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白い彼岸花  作者: ばるる
31/42

穀潰し


その頃…


――――――横田家(哲也の家)では――――――

哲也の父、栄次郎が帰宅し、妻佳代子に栄転の話をしていた。



「かぁさん、来年の4月から、名古屋の本社に転勤の話があるんだ。」


「まぁ!名古屋!嬉しいわ…昇進なの?」佳代子がパンっと両手を合わせる。


「あぁ。やっと部長だ。こないだの企画が通ってな。」


「凄いわ~!今日はビールもう一本おまけね。」


「で、お前どうする?哲也の大学、まだあるしこっちに残るか?」


「冗談でしょ、行くわよ。あの子もう大学2年よ一人で大丈夫よ。名古屋は私の故郷よ。友達だってあっちの方が多いのだもの。嬉しいわ~。本社に行くって事はもう当分こっちには帰らないんでしょ?」


「あぁ…もうあっちに落ち着くくらいの気持ちで良いかもな」


栄次郎があごひげを撫ぜながら呟く。


「そうね…元々、こちらに親戚もいないし…いっそ家をあちらに買いましょうか。」


「ふむ。俺の親もそろそろ年だしな…名古屋で落ち着いた方が喜ぶだろうな。」



栄次郎も佳代子も実家は愛知県である。栄次郎の転勤で6年前に東京に来たのだが、

佳代子は住みなれた名古屋に帰りたくて仕方なかった。


そんな訳で…哲也に何の御相談なしに、とんとん拍子に話が進み、

4月には名古屋移住でまとまりつつあった。





夜の11時過ぎ、哲也は静の病院から家へ帰宅する。

リビングに入ると、いつもならもう寝ている父が、母と何やら話しこんでいた。


「ただいま~親父まだ起きてんの?」


振り向いた親父と、母ちゃんは、目を爛々と輝かせていた。


「おかえり、哲~お話があるの!!」


かぁちゃんが、待ってましたとばかりに話始める。


「なんだよ…?」


異常に興奮気味の両親にちょっと引きつつ、リビングの椅子に座る。


「実はね、お父さんが名古屋に転勤になってね、私達も名古屋に帰るからあんた、どっか住むとこ探しなさい。部長よ!部長に昇進なの!」


「はっ?…何言って…この家どうすんだよ?」


「売る。」


「…。」



(なんてこった…。どうなってんだこの親は…。)



「そんな売るって…いつから…名古屋行くんだよ?」


(…こいつら…俺の事心配じゃない訳?)



「4月から勤務だから、2、3月にはもう名古屋に住むとこみつけないとな~」


と親父も嬉しそうだ。



「俺…何処に住めば良いんだよ…」


「そんなの、自分で探しなさい、家賃は5万までね」母が畳み掛ける。


「そんな…5万って…あんのか?東京だぞ…この家置いてってくれよ」


「馬鹿ね、家を持つってのは維持費がかかるのよ。あんたが働いて払ってくれるなら良いけど、今は穀潰しに近いんだから文句言うんじゃないわよ。」


「ぐっ…」俺はひきつった。


「まぁ、カァさん、穀潰しは酷いよ…無駄飯食いって言ったってまだ、学生なんだから」


なだめるように親父が間に入る


(…どっちも同じ意味じゃねぇか…。)



こほんっと、咳をワザとらしくして母ちゃんは



「ま、そんな訳だから…あんたは晴れて一人暮らしができるのよ。良かったじゃない。大学生にもなって、親と同居してるなんて、自由を半分捨ててるようなものよ母さんも、お父さんも、大学生の頃は一人暮らしだったわ。自立しなさい。自立。」



(…あんまりだ…ひでぇ…)


「でもよぉ…そんな急に…」


ぶつぶつ文句を言う俺にお構いなしに、新居の話に花を咲かせる両親…

はぁ…と溜息吐いて、もうこれ以上今話合う気力を無くし、俺は風呂へ入る事にした。



(参ったなぁ…。)



湯船につかり…俺はモクモクと天井に上がる湯気を見ながら考える。



住むとこって…面倒な事になっちまったな…

2、3月って一番入居大変な時期じゃん…5万って…

部長に昇進すんだったら、もっと上げてくれよ…

参ったな…

静だっていつ退院するか解らないのに…


(ん?…静?)



俺はふと…本当にふっと、

…良からぬ…よこしまな思いがムクムクと俺の胸の内に立ち上るのを感じた。


(…静に相談したら…一緒に住もうなんて…言わないかな……?)


顔が自然と笑う…。

いや、決して、病み上がりの静をどうこうなんて事考えてないけどさ…

友達としてだ、友達。

ルームシェアなんて…誰でもやってるし…

でも、でも…一緒に住んだら、



「てつ…寂しいから一緒に寝よう」なんて言われたりして…



ぐはっ、駄目だ!!そんなのダメだっ…俺の馬鹿っ!!



湯船の中でバタバタと暴れ、尻がすべって、湯につかり水を飲み込む

ゲホッ、ゲホッっと咽ながら…俺はまだニヤついていた。




















































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