからで声がでない。
「お水のむ?」
バタバタと台所の冷蔵庫からペットボトルをもってきてくれた。
俺は渡された水をガブガブ飲む。
「俺…まさか気を失ったんですか?」
「そうよ!酷い熱で…君、脳みそ沸騰しちゃうかと思ったわ」と笑う。
「すみません…俺…あ、バイト…」
時計を見るともう11時を回っている。
立ち上がろうとすると、高倉さんが止めた。
「まだ無理しちゃだめよ。ってか君…無理しすぎ…どうしてそんなに働くの?まだ学生なのに…」
「…俺…守りたいやつがいて…そんために…早く自立しなきゃって…」
まだ頭がもうろうとしている…頭を押さえながら…
傍にいる高倉さんが…あんまりにも優しいので…
相談したいのもあって…心の内の混乱を吐きだした。
「でも…空回りしてたのかな…もしかしたら…俺じゃなくても…良かったのかも…」
吐きだすうちにどんどん弱気になってくる。
「たまたま最初にみつけたのが…俺だっただけで…これからいくらでも…あいつを好きになる奴なんか…いっぱい出てくる…」
やばい…なんか…泣けてきた…
俺は腕で目元を隠す。
傍で聞いていた高倉さんがそんな事ないと俺に言った。
「そんな事ないでしょ…横田君がそんなに一生懸命護ろうとしてる子…絶対横田君を必要だと思ってるよ。大丈夫だって…どおしたの~横田君…」
眉毛を下げて、高倉さんが必死で慰めてくれる。
「熱があると、マイナス思考になるから…今は色々考えちゃだめよ。もう、帰って寝なさい。タクシー呼んだから。明日もバイト休んでいいから。ね。」
そうなのかも…熱のせいなのかな…
こんなに気持ちが沈むのは…初めてで…
俺は頷いて、起き上がった。
頭がクラクラする。
高倉さんが支えてくれる。
小さな好意が嬉しい。
なんか…一人で…家に帰るのが…寂しい…
「ありがとうございます…」
ちろりと、小さな体で俺を支える高倉さんを見た。
見返して、俺を心配そうに見つめる高倉さんの口から…
「家…いっしょに行こうか?」
と躊躇いがちな小さな声が漏れた。
一緒に…いて欲しい…俺は一瞬心の中でそう思った。
でも…
「大丈夫っすよ…寝れば治ります。」と精いっぱいの強がりを見せた。
「そう?何かあったら構わず電話してね。」
タクシーに乗り込んだ俺に、念を押す。
「はい。ありがとうございます…」おれは素直に頷いて
ドアを閉めて…目を瞑った。
タクシーの座席ってのは…ひんやり冷たくてフカフカしていて…
眠気をさそう。
俺は自宅に着くまでの数分…眠ってしまったようだ。
「お客さん、着きましたよ。」
「あ、はい。」
お金を出そうとすると
もう前金をもらったとの事。領収書だけを受け取った。
車を降りると…
生温かい風が俺を包む。
薄ぼんやりと光る蛍光灯に照らされたアパート
自分の部屋のカギを取り出して
アーケードをくぐると
ドアの前に誰かが座りこんでいる。
「!?…しず?」
静がばっと顔を上げた。
「てつ…よかった…」
立ちあがって、俺の胸に飛び込んできた。
ドンと俺にしがみつく。震えている。
「てつ…急にいなくなるから…僕…不安…で…」
「あ…」
俺は…なんて馬鹿なんだろう…何も言わず姿をけしたら…
静は心配するにきまってるのに…
こんなに…震えて…
俺はぎゅっと静を抱きしめた。
「ごめん…心配させて…ごめん」
腕のなかで頭を振る静…
「…てつが無事なら…いいんだ…なんか…変だったから…」
顔を上げて俺を見上げた。
目には薄ら涙がたまっていて…すがりつく…静があんまり可愛くて…
俺は…
静の頬を片手で包んで…惹かれるままに…キスをした。
静の唇は柔らかくて…俺をずっと心配していたからか…ひんやりと冷たかった。