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白い彼岸花  作者: ばるる
32/42

物件

次の日、俺は静の病院へ行く前に不動産屋へ行ってみる事にした。

不動産屋ってのは、割合駅の近くに沢山あるもんだ

目に着いた、黄色い看板の「デカデカ」ってショップに入ってみた。

ちらほらと、親同伴の新米学生が店員と話こんでいる。


恰幅の良い、小男なんて言っては失礼だが…

それ以外に表現しようのない背の小さな太った男が俺を見つけた。


「いりゃっしゃいませ~」とにこやかな笑顔をはりつけて


いそいそと、接客に出てくる。

途中、積んである書類に腹があたり、崩れそうになり

デスクにすわっていた若い女性に眉をしかめられる。

ほんの数歩あるいただけでもう汗をかいている。


…俺はなんとなく他の人が担当の方が良いような気がした。


着席を進められ、「お部屋お探しですか?」と脂っぽい笑顔を向ける。


「…はい。目黒近辺で、月5万で探してるんですが…」


そうすると、男はうんうんと目を輝かせた。


「月5じゃ、探すの大変でしょ~学生さん?」


「はい。大学2年なんですが…親が名古屋に引っ越すので…」


「そう~大変だね。よし、じゃ、いっしょに探していきましょ!大丈夫。良い物件あるよ。」


と、意外と頼もしい返事が帰ってきた。



男は、お茶を持ってこようと、また細い通路を今度は書類に注意しつつ器用に腹を凹ませ通る。

片手にお茶、両脇に書類を挟み、帰ってきて

俺の前にドスンと座った。


「私、小出こいでと申します。宜しくおねがいします」


と高い声で名刺を差し出す。

俺はぺこっと頭を下げ、


「こちらこそ宜しくお願いします」


とありきたりな返事を返した。


「目黒近辺、月5ね。今、ざっと資料持ってきたんだけど…」


と分厚いファイルからパサパサと手際良く、俺の希望に合うものを取り出す。

6件程、机に並べられ俺は目を通す。小出さんは、パソコンをカタカタといじり

すぐまた、5件の情報を引き出す。


「僕もね~学生のころは、月4万のアパートでね…鍵もろくに掛からないような所にすんでてね苦労したんだよ~。住む所って大事と思って、この仕事着いたんだ~」


と流暢に話す。

最初の頼りなげな印象とは違い、なかなか親切で仕事も早い。


「どうかな…今んとここれくらいかな~目黒だと…」


「う~ん…」


俺はなんせ、初めてなんで、どう見て良いか解らない。



「近辺の違う駅のも出す?」


「いや…大学の近くであれば…」


「そうね、いちいち電車乗るの面倒だもんね。」



と、目の前の資料を吟味する。


「ポイントとしては、ま、日当たりと風呂トイレ別とか…キッチンは有る方がいいよね?」


「いや…飯作ったりしないと思うんですけど…」


小出さんは、ばっと顔をあげた。


「えっ!絶対有る方がいいよ。家に友達呼んだ時、有る方が鍋とかできて楽しいよ」


「…。」


「せめて小さくてもある方が良いって。」


熱心に言うので…


「…じゃ…キッチンありで…」俺も受け入れざる得なかった。



そうこうするうち、3件に絞り込み、実際に物件を見に行こうと車へ。

運転しながら、小出さんは話続ける。


「大学って、3年のゼミが始まってからが楽しいよ~横田君これからだね。ゼミはね、少人数のゼミ選んだ方がいいよ。」


「でも、少人数のゼミって、単位とるの難しいって聞いたんですけど…」


「そんな事ないって~。少人数の方が先生と仲良くなれるし、団結力があるし何より勉強も集中できて楽しいんだよ。」


「そうなんですか。勉強か…」


小出さんは、くふふと笑う。


「横田君、勉強嫌い?」


「ええ。」


「3年からの勉強は教養じゃないから、面白くなるよ。」


「へ~そうなんすか」


「うん。僕も勉強なんかしたくないと思ったけどさ、教授と仲良くなると、もっともっと色んな事知りたくなってさ…気が付くと随分みっちり勉強したよ。」


「すごいっすね」


「そこが、少人数の魅力なんだって。団体で勉強なんかしないでしょ~。僕のゼミ6人だったんだけど皆がのめり込んで研究するから、僕も頑張ってさ。人生であんなに勉強したの初めてだったなぁ。今でも皆と仲良くてね、毎年一回は会うんだ。いわば、同志を得たって言うかね、尊敬する師に巡り合えるっていうのは…一生の宝だよ。」



ふ~ん…俺は、いつの間にか熱く語る小出さんを好ましく思うようになっていた。

少人数ゼミ…静も、入りたいって言ってた。一緒に伊藤ゼミに入ろうって言ったら喜ぶかな。

一軒目の物件に到着した。

小出さんは部屋の鍵をポストから取り出し扉を開ける。


「うわ~」と感動的な声をあげてみるものの…狭い…!


「ここの大家さんは、良い方でね、家賃敷金礼金ゼロ。狭いけど、キッチンあるしバスは部屋にあるけど、トイレは共用。どうかな~」


「う~ちょっと狭いっすねぇ」


「そうね、君でかいしね…身長いくつ?」


「179です」


「か~いいね。もてるでしょ~良い体格してるし、なかなかハンサムだもんな~」


「…いえ…」


小出さんは、バンバンと俺の背中を羨ましそうに叩く。


「この~、彼女の一人や二人いるんでしょ?色男っ」


「…いや…好きな奴はいるけど…」


「お、結構奥手?な~に、もう、話聞きたくなっちゃうな。おっと、いかん次次。」



自分で話振っといて、いそいそと部屋を出る。

鍵をかけて、またポストにコトンと入れる。

なるほど、現地にくれば部屋を見れる仕組みなんだなぁ。


「次んとこは、ロフトあるからちょっと広く感じると思うよ。ただ、一階なんだけど…ま、男だから防犯大丈夫だよね。」


「はい。そういうのは、気にしないです。」


「よし、行こう行こう。」



次の物件は、2階建て。一階の部屋へ入る。


「日当たり良いし、キッチンあるし。バストイレユニットだけど…荷物はロフトだね」


「お~広いっすね。ここいいな」


「気に入った?押さえようか?」


「え…すぐに決めないと駄目っすか?」


「ん?そんな事ないよ~。でも、気に入ったら押さえないと良いのはすぐ売れちゃってね。押さえるだけ押さえとこっか。」


「はい。お願いします。」



は~いと、景気良く返事してすぐ、携帯で店に電話をかける。


「小出です。Bの53物件押えてください、はい。お願いします」


「おっけ~。じゃ次いこっか。」


さくさくと良く動くのに、この人がやせないのは…家に立派なキッチンがあるせいだと思う。

3件めは、駅から一番遠くて、共同バスなのが気に入らなかった。

俺は、2軒目のアパートに決める事にした。

契約は、また後日。



俺は小出さんと別れ、その足で静の病院に向かう。

























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