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白い彼岸花  作者: ばるる
34/42

先生の病室を出た後、俺は静の病室へ向かう。

コンコンとノックして「し~ず~、入るぞ」とドアを開けた。


「どうぞ」と返事したのは…蓮だった…。俺の顔が一気に強張る。


「よっ!」


何の悪びれもない顔で蓮が俺に手を上げてあいさつする。


「てめっ!!…よくもノコノコとっ!!」


俺はギリッと奥歯を噛みしめ怒りを抑える。



「やだなぁ、怒んなよ~ジョークじゃん」


「ジョークじゃすまねぇだろっ…医者なんて騙るなよっ!!」


静がオロオロと俺と蓮のやり取りを心配する。



「だって…信じると思わなかったんだもん」


「だもんじゃねぇ」


こわ~いとか言って静に抱きつく。

(…離れろ!…)



「お前、そんなんで美大の助教授なんて…それすら信じられん」


「え~静、何とか言ってやってよ」


なんなんだ…こいつのキャラは…まったく掴めない。



「ぁ…あの、てつ、本当なんだよ…蓮さん、本当に昔っから絵上手くて…」


しどろもどろと静が間に入る。



「助教授っていったら、生徒に教えたりすんだろ?勤まるのかよ…」


「ふ、僕の大学を甘くみないでくれ。皆、変わり物さ」胸を張って言いきる蓮。


(…嫌だ…そんな大学…)



っはぁ~っと溜息を吐いてひとまず俺は黙る。

唐突に静が話題を変えようと必死で、口を開く。


「あのね、てつ、僕…退院したら、蓮さんのマンションにお世話になる事になったんだ。」


なんて…可愛い口から、


しかし、


とんでもない言葉が紡ぎだされた。



「なっ!!」


ショックのあまり、俺は固まった。視界ににやつく蓮の顔が…



「白金台だし…大学も近いから…。」



(…白金でマンション…なんて嫌味な野郎だ…)


(くそっ…負けた…完全に負けた…)


俺の燃えたぎった心はすでに灰色の敗北感で…

ぷすぷすと残り火がくすぶる程度のダメージだ。



「そ…そうか…一人で住むより…居ないよりは…居た方がましだもんな…そうか」


なんとか、平静を装って言葉を絞り出す。



「…ましって。」と蓮がくすりと笑う。



俺は、あまりの動揺に…一人暮らしの話も何もかも静に言うのを忘れ

トイレに行くと、部屋を出た。



(なんだろう…この心の靄は…)


(すっごく嫌な気分だぜ…)


「うぇ…なんか気持ち悪りぃ」



自販機で林檎ジュースを買って一気飲みする。



「…おいっ」と背後に誰か立った。


ここが闘技場なら、即座に左足を振り上げ回し蹴りをくらわすところだ…



「…なんですか」俺はむす~っと振り向く。



「んな、怖い顔すんなって…目つき悪いなぁ」


蓮が、俺の顔をみるなり文句を言う。


(…大きなお世話だ)



「ま、静を一人で家に置いとけないだろ~。それに兄貴…結婚すっかもしんないし居ずらいだろ」


と近くの窓をガラガラっと開けて、煙草を取り出し、口に咥えた。



「静の親…アメリカ行ったきりなんですか?静の事…」


(心配じゃないのか…?そんな親…いるんだろうか…)


蓮は煙草をふかしながら



「あぁ。帰って来ないな…ま、俺がいるから安心してんだろ。」


と言ってふ~っと息を吐く。

白い煙がザワザワと揺れる木の葉の中を漂う。



「静…親とうまくいってねぇの?」



俺はずっと思っていた事を聞いてみた。



「あ~まぁな。家庭には色々あっから。…ま、なんて言うか…兄貴は頑固でさ。昔堅気っていうか…静を…女として育てたかったみたいでな…」


「…。」



(なるほど…もめる訳だ。静もけっこう頑固だから…)


(建前なんか…適当に…本音を隠す事知らないから…)



「ジレンマっすね…」


俺はぽつりと呟いた。




たぶん…傷つけたい訳じゃなくて…思い合っての事でも…不一致は波紋を呼ぶ。



「ま、俺がなんとかするさ。身内だからな。」


と煙草を携帯灰皿に押し付けた。

…そこらへんの常識はあって俺も多少ほっとする。

煙草をかっこつけて道に捨てるやついっぱいいるからな…

捨てた煙草は土に帰らねぇのに。


蓮は、お前もいるか?と煙草をさしだす。

俺は首を振った。


そういや、静に煙草を取り上げられてから…吸って無いっけ。



「静…煙草嫌いだろ?」俺は蓮に聞いた。


「ん?あぁ。そんな事言ってたな。…昔、静が育ててた花壇に心無い誰かが煙草の吸殻を捨てたんだとか…そんで嫌いになったって言ってたな。」



俺はふっと笑った。…静らしい…。



「お前、煙草吸わないんだっけ?」と蓮がちろっと俺をみた。


「ん…吸う時もあったけど…もぉいいや、吸わなくて。」



「尽くすタイプだな…」とくくくっと蓮が笑う。



俺はムッとしたが、確かにそうだと思うので



一緒にははっと笑った。




「俺、自立したら、あんたんとこから、静奪うぜ」


そう言って、俺は蓮の胸に拳をトンっとつけた。



蓮はにやっとまた笑って


「あぁ。あんまり待たせんなよ…」


トンと、俺の胸に拳を返した。














































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