誓い
静の病院へ向かう電車の中、俺は考える。
(…静と住むとなると、やっぱり1DKじゃ駄目だよな)
(やっぱ、学生のうちは無理か…)
それに、一緒に住んで自分の気持ちが抑えられる理性が俺にあるかどうか………。たぶん…いや…かなりの確率で…ない。断言できてしまうあたり…同居はただ自分の首絞めるだけだよな。
(でも…いつか…一緒に住みたい。)
静が依存するからって、でももう静なしの人生なんて考えられないくらい俺は静中心に生きてる。
それだって依存だ。依存が全て悪い訳じゃない。生きる力になる。
だから…本気で
静とずっといる為に…依存も良意味でとらえて…一緒に生きていきたい。
俺はそんな風に考えていた。
大学、卒業して、働いて、金溜めて…マンション移ったら…告白しよう。
まず、自立しないとな。
そうしなきゃ、静を支えてなんて言うのもおこがましい。
俺が全部しょいこめるくらいにならなきゃ…きっと周りも納得してくれない。
「よっしゃ、やるぜ」俺は心の中で拳を天へつき上げる。
静の病院へ着いて受付を済ます。
とりあえず、先生に会ってから病室へ行けるか聞かないと。
先生は個室にいるという事で
俺は、そこへ向かった。
コンコンとノックして部屋に入る。
「こんにちは。先生、今いいですか?」
「横田君、こんにちは。静君のお見舞いですか?おや?何か良い事ありましたか?」
と俺の顔をみるなり聞いた。
(流石、精神科医…あなどれない)
「ええ。実は一人暮らしする事になりました。」
「ほ~。なぜ?」
「親が名古屋に転勤になったんで…」
「そう。なるほど。じゃ、これから色々忙しいですね。」
確かに。バイトもしないといけないし、家事洗濯すべて自分でやらないと。
「そうですね…冬休みの内にバイト探さなきゃ。」
「そうですか。頑張ってくださいね。静君は大丈夫ですよ。安定してる。このままいけば早くて3学期からまた大学へ通えるでしょう。」
「本当ですか?…良かった」
「ええ。良い夢を見れたらしいですね。夢って意外と大事でね。
静君は少し自分を許せたのでしょう。小さいようで大きな一歩です。」
「はい。俺もそう思います。」
俺は手にきゅっと力を込めて、先生にさっきの決意を話そうと思った。
「先生、実は俺…大学卒業して、働いて、きちんと自立できたら…静と一緒に暮らしたいんです」
俺は、先生の返事を待つ間、たいそう緊張して、武者震いのように体が震えた。
「そうですか…。」先生は呟いて言葉を区切り、真摯な瞳で俺を見た。
「解りました。…君は静君のすべてを受け入れる準備をこれからすると言うのですね?」
「はい。」
「静君の病気は目に見えない…いつか重りに感じる事もあるかもしれない…ですが、君がそう言うなら…僕もそのつもりでサポートしていきます。だが、この事はまだ静君には言わないでいただけますか?」
「もちろんです。…まだ何も初めてないので…」と俺は顔を赤らめる。
先生は頷く。
「大丈夫。焦る必要はない。気持ちが大事なんですよ。静君は良い伴侶を手に入れた。」
…伴侶!…俺の心にポッと「伴侶」と云う言葉が光り輝く。
…一生をともなう連れあい…
「はい…。俺…頑張ります。…静がどう言うか解らないけど…俺、静の伴侶になりたい。」
先生に誓いを立てる。
窓から差し込む光が、神々しく…白い壁に囲まれた部屋はまるで教会の様だ。
神父よろしく、先生の言葉にもありがたみを感じる。
「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも……富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすこと…ですね。その気持ち、確かに受け取りました。頑張りましょう。」
先生が手を出し、握手を俺に求めた。
俺はガシッとその手を掴む。
先生の手は肉厚で柔らかく…温かだった。
先生の許しは得た。これでもう前に進むだけだ。